何も知らない僕たちは
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グワアアアアア!
「ぐっ…指鉄砲!」
チュンッ
「鬼太郎!」
「はい!」
パシッ
「………!俺は一体…」
「よかった、戻りましたね」
例の謎のお札を調査している二人。だがぶり返しを起こしている妖怪はそれほど多くなく、難航していた。
『恐らくあのお札が何か関係していると思うのですが…』
『うむ、次に会うときがあればそこを狙ってみるといいかもしれん』
「鬼太郎、お札から僅かじゃが妖気を感じる!」
「…!確かに…」
「これがはがれたときに妖怪は正気を取り戻した。元凶はこれで間違いないじゃろう。いわゆるコアのようなもの」
「これがコア…あ…」
またしてもお札は塵となって消えた
「身元を特定されないために妖気がなくなると、あるいはとりつく相手がいなくなると消えるようじゃな。よくできておる」
「……けれどこのままじゃ誰も救えない…」
「こんなことができるのは恐らく陰陽師の人間だけじゃ。あてのある人物から聞き込みをするしかないのぉ」
目玉おやじは悩まし気に腕組みをする。これを解決するのに一体どれだけの労力と時間がかかるのだろう
「もしかして鬼太郎か?俺は今何があったんだ!?」
「誰かに操られて凶暴になっていたんだ。やっぱりその時の記憶はないみたいだね。
記憶が飛ぶ前に何か覚えてることはない?襲った人の顔を見たり…とか」
「…………申し訳ねえ、どうも思い出せねえや」
「そっか…」
「そうか、おれがここを荒らしたんだな…おまえにも傷を負わせて」
「あ、」
そこで初めて自分の顔に傷があることに気が付いた。乱戦で意識していなかった
「いやいや、大丈夫。これぐらい日常茶飯事だし三日ぐらいで瘡蓋になるよ」
「すまんな、助けてもらったのになんの手助けにもなれなくて」
鬼太郎はその時の俯きが気がかりだった。
『この件…一歩間違えれば被害を被った妖怪に矛先が向くかもしれない…
目的は一体…
僕たちだって懸命に生きてるのにそれを邪魔する人間って…』(ギリ…
「いや、違う…」
「?」
その怒りは一度沈めた。自分が幽霊族でなければ理性を保つことは容易ではなかっただろう。だが、踏みとどまった。カヲルのことを思い出したからだ
『人間だってそんな人ばかりじゃない。確かに都合のいい奴が僕に助けを請うことだってあるけど、そんな中でカヲルちゃんみたいな好意的な人がいる。僅かなことを糧に生きていくことは他のみんなも同じじゃないか』
「日も落ちてきたし、そろそろ帰るとするか」
「そうですね、買い物も済ませなきゃ…」
地面と自分の下駄が擦れてカラコロと鳴る音を聞きながら、ふと考えていた。
もし自分が人間を嫌いになったとして、カヲルちゃんが取り返しのつかないような極悪人になったとしたら…自分はカヲルちゃんを殺すなんてことできるのか、と
『……無理だなぁ。
だってカヲルちゃんのこと好きだもん』
「ただいま」
家に帰るとカヲルは本を読んでいた。集中しているらしく気が付いていない
「カヲルちゃん」
頭を撫でるとこちらを振り向く。パッと顔を輝かせて抱き着いてきた
「わ!カヲルちゃん!?」
もしかして帰るの遅かったから寂しかったのかなと思っていたらカヲルに顔を埋められた胸元から微かな振動を感じた。まさかなと思いつつ顔を下げるとカヲルは満面の笑みで見つめる
「………ア…を……おあえり」
言った…喋った…
初めて聞いたカヲルの声はかすれていて、それでいて愛があった。
「あ、ああ…」
驚きと感動の余り自分も喃語のような言葉が出てしまった。そして泣きながら力の限り抱き締めた
この気持ちは小さな子供を育てる母親に近いものだった。安心感よりも愛情が体からにじみ出ているのがわかる
カヲルは鬼太郎が喜んでいることがわかると鬼太郎の肩の上で何度も何度も
おあえり、おあえりと嬉しそうに言い続けた
ごめんなさいカヲルちゃんのお母さん。貴方が一番にもらうべき感動を僕が取ってしまいました。けど安心して下さい。貴方が生前愛したカヲルちゃんは元気です。真面目で、努力家で…
カヲルちゃんの心はまだ完全に曇り切っていない。どうか自分が殺してしまったなんて思わないでください。カヲルちゃんはこんなにも愛されているんですから
「うん、ただいまカヲルちゃん!」
彼女の幸せは自分の幸せ。この子がいる間は当分人間を嫌いになれない鬼太郎だった
「ん、どうしたの?」
