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第25章

1
「……っ……」
神界へと戻ってきた麗玲は様々な感情を抱えながらも一人歩いていた。
閻夜、世璃、隼刀、翔月には休養を言い渡してあり、其々の部屋へと戻らせている為、近くにはいない。
麗玲自身も休む為、自室へと向かっていたが、不意にある気配を感じ取って足を止めた。
「この気配は……」
似ているものを知ってはいるが、僅かな違いを感じ取る。
それを感じる場所も気になり、麗玲はその気配を感じる方へと足を向けることにした。
気配があったのは玉座のある部屋だった。
一度大きく息を吐いた後、扉をゆっくりと開けていく。
正面にある玉座には何者かが座っていた。
中へと入り近付いていくと、その人物がよく見えてくるが、マントと仮面で素顔は見えない。だが、男だというのはわかる。
「何者!? 」
声を上げると、男は座ったまま笑った気がした。
「何者って、私がわからないかい? 」
言いながら男は自分の仮面へ手を伸ばし、それを外す。
その下から現れた顔を見て、麗玲は思わず後退った。
「何故……」
「私が此処にいるのか、かい? 」
「だって、あなたは私が……、あの時に……」
「殺せていなかったから、私は此処にいるんだよ」
玉座に座ったまま、そう言ったのはもういない筈の神帝だった。
2
立ち上がり一歩踏み出してきた神帝に麗玲は更に後退りする。
ゆっくりと近付いている姿に、恐怖を感じ、両手を前に突き出し、エネルギー弾を放った。
「来ないで……、来ないでよっ! 」
狙って撃っている筈なのに当たるどころか掠りもしない。
(何で……、どうして……!? )
麗玲の焦りや恐怖を知ってなのか、知らずになのか、神帝は顔に笑みを浮かべ、直前にまで迫ってきていた。
「あ、……ああっ」
「そんなに私が怖いかい? 」
得体の知れない力を感じていると、神帝の笑みが深くなる。
その時、バンッと大きな音を立てて、扉が開かれた。
「「「「麗玲様!! 」」」」
麗玲の異変を感じて駆けつけてきたのだろう閻夜、世璃、隼刀、翔月が部屋へ飛び込んでくる。
彼等もまた神帝の姿を目を見開き、一瞬動きを止めたが、麗玲の状態に気付いてすぐに動き出した。
其々の武器を手にした四人に気付いた神帝が浮かべた笑みに嫌なものを感じ麗玲は叫んだ。
「待って!駄目!! 」
四人を止めるつもりで声を上げたが、既に遅く、神帝から放たれた力に吹き飛ばされた。
「閻夜!世璃!隼刀!翔月! 」
壁に叩きつけられた四人に麗玲は叫ぶ 。
そして、涼しい表情をしている神帝を見た。
今、麗玲の元に残っている四人は十人衆の中でも上位にいる実力者だ。それが神帝の一撃で地に伏している。
「……これでわかってもらえたかな?本当なら私の力に君達の力など及ばないということを」
「……それなら何故、死んだふりを? 」
そう問えば、神帝はふっと笑った。
「決まっているじゃないか。君達が神帝である私を殺せば、神族達は君達を許さなくなる」
「そんなことしたら、本当に正面衝突じゃない! 」
「そう……、それが私の目的なのさ」
その言葉に麗玲は目を見開いた。
3
「どういうこと? 」
「言葉の通りさ。……一年前の戦いで魔族達は役に立たなかった。その点、途中までは君達には期待していたんだが、どうも雲行きが怪しくなってきたからね。……私が直々に動かなくてはならなくなった」
「あ、あなたは……」
声が震えるのを我慢し、言葉を続ける 。
「神帝でありながら、神界の軍人達を殺してどうするというの? 」
「私だって、出来るなら彼等を殺したくはないさ」
神帝が悲しげな表情で言う。
「だが、彼等は私の理想を知れば反対するだろう。私の邪魔をするだろう。それなら、奴等は邪魔なだけだ」
先程までの表情を消した神帝は今度は凶悪な笑みを浮かべた。
「邪魔な奴等は消す。私の理想についてくる者しか必要ない。……そして、その理想の世界に魔族も、君達魔神族も必要ない」
「……っ……」
背筋に冷たいものが走る。
正直、狂っているようにしか思えない 。
「まぁ、まずは君達からだな」
「……麗玲様! 」
神帝が手を向けてきた時、後ろから誰かに強く腕を引かれる。
そのまま走り出したところで、自分の手を引くのが隼刀だと気付く。
彼だけでなく、閻夜、世璃、翔月の姿もあり、ほっとする一方で背後から殺気と異様な気配を感じた。
「逃すな!追え! 」
神帝の言葉と共に何処から現れたのか意思を感じない兵士達が迫ってくる。
「麗玲様! 」
「駄目よ!今はこのまま逃げるの! 」
そう返して、走るスピードを上げる。
逃げながら思ったことは、今までずっと自分達が利用されていたということ 。
天奏が舞達に、そして自分に伝えようとしていたのはこのことだったのだろう。
自分が神界を手に入れて喜んでいたのも、あの男は何処かで笑って見ていたのだろう。
そう思うと、悔しくて仕方がなく涙が出そうになる。
だが、今は泣いている場合ではないとただ逃げることに集中した。
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