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第2章


兵士達が封魔に反発するようになって、数日。
中には訓練すらさぼる者も出てきている中、神蘭は封魔が待っていると言っていた第ニ訓練場に鈴麗達と一緒に来ていた。
訓練場には人気はなく、静まり返っている。
「えっと……」
待っていると言っていた筈の封魔の姿さえ見えなくて、辺りを見回す。
「おい、あそこ」
少しして龍牙が少し離れた場所にある一本の木を指す。
その木の下に人がいるのが見えて近づいて行くと、木に背を預け眠っている封魔の姿があった。
「寝ちゃってる?」
「まぁ、待ちくたびれたってのもあるだろうけど」
「思いっきり熟睡してないか、これ」
神蘭達が近くに来ても起きる気配のない封魔に、鈴麗、白夜、白鬼が言う。
その時、頭上から声が聞こえてきた。
「今は寝かせてあげてください。怪我もまだ癒えていないのに、殆ど休んでないんです」
「あなたは?」
聞こえてきた声に見上げれば、木の枝に一人の少女が座り、此方を見下ろしていた。
「私は楓。封魔様直属の部下です」
「それで、殆ど休んでないっていうのは?」
「あなた達は知らないでしょうけど、この数日、魔神族の襲撃がなかった訳じゃないんです。寧ろ、毎日のようにあったくらいです。それを封魔様が一人で対処していましたから」
そう言って、楓は枝から飛び降り、神蘭達の近くに着地した。
「それで何の用ですか?書類なら私が預かりますよ」
「いや、私達は、辞めようと思ってきた訳じゃないんです」
「なら、軍を続けると?前と比べても、命を落とす確率は高くなってる。ましてや、ついこの間まで訓練生だったあなた達が生き残るのは、かなり厳しい状況になってると思いますけど?」
「それでも、……逃げるつもりはありません!」
そう言った神蘭に、鈴麗達四人も頷く。
「そう。……逃げるつもりはないらしいですよ」
「……みたいだな」
「「「「「!!」」」」」
楓の言葉に返す声が聞こえる。
見れば、封魔は何時の間にか起きていたようだった。
2
『いいぜ。認めてやる。正直、今の腑抜けた軍人達より、お前の方がしっかりしてるしな』
自室へ戻ってきて神蘭は、第ニ訓練場で封魔に言われた言葉を思い出す。
それは軍に入ることを反対していた彼に認められた瞬間だった。
『とはいえ、お前もそいつ等も実力的にはまだまだだ。だが、お前達の訓練に付き合う余裕は俺にはない。もし強くなりたいなら』
そう言った封魔から渡された紙を神蘭は広げてみる。
そこには、簡単に地図が書かれていて、封魔の印が押してあった。
『そこには現役を退いた闘神がいる。そこに行けば、修行をつけてくれる筈だ』
その言葉を思い出し、神蘭は気を引き締める。
(せっかく認めてもらえたんだから、これからはもっと頑張らないと!)
そう内心で呟き、今は休もうとした時、神蘭のいる宿舎が揺れた。
「この揺れ……、まさか……!!」
飛び起きて、支給されている剣を掴み、部屋を飛び出す。
部屋を出れば、すぐ近くに仮面の男がいて、向こうも神蘭に気付いたようだった。
向かってきた男の剣を咄嗟に受け止める。
「っ!はあああっ!」
それをなんとか弾き返したが、男はすぐに体勢を立て直し、追撃してくる。
(まずい……!)
神蘭がそう思った時、突然目の前の男が呻き声を上げて倒れる。
「えっ?」
それに驚きつつ、男の背後に視線を向けるとそこには剣を振り下ろしている龍牙とその後ろに鈴麗、白夜、白鬼の姿があった。
「皆!」
「危なかったね、神蘭」
「ええ、ありがとう」
「それより、これからどうする?」
「……封魔の所へ行こう」
問い掛けられ、神蘭はそう答える。
「封魔の所って、……まぁ、今の状況じゃ来てるだろうし総長と副総長を抜いたら一番上官ではあるけど、この襲撃の主犯格もいそうじゃないか」
「だから、行くんだよ」
そう答えて、神蘭は走り出す。
向かっている間にも魔神族の兵はいたが、鈴麗達と協力しながら倒しつつ、封魔のいそうな場所を探す。
漸く彼を見つけたのは、軍の宿舎裏にあった訓練場で、丁度魔神族の雑兵を斬り捨てたところだった。
「お前達……!」
気付いた封魔が視線を向けてくるが、新手が現れたことですぐに逸らされる。
「ちっ、さっきから次から次へと……!」
「待って!……此処は任せて!」
構え直す封魔に叫んでから、神蘭は鈴麗達を見る。
「あとは私達がやろう。このままこの襲撃の主犯格の思い通りにさせないためにも」
「どういうことだ?」
「きっと相手は封魔の状態を知ってる。だから、雑兵を数ぶつけて力を削ろうとしてるんだよ」
「……自分を有利にするためにか?」
「うん。別に私だって、今の私達が主犯格をどうにかしようと思って来た訳じゃないよ」
「俺達が雑兵の相手をして、彼奴を休ませるつもりだったんだろ?そうなると、いつ主犯格が出てくるかだが、それを気にしていたらきりがないか」
「そうね。その時はその時よ」
「……行くよ」
神蘭はそう言うと、地を蹴った。

封魔と合流し、襲ってくる雑兵達と戦いながら、神蘭は辺りを見回す。
(やっぱり、軍に入ってまだそんなに経ってはいないけど、前に比べたら少しは戦えるようになってる!)
数の違いはあるものの、他の四人も苦戦はしていない様子を見つつ、神蘭は相手の一撃を躱し、逆に斬りつける。
返した刃で更に一人を斬りつけた時、ふと封魔が警戒するように身構えたのがわかった。
(……来る!)
それを見て、神蘭もこの襲撃の主犯格が現れたのだと、警戒を強める。
それと同時に、雑兵達が動きを止める。
彼等の間を縫うように歩いてきたのは、やはり階級章を付けた男だった。
「何だ?もう怪我は癒えたのか?」
「……ああ。お前一人相手にするくらいにはな」
「くくっ」
言った封魔に、何がおかしいのか男は笑う。
そのまま、男は神蘭達を見た。
(何?)
それに神蘭が表情を歪めた時、男は楽しげな声で話し始めた。
「お前達は知ってるか?私達を討伐に出た闘神達がどんな結末を迎えたか?どうしてそいつ一人だけが戻ったのか?」
封魔をちらりと見て言った男に、神蘭は龍牙達と顔を見合わせた。
「何?どういうこと?」
何があったのか、封魔を含めた上層部から説明はない。
だから、討伐に行った部隊に何があったのか知りたい気持ちはある。
それでもこのまま敵である男から聞くのではなく、封魔に話してもらいたくて彼を見る。
だが、封魔にその気はないのか、男を睨んでいるだけで口を開く様子はなかった。
そのうちに男が口を開く。
「そいつはな、仲間を見捨てて、逃げ帰ったのさ」
「えっ?」
「……」
何を言われたのか理解出来なかったが、その言葉を封魔は否定しなかった。
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