このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

決戦の時

1
次の日、花音が目を覚ましたのは、まだ朝も早い時間だった。
外は暗く、白亜もまだ枕元で丸まって眠っている。
(でも、もう眠れないな)
それを見て、もう一度寝ようかとも思ったが、緊張からか目はすっかり覚めてしまっていた。
(少し、外の空気でも吸ってこよう)
そう思い、白亜を起こさないよう注意しながらベッドから下り、部屋を出る。
そのまま、屋敷から外へ出ると、街の中もまだ人気がなく、静かだったが、気持ちを落ち着けるには丁度良かった。

少しの間、街の中を散策してから屋敷に戻ると、その間に起きていたのだろう星夢と刹那が神蘭達と何か話し合っていた。
「何の話してるの?」
「……ああ。ちょっと星夢がな」
気になって花音が其処へ近づいて行くと、刹那が答え、星夢へ視線を移す。
「何か、見たの?」
「ええ。だから、ちょっと変更をね」
「変更?」
「ああ。本当なら、全員を同じ場所へ飛ばすつもりだったけど、それだと全員が足止めされ、消耗させられる。それは避けないとだろ」
「うん。そうだね」
刹那に花音は頷いた。
「それであとは誰を城に飛ばすかだけど……」
「もう誰か決まってるの?」
「ええ。私と神蘭と封魔が」
花音が聞くと、それには聖羅が答えた。
「それで、あと何人かは行かせたいんだけど、花音行かない?」
「ええっ!?」
星夢に言われ、声を上げる。
「だって、その方がバランスがいいのよ」
「で、でも」
言いつつ、既に決まっているらしい三人を見る。
「つ、ついていける自信がないんだけど?」
「大丈夫よ。後、風夜と風牙をつけるから、どっちかが面倒みてくれるでしょ?」
「……頼りにされてるのか、足手纏いにされてるのか、わからないよ」
星夢の言葉に花音は苦笑しながら返したが、神蘭達についていくのはもう決定のようだった。
2
僅かな音を立てて、花音達の身体が転送される。
目の前には、一度だけ来たことのある城が建っていた。
「……此処が、奴のいる城か」
花音達の中で唯一城のことを知らなかった風牙が呟く。
「ああ。……見ろ」
不意に風夜が城の上の方を指す。
視線を向けると、城の上層部から次々と魔族達が飛び出していくところだった。
「あれって……」
「多分、他の奴等のところだろう」
花音達には気付いていないのか、見向きもしないで飛び去っていくのを見て、神蘭が言う。
「でも、此処にいたらいつ気付かれるかわからないわ。私達も行きましょう」
聖羅がそう言って歩き出し、神蘭と封魔がすぐに追っていく。
だが、花音はすぐに追うことはしないで、魔族達の飛んでいく方向を順に見ていた。
「……あいつらなら大丈夫だ。追いかけてくるって言ってただろ」
不安そうな顔でもしていたのか、肩を叩いて風夜がそう声を掛けてくる。
「そうだな。それに此処が一番危険と言ったら、危険な場所だ。人のこと心配している場合じゃないぞ」
「わ、わかってるよ。……行こう。置いていかれちゃう」
風牙にも続け様に言われ、花音はそう返すと先に行っている三人を早足で追い掛け始める。
その後ろで風夜と風牙が笑う気配がしたが、気付いていない振りをした。
その二人と共に先に行っていた神蘭達に追い付いたのは、城の広間でそこには巨大な甲冑を付けた像があった。
見上げた像の表情は恐ろしいもので、花音は思わず身震いする。
(まさか、動いたりしないよね?)
「花音、どうした?」
足が止まっていた花音を不思議に思ったらしい風夜が聞いてきたのに、誤魔化すように笑う。
「ううん。何でもないよ」
そう返して再び歩き出した花音は、像の目が自分達を追いかけていることには気付かなかった。
3
城の中を進んでいく中、異変に気付いたのは、再び広間のような場所へと来たときだった。
立ち止まり耳を澄ませると、段々と此方へ近付いてくる重々しい音が聞こえてくる。
「何だろう?足音?」
「近付いてくるな」
同じ様に気付いたらしい風夜が呟く。
音が近くにつれて、花音達のいる場所が振動で揺れるようになってくる。
(これって、まさかさっきの……)
花音の頭の中に先程別の広間で見た甲冑を着た像が浮かんだ時、足音が止まった。
しかし、それは壁を挟んだすぐ向こう側のことだった。
少しの間、不気味な静けさに包まれる。
そんな時、何かに反応した風夜が風の結界を展開したかと思うと、大きな音と共に目の前にあった壁が砕け散った。
飛んで来た破片は全て結界で防がれ、花音達を傷付けることはない。
何が起きたのかと視線を向けると、壁の向こう側で巨大な剣を振り下ろした格好でいる広間にあった像が立っていた。
「あいつ、さっきの!」
「唯の像じゃなかったみたいだな」
(や、やっぱり、動いたよ)
風牙と神蘭の声を聞きながら、花音がそう思っていると、聖羅が口を開いた。
「黒姫の気配はだいぶ近い。でも、こんなのをそこまで連れて行く訳にはいかないわね」
「となれば、やるしかないか」
そう呟いた神蘭が構えるが、それを制するように封魔が前に出た。
「……封魔?」
「……彼奴は俺に任せろ。此処で、彼奴相手に力を消耗させてる場合じゃないだろ」
「だが、一人じゃ……」
また力を解放するのではないかという不安があるのだろう、渋った様子の神蘭を見て、溜め息をついたのは風牙だった。
「……それなら、俺も残ろう。外さないように見張って、そうならないように力を貸せばいいんだろ?……って、何だよ?」
視線に気付いたのか、風牙は花音と同じように見ていたらしい風夜を順に見た。
「二人揃って、意外そうな顔して……、何かあるなら言えよ」
そう言う風牙に花音は風夜と顔を見合わせた。
「いや、ただ俺はお前がそんなことを言うとは思わなくてな」
「うん。私も」
笑いを堪えるように言った風夜と同じことを思っていたと答えると、風牙は溜め息をついた。
「とにかくだ。……それでいいか?」
気を取り直すように風牙が神蘭に聞く。
「あ、ああ……」
「決まりだな」
頷いた神蘭に風牙が呟いた時、痺れを切らしたらしい像が動き出した。
「行けっ!」
それを見て叫んだ封魔の言葉に、花音と神蘭、聖羅は風夜に促され走り出した。
5/8ページ
スキ