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立ち塞がる壁

1
姿を消した風夜が次に現れたのは、丁度距離をとって再びぶつかり合おうとしていた封魔と闘牙の中間辺りだった。
「「!!」」
「はあぁっ!」
その事に二人が気付くも、反応する前に風夜は魔力を二人に叩きつけるように放出し、対応が遅れた二人は弾き飛ばされた。
「がはっ!」
「ぐあっ!」
二人がそれぞれ地面に身体を叩きつけるのを見て、風夜が再び姿を消す。
彼が次に現れたのは、封魔の前だった。
「貴様、何を……!?」
「…………」
痛みからか表情を歪ませ、身を起こした封魔の腕を風夜は無言で掴むと、その腕に持っていた腕輪を付ける。
「お前、勝手に……」
「……これで少しは周りが見えるようになったか?」
「何っ……?」
訝しげな封魔に、風夜は神蘭達の方を指す。
それで視線を動かした封魔は、目を見開いた。
「わかったか?お前が彼奴らにあんな表情をさせたんだ」
涙を流した跡があり、目を赤くした神蘭、本当に安心したような表情の鈴麗、少し寂しげに見える龍牙、白夜、複雑そうな表情をしている千歳、昴、星華を見ながら、風夜が言う。
それと同時に、風夜が飛ばしてきた風の刃で漸く花音達も自由を取り戻せた。
かと思うと、不意に神蘭が封魔のことをキッと睨み付け、一気に距離を詰める。
そのすぐ後に、パシィッと乾いた音が聞こえ、封魔の左頬が紅くなる。
叩いたのは神蘭で、彼女はまだ封魔のことを睨みつけていた。
「この馬鹿!馬鹿封魔!頑固者!……少しは、私達の気持ちも考えてよ!」
「神蘭、俺は……」
再び泣きそうに顔を歪める神蘭に、封魔が何か言おうとした時、それまで無視されていた闘牙の声がした。
「さっきから、この俺を無視するなぁ!」
そう言いながら、放たれた魔力は風夜が相殺する。
花音が視線を向けると、ギラついた目をしている闘牙が苛ついた様子で此方を見ていた。
「封魔、あとは俺達が」
「お前はもう休んで……」
「いや」
龍牙、白夜を遮り、封魔が前に出る。
「俺なら、まだ大丈夫だ。だから、こいつは俺がやる」
「でも」
「もう外さないさ」
腕輪を押さえそう言った封魔に、神蘭は溜め息をついた。
「星華」
「……はい」
「今、負ってる傷だけでも」
「……はい」
神蘭に言われ、星華が封魔に手を翳す。
「……悪いな」
「……いえ」
「ふん。力を抑えた上に、そんな消耗した状態で、俺に勝てるとでも?だったら、遠慮はいらん。全員纏めて来い」
「……いや、その必要はない」
挑発した闘牙の言葉に、風夜が答える。
「何?」
「全員で相手をすることもないって言ってるんだ。お前、自分も相当消耗しているってこと、わかってないのか?」
「それがどうした?だが、俺よりそいつの方が」
「それもそうだが。全員相手する程の力は、お前にはない。ここから加わるのは、俺一人で充分だ」
お互いに挑発しあっているような風夜と闘牙に、花音はひやひやしていたが、そこで風夜が封魔を見た。
「……その制御装置で抑えられた力の分は、俺がカバーしてやる。だから、もう絶対外すなよ」
「って、何でお前が?」
驚いたように見る封魔に、風夜は笑う。
「……俺に策がある。それに試しておきたいこともあるんだよ」
そう言うと、闘牙の方へ視線を移す。
「ってことで、ここからは二対一だ。いいな?」
「ふん、構わん。俺は何人相手でもな」
そう言ったかと思うと、闘牙は再び魔力弾を放ってきた。
2
迫ってくる魔力弾に向かって、風夜が地を蹴る。
それと同時に彼の身体の周りを薄い膜のようなものが包んだような気もしたが、それ以上は何かをすることもなく、そのまま突っ込んでいく。
「ふ、何をするかと思えば、馬鹿正直に突っ込んでくるだけとはな」
言った闘牙が魔力弾を風夜に向けて、更に数発放ち、それらは全て彼に命中し、爆発を起こす。
「ふん、口程にもなっ……!?」
笑みを浮かべていた闘牙が不意に目を見開く。
その直後、彼は爆発の中から無傷で飛び出してきた風夜に、殴り飛ばされていた。
「お前っ、あんな中突っ込んで、何ともないのかよ!?」
思わずといったように少し大きな声が出てしまったらしい光輝に、風夜が振り返り答える。
「ああ。俺が持つ二つの能力の応用だ。パワーアップした奴に俺が致命傷を与えるのは難しいが、これであいつの方も俺に決定打を与える事は出来ない」
そう言って、今度は封魔に視線を移す。
「彼奴の攻撃は、俺が止めてやる。だが、正直まだあまり慣れてなくて、俺もこれは凄く疲れるんだ。お前も体力はあまり残ってないだろ?早めに終わらせるぞ」
「……ああ。言われなくても、そのつもりだ」
封魔は素っ気なくそう返したが、口元に僅かに笑みを浮かべているのが花音に見えた。
数分後、封魔に伝えた通り、風夜が防御を引き受け、封魔が攻撃に徹するという戦い方は上手くいっているようで、闘牙にも引けをとっていないようだった。
「はあっ!」
封魔が放ったエネルギーと闘牙が放った魔力がぶつかり合う。
「ぐっ!」
「封魔!」
押されそうになる封魔に、神蘭が動こうとして、龍牙に止められる。
「待て、神蘭。彼奴が手出しを許したのは……」
「でも!」
「ふはは、今の状態ではそれが精一杯か?だったら……、ぐあああっ!?」
余裕の笑みを浮かべ、一気に押しきろうとした闘牙を風の渦が上空へと巻き上げた。
「なっ、貴様ぁ」
渦の中に閉じ込められ、更に風の刃で切りつけられている闘牙が、風夜を睨み、風夜はそれに笑って返す。
「確かに防御を引き受けるとは言ったけど、攻撃しないとは言ってないぜ」
「ちっ……」
それに忌々しそうに舌打ちして、闘牙はどうにか風の渦から抜け出し、風夜から距離を取ろうと飛び退く。
だが、その先にはいつの間にか封魔の姿があり、その手には高濃度のエネルギーが集まっていた。
「……これで、……終わりだっ!」
「ぐああああっ!」
反応が遅れた闘牙に、至近距離から溜めていた力を放出する。
それをなす術もなく受けた闘牙の断末魔の声が響き渡り、声が聞こえなくなった時には耐えきれなかった身体が消し飛んでしまったのか、闘牙の姿はなくなっていた。
「……はぁ、はぁ……」
それとほぼ同時に肩を大きく上下させていた封魔の身体が傾いたかと思うと、その場へ倒れ込む。
「封魔……!」
それを見て駆け寄った神蘭が、様子を見た後でホッと息をついた。
「……寝てる」
「まぁ、最初から消耗した状態だったしな」
「とっくに限界は越えてたんだ。仕方ないだろ」
後から近付いていった鈴麗が呟き、龍牙と白夜も肩を竦める。
その時、空間が歪んだ気がした。
「やっと来たか」
それに風夜が呟いたのと同時に現れたのは、少し疲れたような表情をした刹那だった。
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