カヲルが自分の顔を痛ましげに見つめるので気になった。カヲルは鬼太郎の頬を親指で拭った
「あ、これ?さっき戦ってた時にできた傷。大丈夫、大したケガはしてないから…ねえ、カヲルちゃん?聞いてる?」
カヲルはそんな話は全く聞いてない様子で引き出しをごそごそ漁り始めた。そして一枚の絆創膏を勝手に傷に貼った。
少し怒り顔でぽかぽか叩いてくるものだから焦る
「………ははは、ごめんごめん。わかってる、次は気を付けるから…
そういえば何読んでたの?」
言葉を理解するとカヲルは本を見せてくれた
「…”簡単!にほんごの喋り方”…?」
カヲルの顔を見るとカヲルは手を使って話し始めた。カヲルは最近このように会話をすることが多くなった。彼女曰く確実に伝えたいことはノートに書くけど別にどちらでもいいときはニュアンスが伝わればいいと。
「………ははは、大変だったんだね」
「何を言ってるのかわかるのか?」
「いいえ、多分喋り方の練習をしてたようですけど、今日覚えられたのは一個だけだって伝えてるのかと」
「分かりずらい時はないのか?」
「そりゃあ全然ありますよ。けど、カヲルちゃんが自分の言語で話してくれるのは心を開いている証拠だと思うので…嬉しいです。
あ、でもこっちに無理に合わせようとしなくていいんだからね!今の状態で不便だなんて僕は全然思ってないから」
カヲルはなぜか少し不貞腐れた
おまけ要素
「それにしても言葉が伝わらなくとも大体のことが理解できてしまうとは人間は不思議じゃのう」
「僕たちと言うほど差はありませんよ」
買い出しをしていた二人はふと電化製品の店のショウウィンドウに足を止めた。最近入荷された大きなテレビが何台も積まれていた。全ての画面に同じ映像が映し出されている。よくよく考えたらこの光景は異様だ
「む、鬼太郎どうした?」
「あ、いや気になるものがあって……少し寄り道していいですか?」
たどり着いたのは古本屋。ジャンルの在庫の確信があったのかすぐにお目当てのものを見つけレジへ早々と向かった
「ふう、今日は手紙もないし平和じゃのう…」
「毎日こんな感じだとありがたいんですが…」
「む…お前が読書なんて珍しい。頭でも打ったのか?」
「失礼ですね…知りたいことがあったので」
「?」
その時に散歩から帰ってきたカヲルが入ってきた。ある程度の距離であれば外出は許可されている
「カヲルちゃんお帰り」
しかしカヲルは鬼太郎が持っている本を見るや否や驚いた表情で駆け寄る
「な、何!?…あ、これ?最近買ったんだよ。もっと君の事知りたかったから」
にこっと彼女の微笑みかけるも、本人は決して嬉しそうな顔ではなかった。寧ろ辛いような、苦しいような表情…
「どうしたの?」
彼女はちゃぶ台の上のノートへと彼を引っ張る
(どうしてこんなことしたの?)
(どうしてって?)
(なんで手話なんて学ぼうとしてるの!?)
古本屋で購入した本のイラストが容易さを物語っている。前の持ち主が何度もこれを開いたのだろう、あえて他のものとは年季が入っている物を選んだ
(僕の好みだよ)
(嘘つかないで!貴方のお人よしは知ってるんだから
私が頑張って喋れるようにしてることが憐れに思ったんでしょ!?)
「…」
(それは違うよ。
もちろん君が話す努力をしているのは驚いたし、そこまでしなくてもいいんじゃないかと思ってた。けど、あの時のカヲルちゃんは、言葉を発していたカヲルちゃんは凄く嬉しそうだったから、努力してるっていうより、カヲルちゃんのやりたいことだと思うんだ
君はどうせ生活に支障がないようにとかって思ってるんだろうけど)
「…」
(僕は見守ることにしてる。その上でこれはやってみたいと思ったから、僕の好みは間違ってないよ)
「…」
(電気屋さん通ったときにね、テレビで丁度手話の内容をやっていたのを見たんだ。その時すぐにカヲルちゃんの事を思い出したよ、あれはちゃんと意味と言葉があって意思疎通ができるんだって。そしたら急にカヲルちゃんと話したくなって、分かりたくなってさ…
だって好きな人の事を知りたいのは当然でしょう?)
「…!」
(我ながら単純だとは思ったけど、カヲルちゃんも僕も努力してるしお互いフェアだし別にいいかなって)
「ってカヲルちゃん?」
カヲルは頬を赤く染めてそっぽを向きながら包丁でものを切るようなしぐさをした
鬼太郎は驚いていたが次第に微笑みカヲルを包み込んだ
ーそれは”ありがとう”のsignー
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