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立ち塞がる壁

1
反勢力の街を出て数日、花音達は襲ってくる魔族達の相手をしながら、魔界を移動していた。
「…………」
移動しながら、花音は前を行く神族達を見る。
(どうして歩みよれないんだろう?)
襲ってくる魔族達を容赦無く倒していくのを見て、そう思う。
少なくとも魔界に来て、魔族となった風夜に助けられた時、神蘭達は戸惑いを感じていただけでなく、それまでの考えも揺らいでいるようだった。
そして、神麗は神族と魔族が和解することを望んでいたはずなのだ。
(なのに……)
総長達が来てから再び、神蘭達は魔族を敵としか見なくなり、神麗も彼等を殺そうとした。
(もうわからないよ……)
内心そう呟いた時、横にいた星夢が口を開いた。
「仕方ないんじゃない?結局は上の者達が変わらなければ、下の者が変わろうとしても難しいのよ」
「まぁ、今は向こうも風夜と夜天以外は、頭に血が上ってるだろうからな。このまま、暫く距離を置いてた方がいいだろ」
「そうだな。今、顔を合わせたら、それこそどうなることか」
「想像したくないよ」
星夢に続いて、凍矢、刹那、美咲が言う。
彼等のいうように今は距離を置いた方がいいのかもしれないが、分かり合える時が来るのを願うしかなかった。
「止まれ」
森の中に入り、暫く歩いていた時、不意に総長の声がして、前を歩いていた神蘭達が木々の間に隠れ、気配を消す。
一体何があったのかと同じように出来るだけ気配を消して、様子を窺う。
「!!」
すると、前方に紫狼達の姿が見えた。
一緒にはいないのか風夜達の姿はなかったが、その代わりに黒姫達の姿が見えて、思わず目を見開く。
「うわっ!最悪っ!」
神族達の視線がきつくなるのを見て、琴音が呟く。
そんな間にも神蘭達は木の間から姿を現し、解放された気配に気付いたのか紫狼達が振り返る。
その先では、黒姫が面白そうな笑みを浮かべていた。
「これって、一番最悪なパターンじゃないのか」
近づいていく神蘭達を見て、紫影がボソリと呟く。
「時間をおいた方がいいって話をしたばかりだったのにな」
影牙が言って、苦笑する。
「どうするの?」
紫姫に聞かれ、花音は溜め息をついた。
(こうなったら、一番最悪な状況になるのだけは、避けないとね)
そう心の中で呟くと、花音はゆっくりと足を踏み出し、既に睨み合いの状態になっている場所へと近付いていった。
2
「こんな所で、一体何を話しているのかしら?」
「別に、お前達には関係ないことだ」
問い掛けた聖羅に、冷たい声で紫狼が返す。
そんな二人の声を聞きながら、花音は辺りを見回す。
(ここに風夜達はいないみたいだけど……)
「!!」
そう思った時、少し離れた所で何かが動いたような気がした。
「姉上、どうかしたのか?」
「今、彼処で何か動いたような気がしたんだけど……」
光輝に言った時、それまで黙っていた黒姫がニヤリと笑った。
その何かを企んでいるような表情にハッとするが、その時には彼女は何かの合図のように指を鳴らしていた。
「「「!?」」」
それと同時に木の根や枝、蔓が伸びてきて、花音と光輝、神蘭達以外を拘束していく。
「何だ、これ!」
「動けないよ!」
「ちょっと待ってろ!」
次々と動きを封じられていく凍矢達を見て、光輝が剣を抜く。
だが、彼が近くの蔓を斬るより先に鞭のように襲ってきた根が彼の身体を打ちつけた。
「ぐっ!」
「光輝!!」
反動で吹っ飛ばされた光輝を見て、花音は楽しそうに見ている黒姫を睨み付けた。
「このっ!」
黒姫に向かって矢を放つが、それは彼女の前に割って入った蔓に当たって、彼女までは届かない。
『いってぇな』
「えっ?」
それを見て、次の矢を放とうとしていた花音は、聞こえてきた声に辺りを見回す。
聞き覚えのない声ではあったが、自分の知っている者達の姿しかなく、声の主は見当たらない。
「花音!」
その時、聖羅が此方へ駆けてこようとするのが見えた。
だが、それより前に凍矢達と同じように縛られてしまう。
そして、それだけでなく強い力で引っ張りあげられ、一本の木へと完全に縛り付けられたかと思うと、再び声がした。
『痛いじゃないか。嬢ちゃん』
「ひっ……」
声がした方を見て、木に顔があるのに気付き、思わず声を上げる。
「ふふ、あはははっ」
すると、それを見ていた黒姫がわらいだした。
「そうか!この森は……」
「当たり。この森は、森全体で一つの魔物なのよ。つまり、貴方達はその魔物の体内にいるのと同じってことよ」
何か思い当たったらしい紫狼の声に、黒姫はそう返した。
「それなら……」
そう聖羅の声がして、彼女の力だけでなく神蘭達の力も高まっていくのを感じる。
それを見つつ、黒姫の笑みが深まるのを不思議に思っていると、星夢と美咲の声がした。
「駄目!攻撃しないで!」
「逆効果だよ!」
そんな二人の声に構わず、神蘭達が放った攻撃は一度上空へと昇り、森全体へと降り注ぐように当たる。
『ひゃはははっ』
「何っ!?」
攻撃された筈なのに、嬉しそうな声を上げていることに異変を感じたらしく、攻撃が止む。
だが、既に遅かったらしく、花音達は更に巨大化した木と共に更に上へと吊り上げられてしまった。
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