このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

立ち塞がる壁

1
「はぁ、はぁ……」
窮姫から逃げる為、全力で走って数分。
花音は足を止め、辺りを見回した。
(おかしい。そろそろ皆がいる所についてもいいはずなのに。それに追い掛けてきてる訳でもないし)
そう思いながら、気配を探ってみたが、誰の気配も感じ取れなかった。
「これって、まさか……」
「そう。此処には誰もいない。……我々以外にはな」
「!?」
誰もいないと思ったばかりなのに、急に一つの気配が現れ、声がする。
其方に視線を向けると、青白い顔をした男がニヤリと笑みを浮かべていて、花音は反射的に再び走り出した。
再び走り出して数分。
花音は遺跡のようなものを見つけていた。
このまま走っていても逃げ切れるような気がしなくて、一度そこに身を隠そうと中に入る。
中は思ったより広くて、辺りを見回し隠れることが出来て、なお男が入ってきてもわかる場所へと座り込んだ。
(でも、どうしよう?隠れていたってここから出られる訳じゃないし。何とか皆にこの状況を気付いてもらえないかな?)
そう思っても花音が所持しているのは、弓と前に神麗から貰った各属性の力が入った珠だけだ。
(ん?弓と珠……、そうだ!)
それは空間と時を操る、刹那の力と同じ力を持っている筈のもので、それを弓にはめ込むと、花音は何もない場所へ向けて弓を構えた。

2
その頃、花音が戻ってこないことを不思議に思った風夜と光輝は、神蘭から話を聞いて湖まで来ていた。
「いない!?姉上は此処にいたんじゃないのか?」
花音が見つからないことに少し苛ついたように光輝は辺りを見回す。
「神蘭の話だと、その筈なんだけどな」
そう風夜が呟いた時、空間の一部が歪み、そこから何かが勢いよく飛び出してきた。
「うわっ!?」
「……っ」
それを慌てて避けた光輝とは違い、風夜は飛んできたものを掴む。
それは一本の矢だった。
「おい、それって」
「ああ。どうやら、何かあったみたいだな」
声を上げた光輝に返し、矢が飛び出してきた辺りを見る。
「……戻るぞ。刹那なら、今花音が何処にいるのか、特定出来る筈だ」
「……そうだな」
「心配しなくても、これを飛ばしてきたくらいだ?まだ無事なんだろ。……まぁ、のんびりはしていられないだろうがな」
「ああ。わかってる」
同じ様に矢が現れた辺りを見ていた光輝は、そう言うと踵を返した。
3
風夜と光輝が仲間達の所へ戻っている頃、遺跡の中に身を隠していた花音は、放った矢が消えた辺りを見ていた。
「上手くいったのかな?」
仲間達がいる所に矢が届いたのか、それを誰かが見つけてくれたのか、花音に確かめる事は出来ない。
だから、今は上手くいったことを祈るしかない。
そう思った時、座っていた花音の頭上に影がさす。
それに気付いて恐る恐る見上げると、何時の間にか至近距離に花音が逃げてきた筈の男の姿があった。
「ひっ……」
「くくくっ、見ぃつけた」
息をのんだ花音の前で、ニタリと笑う。
「少し前に、妙なことをしていたな。矢を飛ばして、仲間に居場所を伝えようとでもしたか?」
「!!」
見ていない筈なのに、あっさりと言い当てられ花音は目を見開いた。
「どうして……?」
「何故見ていないのにわかるかってか?それは、私も持っているからさ。お前の仲間の一人と同じ……、空間を操る力をな」
そう言い、不意に男が手を振る。
「!?」
その瞬間、花音の身体は宙へと投げ出されていた。
「きゃあああ!」
三メートル位の高さから落とされ、地面に腰を打つ。
気付けばそこは花音が隠れていた遺跡の中ではなくなっていた。
「なっ?えっ?」
「言っただろう。空間を操ると。空間使いにとって、この位は造作も無いこと。戦闘向きではないと思われがちの力だが、この力の本当の恐ろしさを教えてやろう」
男がそう言い、楽しそうに笑った。

「……どうだ?」
持ち帰ってきた矢を持ち、意識を集中していた刹那が息をついて集中を解いたのを見て、風夜が問い掛ける。
「……ああ。大体の位置は掴めた。だが」
「何?何か問題あるの?」
そう言った琴音に刹那が頷く。
「……この矢から少しだが、俺と同じ力を感じた。恐らく花音がいる場所へ飛ばそうとすれば、妨害が入る」
「じゃあ、花音ちゃんの所へ行けないの?」
「近くには無理だ。もし飛ばすなら、少しでも力が薄くなっていて、術者に気付かれにくい場所。それに、あまり大勢は飛ばせない」
「なら、誰が行く?」
「……私が行く」
凍矢が聞くと、神蘭がすぐに言った。
「元々は私が残してきたせいだ。ちゃんと責任はとるよ。……鈴麗、龍牙、白夜、こっちは任せた」
そう言った神蘭に、三人は頷いた。
「お前は、勿論行くんだろ?」
「ああ。お前はどうする?」
火焔に聞かれ答えた風夜が、光輝を見る。
「……待ってるよ。何が起きるかわからない場所についていって、足手纏いになってもな」
光輝が肩を竦める。
「なら、二人か?」
「待て。俺も行く」
他に声を上げる様子がないことに刹那が確認するように言った時、一つの声がした。
「封魔!?」
それは休んでいた封魔のもので、神蘭が視線を向ける。
「お前……」
「もう十分休んだから、回復はしてる。それなら、いいだろ?」
それに神蘭が溜め息をつく。
「……よし、三人だな。じゃあ、繋げるぞ」
言った刹那の力が高まっていく。
少しして、風夜達の前には空間の歪みが出来る。
風夜は一度残る仲間達を見回した後、一度大きく頷いてからその中へと飛び込んだ。
11/11ページ
スキ