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第12章

1
報告を受けてから数日、舞は意識が戻った他の仲間達と魔王城の食堂にいた 。
(……皆、意識は戻ったけど……、一体いつ仕掛けてくるつもりなんだろう ?)
意識は戻ってもまだ怪我も癒えてはおらず、本調子ではない皆を見ながらそんなことを思っていると、隣に座っていた聖奈が声を掛けてきた。
「舞、どうしたの? 」
「えっ? 」
「食事進んでないよ」
言われて視線を動かすと、確かに殆ど減っていない自分の分の食事が目に入った。
「気分でも悪いの? 」
「えっ?……いや、大丈夫です」
斜め前に座っていた聖羅にまで言われて苦笑いで返す。
すると、離れた席から笑う声が聞こえた。
「……お前が気にしているのは、莉鳳達から聞いた話だろう? 」
「……話って、何の話だ? 」
「……此処も魔神族に狙われているっていう話だ。負傷して弱っているお前達がいる今、いつ襲撃されてもおかしくはない。……まぁ、お前達が気付く前に仕掛けてきてはいないがな」
そこまで言って、緋皇はニヤリと笑う 。
「だが、機を伺っているのは確かだ。……だから、攻めてきやすいようにしてやった」
「攻めてきやすいようにって……」
「今、この城に莉鳳、風夜、風牙はいない。使いに出したからな」
「……つまり、今、この城にいるのは俺達だけか? 」
「そういうことだ。……どうだ?魔神族からしたら、好機だろ? 」
封魔が言ったことに返す声も愉しげだった。
(……魔族ってこんな人ばっかりなの?)
そんな緋皇に舞は内心そう呟くしかなかった。
2
(な、何か居づらい……)
自由にしていいとは言われたが、纏まっているようにも言われた為大部屋にいたが、空気は重くそんなことを思う 。
神帝だった父を失った聖姫は勿論、それ以外の軍人達の表情も暗い。
(……仕方ないって言ったら、そうなのかもしれないけど)
神帝の命だけでなく、神界すら奪われてしまったのだ。
舞にとって神帝は知らない人だったが 、〈天華〉の記憶の中では色々よくしてもらった覚えがあった。
(それに……)
暗い雰囲気の中、それを気にすることもなく、一人紅茶のカップを手に寛いでいる緋皇を見る。
(魔族とこんな風に協力体制になるなんて、〈天華〉と時には全く思ってなかったな。……正直、協力してくれる莉鳳のことを変わっている人くらいにしか思ってなかったんだよね)
そんなことを思っていると、ふとカップの置いた緋皇がニヤリと笑みを浮かべる。
「……来たみたいだぞ」
その声と共に、城が大きく揺れるのを感じた。
舞達が城の出入口の辺りに来ると、入口の扉が破壊されていた。
(……入ってはきていないみたいだけど)
扉は粉々だが、中に入ってきた様子はない。
「……さてと、出てみるか」
軽い調子で言った緋皇は、警戒もそんなにしないまま、軽快な足取りで外へと向かう。
「…………何か調子が狂うな」
「……っていうか、魔族の奴等、自分達のトップを完全フリーかよ」
「まぁ、凄く対照的だよな」
神族と比べているのだろう飛影と煌破に舞は苦笑する。
「……と、とにかく私達も行こう」
魔神族の襲撃者は、自分達を外へと引きずりだそうとしているのだろう。
だが、神帝を失ってしまった以上、もう一つの頂点を失ってしまうのは避けたいところだった。
3
先に出て行ってしまった緋皇を追い掛け、外に出ると、そこには魔神族の小隊くらいの軍隊がいた。
「……残念だったな。神界だけでなく 、魔界にも俺達魔神族がいて。神界では逃げられたが、今度は逃がさん」
「我々の手で始末してやろう」
小隊の中から二人の魔神族が出てくる 。
「裏切り者二人に、邪魔な神子、目障りな神界の軍人共に、麗玲様が全ての頂点に立つのに邪魔な魔王」
「全て始末すれば、我々も一気に出世できる。麗玲様や天奏様もお喜びになってくださる」
「……ふぅん。お前達、十人衆にもなれていない格下か。……なら、問題ないな」
そう言った緋皇に、魔神族の二人は顔を歪めた。
(ちょ、ちょっと、こっちはまだ皆、本調子じゃないのに)
何を考えているのかわからないが、挑発するようなことを言う緋皇に舞は少し青褪める。
「……確かに我々は十人衆ではない。だが」
「今のお前達は我々で十分だ! 」
増した殺気に空気が張り詰める。
「舞!花音! 」
それと同時に駆けてきた神蘭に肩を引かれ、その前に封魔と白鬼が立ち、飛影と煌破も身構える。
他の仲間達はと見回せば、聖羅や聖奈 、綾、聖姫もそれぞれ闘神達に庇われている。
(でも、まだ皆、怪我が治りきってない。……私が……)
「……大丈夫。お前達は動かなくていい」
舞が思ったのとほぼ同時に緋皇が言う 。
「それって、どういう……」
「……言葉の通りだ。……むしろ、邪魔になる」
その言葉と同時に魔神族の兵達が向かってきたが、その直後、その彼等を二振りの見えない刃が薙ぎ払った。
「何っ!? 」
一気に地に伏せた兵達を見て、誰からともなく声が上がる。
一瞬遅れて、緋皇の笑い声が響いた。
「ははは、あーはははっ」
ひとしきり笑った緋皇は、呆然としている魔神族を見て、笑みをニヤリとしたものへ変える。
「……お前達はこの城を攻めて、追い詰めたつもりかもしれないが、お前達の方が誘い出されたんだ。……見張ってるつもりで見張られていたんだ」
そこまで言って、少し離れた辺りへ視線を移す。
「お前達、もういいぞ」
その声を聞いて、風夜と風牙、莉鳳と舞の知らない魔族が数人現れた。
4
「な、何だと!? 」
現れた風夜達を見て、魔神族の兵を引き連れていた二人の魔神族が狼狽える 。
「城からそいつらを出したのは、俺達を監視しているお前達を監視させる為だったんだ」
言葉を続ける緋皇から視線を風夜達の方へ向け、舞は花音に声を掛ける。
「先輩、風夜達といるのは? 」
「あの人達も仲間だよ。……会うのは一年振りだけどね」
今の内に見たことのない者達が何者なのか聞いた舞に答えたのを聞いて、飛影が溜息をつく。
「神族と魔族は相容れないものだと思っていたが、……一年前に二つの種族を繋げたことで今回は命拾いできたってことか」
「風夜のお陰なんだけどね」
花音が苦笑いで返してくるのを聞いてから、舞は再び緋皇と魔神族の方へ視線を戻した。
「で、どうする?お前達の奇襲は失敗だった訳だが、このまま引き上げるか ?」
「……ふん、そんな訳ないだろう」
「予定は狂ったが、退くつもりはない ! 」
その言葉に緋皇はやれやれと肩を竦める。
「……仕方ない。……来いよ。今回は特別に俺が相手になってやろう」
言いながら、挑発するように手を動かす。
それに魔神族の二人は頭に血が上ったらしく緋皇へと突っ込んでいく。
その二人が地に伏せ動かなくなったのはすぐ後のことで、興味を失ったらしい緋皇が踵を返す。
彼が何かをしたのは間違いなかったが 、一瞬のことすぎて何をしたのかまでわからなかった。
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