黄色い花の冠を君へ
名前
ノエラモンスター
ガスター博士に作られた娘
受動的な性格
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ある日、この地下世界にニンゲンが落ちてきた。少年だ。
「これから仲良くして頂戴ね、ノエラ」
ニコニコと私に紹介するママの横で少年の目は怪しく光った気がした。
今思えば、その時に気が付けばよかったんだ。
遺跡は余りにも静かだった。静かすぎた。ここには私達だけで過ごしている訳ではない。そうだ、もっと沢山、友達がいたのに…
「ノエラ」
「……ナプ!」
声の主はナプスタブルークだった。声をかけるとスッと姿を現した。彼に少し強引に聞き出した
「みんながいない…ここまで静かだったことなんてないよ…
何処に行ったの?」
ナプは少し悲しそうな目をして答えた
「死ンジャッタ…」
「え」
「コロサレテ、塵ニナチャッタ…」
し、死んだ…?脳裏に蘇る、ここでのみんなの記憶
「ノエラ!」
「また演奏聞かせてくれよ!」
「ッ…」
「殺シタノハ、アノニンゲンダッタ…」
「…!」
「ボクハゴーストダカラ無事デイラレタンダケド…逆ニ助ケルコトモデキナカッタ……」
ニンゲン…!ママが連れてきて…それで…
何なの…奴の恨みを買った覚えは一切ない。こんな無差別な事って……
あいつは、この穴に落ちたのではなく、”落ちてきた”のだ…!
「アイツ、ノエラガドウノコウノッテ、言ッテタ」
「え?」
「キット、何カ関係シテルンダ。ココカラ逃ゲタホウガイイ」
「で、でもママは…」
「アノニンゲン、アノヒトガ連レテ来タンデショ?ダッタラ説得スルニハ時間ガカカルヨ。親ヲ捨テテデモ逃ゲナキャ…君ガ死ンジャウ…
ソレダケハ絶対ニ嫌ダ」
揺らがないその表情が、今は一番強く思えた。
「お別れ…なの?」
「ソレハキットボクガ言ウコトダヨ。アイツハ皆殺シニスル。ソシタラ、本当ニ、ボクダケニナッチャウ…」
「ナプ…」
「アリガトウ、ノエラ。君トノ時間ワスレナイヨ
走ッテ!ボクガ何トカ時間ヲ稼グ!!」
私は溢れる涙を拭わないまま遺跡の出口へ一目散に向かった。ママに、さよならも言わずに
駆けこむ当てはなかったが、外へ出ればもう雪景色だ。
サンズの元へ向かい、事情を話す。遺跡で大変なことになっていいること、ママとお別れもしないまま置き去りにした事、そして、きっとママは殺されてしまう事。私は泣き喚いた。
サンズは私を暫く家でかくまらせ、外の様子を時々報告してくれた
「ノエラ」
ノックがしたドアに耳を傾ける
「さっき遺跡の前まで行ってきた」
「……そう…それで…?」
「おばさんの返事は、……なかった」
「……」
「多分、死んだ」
「……そっか…
ありがとう、サンズ」
「何がだ?」
「付き合いも短いのに匿ってくれたこととか…外の事、教えてくれた事とか…まあ、色々」
その日の夜は眠れなかった。あの日程、罪の意識を感じた時間はなかっただろう。
私は…本当にこのまま生きてていいんだろうか…
数日後、その時は来てしまった。
「ノエラ、スノーフルの町の前の奴らがパタリと消えた。こっちはもう避難してる奴もいる。
オイラはパピルスと一緒に様子を見てくる。ここからは一歩も出るなよ?
お前さんの言った、”奴”が来るぞ」
あの目を思い出すと、とたんに寒気がするようになってしまった。身を潜め、布団にくるまってじっとしている。大丈夫、家の中は鍵があるから見つからない。分かっていても、身の震えは止まらなかった
ザク…ザク…
雪を踏む音が一定に聞こえる。こちらに、来ている。
心臓の音が激しく鳴る。
バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバクバク
雪の音は、次第に遠くなっていった。どうやら町を隅々まで探している訳じゃないらしい
助かった……
それにしても、様子を見に行ったサンズ達は大丈夫だろうか…
姿はもうない仲間たちの断末魔が脳裏に響く。
いや、行ってはいけない。それが彼との約束だから
サンズは血相を変えて戻って来た。弟は?と聞こうとしたが彼の手には彼のお気に入りだった真っ赤なスカーフが、絞られるように握り締められていた
「王宮へ向かうぞ」
それだけ言うと、部屋のドアを閉めた
渡し守さんの船に揺られながら、向かうはホットランド。
「サンズ…」
未だスカーフを握りしめている彼に静かに話しかけた
「あいつは……最後まであのニンゲンを信じていた。
だから、いつまで経ってもロイヤルガードになんかなれないんだ。優し過ぎるんだ、あいつは…」
「…」
長い長いエレベーターの中、王宮に着いたとてこれからどうするというのだろう。奴は必ずここへ来る。王様に助けを求めるのか?
ここもいずれ…
「…サンズ、今は放っておくのが一番危険だよ…」
その言葉で彼の青いパーカーがピクリと動いた気がした。お互いラボ出だから分かる。ニンゲンの持つケツイの脅威、レベルオブバイオレンスの力。終着点でもあろうここに奴がやって来た時、困るのは私達の方だ
「…」
彼は、何も言わなかった
たどり着いたのは大回廊。この先に王、パパがいる筈だ
ここで足を止めた。
「?」
「ここで食い止める」
「どうやって…?」
左手をスッと掲げると、背後に”ガスターブラスター”が現れる。おとうさんが作った兵器だった
「これでもオイラは審判の役目を持っててね」
「さぼり癖のくせに?」
「ああ、お前さんの親父からの任命でな」
「…!」
「今までのニンゲンの行いを顧み、それ相応の道を与える。言わば執行人だよ」
だから、最期に立っていなくちゃならない。そう言いたいのだろう。父の形見である竜の頭の骨を模った白いブラスターを撫でてやると、くるるると小さく声を上げた
「奥で隠れてろ。あいつが回廊に来たときは、”全てが終わった”時だから覚悟はしておけ」
「…大丈夫なの?」
「なあに、あいつはケツイを持っている。懲りずに向かってくるなら、
また撃ち落とせばいい話だ」
そう言うと、私に背を向けてそれっきり話さなくなってしまった
ああ、神様、みんなを置いてきて、見殺しにしてしまった私をお許しください。
どうか彼にご加護があらんことを…
<さあ、本当の悪夢はこれからだ>
「よう、忙しそうで何よりだな」
乱闘の音が聞こえてから、どの位の時間が経ったのだろう。本当に奴はケツイの力で何度も蘇っている。彼の体力も、私の精神ももう限界が近い。
そして、
初めて”何かが切られた”音が響いた
「あー…やっぱそうなるか…」
弱い声で言うのはきっと彼しかいない
ああ、駄目だ。私は神に許して貰えなかった。自分の命を大事にするために逃げ続けた結果がこれだ。もう後には何を残っていない。
「彼の事が憎いかい?憎いだろう?」
絶望で崩れ落ちた耳元でおとうさんの声がした気がした。
「実に素晴らしい実験体だ。何が一体彼を強く突き動かしているのか…
ノエラ、君の兄弟の仇討ちをしたいのなら、私が手助けしよう。
何、私の大事な娘なのだから、当たり前だよ」
ザッ
「……馬鹿野郎」
「自分の行いに後悔しながら、
死になさい」