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魔界のレジスタンス

1
「さあ、始めましょう。……私にとっては楽しい、あなた達にとっては絶望のゲームをね!」
黒蘭が言ったかと思うと、夜天が床を蹴る。
「っ、外へ!」
「うん」
剣を寸前でかわし、黒蘭がいる窓へと走り、彼女が退いたそこから光輝の手を借りて飛び下りる。
「逃がさないで」
黒蘭の声がして、すぐに追い掛けてくる夜天から逃げるように花音と光輝は走り出した。
「「っ!」」
追ってくる夜天の攻撃を何とか避けながら、二人は走っていく。
そんな花音と光輝の前を塞ぐように、様子を見ていただけだった黒蘭が降り立った。
「……さっきから逃げてるだけじゃない。それじゃ、見ていてつまらないわ」
「そうかよ。だったら、さっさと夜天を元に戻せ」
「嫌よ。早くあなた達も向こうみたいに私を楽しませてよね」
黒蘭の言葉が終わると同時に、紫狼の屋敷の方から爆発音のような音と共に火の手が上がった。
「だって、私は元々自分で戦うより、こっちの方が得意なの。それに、仲間に攻撃されてる時の表情って見るの楽しいじゃない?」
「……悪趣味だな」
「ふふ、心配しなくても生き残った方には、私が直接手を下してあげる。だから、今はお互いに潰しあいなさい!」
その言葉と共に、再び夜天が動きだし、攻撃してくる。
「っ!やめろ!夜天!」
「夜天くん!」
攻撃を避けながら、彼に呼び掛ける。それでもその表情は変わらなかった。
2
「だから、無駄だって言ってるでしょ。呼び掛けても、ね。諦めてちゃんと相手しなさい」
攻撃しようとしない花音と光輝に、黒蘭が言う。
(そう言ったって、そんなこと出来るわけない!)
思いつつ、飛んできた闇の球を避ける。
(どうすればいいんだろう?どうすれば、夜天君を傷付けないで、元に戻せるの?)
「姉上!」
「っ!」
考え事をしていた花音は、夜天の接近に気づくのが遅れ、迫ってきていた剣に目を見開く。
だがそれは間一髪で割って入った光輝が弾いてくれた。
「ふふ、やっと、やる気になった?」
「違っ、俺は……」
体勢を立て直した夜天が、光輝に斬りかかる。
それを弾き返すも、連続で切りつけられ、光輝は防戦一方になった。
「やめろ!俺は、お前と戦いたくないっ!」
ギイィンッ
光輝が叫んだと同時に、甲高い音と共に剣が弾かれた。
「っ!」
無表情のまま光輝に向かって剣を振り上げる夜天に、いつかの幼い少年魔族の姿が重なる。
「……駄目!」
その時のことを思い出してしまい、咄嗟に光弾を放ってしまったことに気付いたのは、吹っ飛んだ夜天を見た時だった。
「あ……」
(今、私……)
自分がしたことに、思わず身体が震える。
(私、夜天くんを……)
「ふふ、あはははは!」
「貴様っ!」
笑いだした黒蘭に、光輝が声を荒げる。
「ふふ、やっぱり、そうよね。戦いたくないと言っても、自分の弟の方が大事よね。よかったわね、弟が無事で。でも、ほら、追撃しないと起きちゃうわよ」
そう言う黒蘭の視線の先では、夜天がゆっくりと身を起こしていた。
「ほら、起きちゃった。……まあ、いいわ。ゲームの続きを……」
笑みを浮かべた黒蘭に何かが飛び、避けた彼女が珠のような物を落とすと、二発目がそれを壊した。
「何……!?」
それに黒蘭が信じられないといった表情を夜天へと向ける。
その先では光を取り戻した目で、夜天が黒蘭を睨み付けていた。
「馬鹿な……、まさかさっきの一撃で、私の術が消された?……そんなこと、あるはずない」
呆然と呟いている黒蘭を警戒しながら、夜天へと近付く。
「夜天くん!」
「花音、光輝……、悪かったな」
駆け寄った二人にそう言った夜天は、いつもの彼だった。
3
「………….ない」
元に戻ったらしい夜天に安堵していると、黒蘭が何か呟く。
「許さない!上級魔族である私の術が、神族紛いと魔族紛いなんかに破られるなんて……、私のプライドはズタズタよ」
そう言う黒蘭の手に、魔力が集まる。
「私のブライドを傷つけて、無事で済むと思うなぁ!」
「「!?」」
叫んだ黒蘭が魔力を放つのとほぼ同時に、花音と光輝は後ろへと突き飛ばされた。
「っ!夜天く……!」
ドオオン
夜天が盾のように自分の力を集中させた所に、黒蘭の魔力がぶつかる。
「消えろぉ!」
人が変わったような黒蘭の力が増していくのがわかり、それに合わせて夜天の持つ宝珠の光も増していく。
「生意気なのよ!下級魔族より格下の似非魔族が!」
「うぐううっ!」
「消えてなくなれぇ!」
「ぐううっ!うわああ!」
叫んだ黒蘭の力が高まり、夜天の力を打ち消す。
それにより、花音と光輝も吹き飛ばされた。
「夜天!」
「夜天くん!」
痛みはあったものの、すぐに起き上がり、倒れている彼に駆け寄る。
彼は花音や光輝と比べても、酷い傷を負っていた。
「お前、俺と姉上を庇って…….」
「この三人じゃ、俺が、一番攻撃を受けても、ダメージは少ない筈だからな」
言いながらも、痛みからか表情を歪ませる。
「とにかく、早く手当てを……」
花音がそう言った時、夜天の身体に黒いものが巻き付いた。
そのまま、花音と光輝から引き離すように引き摺られていく。
「がああぁ!」
「夜天!」
「ふふっ!」
引き摺られて苦鳴を上げながら近くに来た夜天を、黒蘭が見下ろす。
「貴方だけは許さない。私のプライドをズタズタにし、私の計画を、楽しみをぶち壊しにしてくれた貴方だけはね」
言って、夜天の胸に手を当てる。
「ふふ、跡形もなく消し飛びなさい」
夜天に向けて魔力を放出しようとする黒蘭を見て、花音は咄嗟に光の矢を放つ。
「っ!」
矢は黒蘭の手へ当たり、怯んだ黒蘭に光輝が光弾を放つ。
そして、それを避けて黒蘭が距離をとったのを確認すると、二人は夜天を庇うように割って入った。
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