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第10章

1
「……少しは何か思い出せたか?」
聞こえてきた声に舞は我に返る。
そして、声を掛けてきた煌破を見て、一つ頷きを返す。
「……ええ。……全部ではないけど、あなたが知りたいと思っていることの切っ掛けになっただろうことはね」
「……なら、聞かせてもらおうか?」
「いいけど、……その前に聞かせて。私が話をしたら、私達をどうするつもり?」
「……心配しなくても、あいつらの所へ帰してやるよ。これは返せないが、もう一人の女はつけてな」
〈水〉の珠を見せて言ってきたことから、もう一人の女というのは水蓮のことだろう。
「……随分とサービスがいいのね」
「俺も……、飛影と同じように卑怯な手段は好きじゃないってだけだ」
その言葉に舞は花音と視線を交わし合う。
そして、舞は思い出したばかりのことを話し始めた。
飛影との出会いから今思い出せたところまでを話すと、煌破は深く溜息をつく。
「それで、その後から飛影とは少しずつ話をするようになって……」
「……成る程な。……確かに途中から様子がおかしいとは思っていたけど、そのうちに彼奴も考え事をしていることが増えて、最終的に魔神族を抜けた 」
「……そういえば、途中から天華の所に飛影が現れても、戦うより話していることの方が多かったかも」
話しているうちに思い出してきていたのか、花音がそう呟く。
その時、ふと煌破の雰囲気が張り詰めたような気がして、舞は言葉を止めた。
異変を感じたのか、花音の表情も不安気なものになる。
「……囲まれたか」
「「えっ?」」
ふと煌破が呟いたことに舞と花音は思わず声を上げたが、それに構わず煌破は部屋を出て行こうとして、何かを思い出したように立ち止まり、何かを投げ渡してくる。
「……鍵?」
反射的に舞が受け止めれば、それは二つの鍵だった。

『それを持って地下へ行け。そこに閉じ込めている奴を出したら、そこからまっすぐに進めば外へ出られる』

煌破のその言葉のとおり、舞と花音は地下へと続く階段を下りていく。
地下の牢はそれ程の広さはなかった為、すぐに水蓮が閉じ込められている牢は見付かった。
「水蓮ちゃん!!」
「花音!それに舞まで!どうして、此処に!?」
驚いたように声を掛けてくる水蓮に何も返さないまま、舞は煌破から受け取っていた鍵を差す。
「よし、開いた!」
「話は後だよ。急いで此処を出よう! 」
舞が声を上げると同時に、花音が水蓮に声を掛ける。
「え、ええ」
頷いた水蓮が牢から出て来るのを確認すると、舞と花音は煌破が言っていたように牢の前、真っ直ぐに伸びている通路を走りだした。
2
通路を走っていき、行き止まりになってあった梯子を上ると、そこは何処かの小屋の中だった。
「こんな所に繋がってたの……」
「何かあった時の非常用脱出経路ってところね。私の城にもあるわ」
「でも、これでどれだけ離れられたんだろう?」
花音がそう呟いた時、少し離れた辺りから爆発音のような音が聞こえてくる。
「「「!? 」」」
慌てて小屋を出ると、僅かに空が紅く染まっている場所があった。
「もしかして、彼処が……」
「さっきまで私達がいた煌破の屋敷… …」
「そういえば、……煌破が囲まれてるとか言ってたような……」
(私達、逃がされたってこと? )
そんなことを思っている間に、もう一度爆発が起きた。
「……とにかく、此処にいたんじゃ追いつかれるのも時間の問題だし、もっと離れよう」
「そうね。戻っても私達に出来ることはないわ。……折角逃してくれたんだし、今はその気持ちに甘えるべきよ」
「……そうですね」
花音と水蓮に言われ、舞は屋敷のある方から視線を逸らす。
二人の言うように今は他の魔神族に捕まらないようにする為にも、煌破の屋敷から更に離れるのが先決だった。
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