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立ち塞がる壁

1
風夜の案内で、兵器のある建物の中に入った花音達は、襲ってくる魔族達を倒しつつ、進んでいた。
「砲台が取り付けられているのは、此処の最上階だ」
先頭を行く風夜の声がする。
「最上階か。それまでずっとこんな感じかよ」
「でも、まだ簡単に倒せる分、いいと思わないと」
文句を言う紫影に言いつつ、紫姫がまた一人倒す。
そんな中、前線向きではないため、ある程度の距離を置いていた花音は何処からか誰かに見られているような気がしていた。


「ふふ、来たわね」
水晶に映る花音達の様子を見て、黒姫が呟く。
「さあ、行きなさい。兵器は何としても死守するのよ」
そして、背後に控えている窮姫、闘牙、闇王に向かって言う。
「「「はっ!」」」
それを受けて、三人は一度頭を下げると姿を消した。

「「!!」」
どの位上の方まで来たのか、不意に前にいた風夜と封魔が足を止めた。
「どうした?」
「……この先にいるな」
問い掛ける火焔とは違い、何かを感じ取ったらしい風牙が言う。
「えっ?いるって、何が?」
「この気配は多分……」
黄牙がそう言った時、爆音と共に目の前の壁が吹き飛ぶ。
そしてその先には、身の丈程の大剣を手にしている闘牙の姿が見えた。
「ここから、先には行かせん!」
そう言った闘牙の背後には、更に通路が続いているのが見え、その先に進まなくては兵器が壊せないことはわかった。
「っ……」
立ち塞がる闘牙に花音が背の弓に手を伸ばし、他の仲間達も身構える中、それを制するように封魔が前に進み出た。
そのまま、闘牙に視線を向けた状態で口を開く。
「先に行け」
「えっ?」
一瞬何を言われたかわからず、聞き返す。
だが二度は言わないというように封魔は、闘牙へと向かっていってしまった。
「えっと、先に行けって……」
呟いて、どうしたらいいのかと花音は仲間達と顔を見合わせる。
その時、風夜が溜め息をついた。
「行くぞ」
「「!?」」
行ったかと思うと、花音は琴音と共に抱え込まれた。
同じように風華が黄牙に抱えられる。
それを確認すると、風夜は火焔達についてくるようにだけ言い、花音と琴音を抱えたまま、封魔と闘牙の横をすり抜けた。
2
「ねぇ。よかったの?一人置いてきて……」
闘牙のいる場所から離れたところで琴音が言う。
「…………」
「いいんだよ。俺達、魔族の力を借りたくないだけだろうからな」
無言で進んでいく風夜の代わりに、風牙が答える。
「でも」
「まぁ、いいんじゃない?彼処で待ち伏せしていたのも、兵器が壊されるのを阻止するためなんだろうし」
「そうだな。壊してしまえば、引き上げるんじゃないか」
それでも何と無く不安で振り返っていた花音は、紫姫と紫影に言われる。
封魔のことは気にはなったが、今は兵器を壊すことに集中することにした。
「あれだ」
最上階。そこに設置されている砲台を風夜が指す。
「なんか、あの後は思ってたより、簡単に来られたね」
「まあ、あの後は邪魔という邪魔は、入らなかったからな」
そんな風華と火焔の声を聞いていると、何処からか爆発音のようなものが聞こえ、僅かに揺れを感じた。
「今のっ!」
それで一番最初に頭に浮かんだのは、一人で残してきた封魔のことだったが、風夜が見たのは外だった。
「……他の二ヶ所は終わったみたいだな」
風夜の横にいた風牙が同じように外を見て、二人の近くに行った黄牙と梨亜もほっとしたように息をつく。
「えっ?」
今の音が封魔が残った所からだと思っていた花音は、少しも慌てる様子のない四人を見て、どちらかというと彼女と同じことを考えたらしい火焔達と顔を見合わせる。
すると、そんな花音達を振り返った梨亜が手招きしてくる。
それに呼ばれるように近付いていくと、彼女達の視線の先にあった他の二ヶ所の砲台辺りから煙がでているのがわかった。
「あ、来た、来た」
砲台を破壊して戻る途中で、闘牙の相手をしていた封魔とも合流した花音達が集合場所まで来ると、既に待っていた美咲が声を上げた。
「随分、ゆっくりしてたじゃない?そっちは、全員で足止めされてたの?」
「いや、そういう訳じゃないけど……。っていうか、やっぱり皆のところも?」
星夢の言葉から他の場所でも妨害があったのかと聞き返す。
「ああ、こっちは闇王が」
「俺達の所には、窮姫が現れた」
「とはいっても、実際に相手をしたのは神蘭と白夜だけど」
「こっちは、龍牙と鈴麗が残って、俺達は先に行ったんだ」
雷牙、光輝、水蓮、夜天がそう返して、神蘭達の方を見る。
彼等は、花音達を待つ間に、傷の治療をしているようだった。
「やっぱり、お前等の所も先に行かされた訳か」
神蘭達や、今彼女達の方へ行った封魔が星華の手当てを受けているのを見ていると、風夜の声が聞こえてきた。
「まぁ、結局は俺達と協力したくないってことだろ?」
「共通の敵ではあるのだろうが、やはり我等とか別に行動した方がいいのかもしれないな」
肩を竦める風牙や、紫狼の声も聞こえてきて、花音は再び神蘭達の方を見た。
彼女達は彼女達で何かを話していて、此方を気にすることはない。
神蘭達と風夜達の間はお互いの話が聞こえない位には開いていて、その中間辺りに花音達がいる。
それが今の心の距離でもあるようだった。

「「「っ……」」」
「おかえりなさい。どうやら失敗したようね」
傷を負い、帰還した窮姫、闘牙、闇王は冷たい目をした黒姫に出迎えられていた。
その言葉に、窮姫達は何も返さない。
「まあ、いいわ。確かに今回の件で、痛手は受けたけど。……ただ、この失敗の償いはきっちりとしてもらうわよ。いいわね?」
黒姫のその言葉に、窮姫達三人はただ深く頭を下げた。
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