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第9章

1
朝食を終えた舞が屋敷を出ると、すぐ外には聖姫の姿があった。
一人でつまらなさそうな表情をしている彼女に舞は近付いていく。
「……何をしてるんですか?」
そう声を掛けると、彼女はふいっとそっぽを向いてしまった。
「……えっと……」
「……つまらないわ。此処」
「えっ?」
思わず聞き返した舞に、聖姫は再び不満そうな表情をした。
「……つまらないって言ったの!何よ、此処!何もないじゃない!それどころか建物はボロボロだし、何だか焦げ臭いし」
「それは、この街は魔神族の襲撃を受けたばかりで、今はまだ復興中なんですよ」
聖姫の言葉に少し思う所はあったが、街が襲われたことを知らないからだろうと思いなおして舞は言う。
「はぁ!?襲われた?……何よそれ。星蓮達が神界の方が危険だって言うから、お父様の言葉もあって付いてきたのに……。此処に来ても一緒じゃない!」
そう言って、聖姫は屋敷の方へ入っていってしまう。
その後ろ姿を見送って、舞は溜息をつくと復興を手伝う為、街の中心へ向かうことにした。
2
瓦礫などの片付けを手伝い、少し休憩をしようと舞が屋敷に戻って来たのは昼を少し過ぎた頃だった。
食堂に来ると、同じように花音が戻ってきていた。
「先輩」
「あ、舞ちゃんも戻ってきたんだね」
「私は少し休憩しようと思って……。先輩は?」
「私は光輝達の様子を見ようと思ってね。それと封魔さん達に食事を持っていこうかなって準備してたんだ」
そう言って花音は用意していたのだろうサンドウィッチを見る。
「私も運ぶの手伝いますね」
「うん。お願い」
花音に頷いて返すと、舞はサンドウィッチの横にあったポットとカップの乗ったトレイを持った。
二人が封魔の休んでいる部屋の前に来ると、中から話し声が聞こえてきた。
最初は彼についていた蒼魔や星夜、楓と話しているのかと思ったが、違うと気付く。
聞こえてきたのは怒ったような女の声で、舞と花音が中に入ると、聖姫の姿があった。
彼女は ベッドの上にいる封魔に対して文句を言っているようで、蒼魔と星夜、楓が宥めようとしているのも聞かない様子だった。
「だいたい、貴方の所為よ!貴方がお父様からの任務をもたもたしているから、私がこんな所に来ることになったんじゃない!魔神族だってすっかり勢いづいちゃって、ちゃんと責任とってくれるんでしょうね?」
「…………」
きつい口調で言う聖姫に、封魔は何も言い返さない。
そんな彼の代わりに口を開いたのは蒼魔だった。
「聖姫様、封魔が思うように動けなかったのは、我々が数百年前任務に失敗し、捕らわれていたことが原因。……それに、総長と副総長が魔神族側だったというなら、下手に動けな……」
「煩い!軍人が私に口出ししないで!」
そう声を上げる聖姫に、舞は思わずムッとする。
「ちょっと、そんな言い方……」
「あなたもよ。天華の転生者だか何だか知らないけど、神子より私の方が偉いのよ!私の父が神帝なんだから」
そこまで言って、聖姫は何かを思いついたような表情になった。
3
「そうだわ!何なら、私が命令してあげましょうか?神界を守る為に総長達を殺しなさい!そもそも貴方は魔神族に加担した時点で、もう神界に戻れないのだから、……それを悔いているのなら、命をもって償いなさいな。……ああ、でも……、総長達に敵わないから言うことを聞くしかなかったっていうなら、……逆に殺されてお終いかしらね。ふふ」
「……っ……」
言いたい放題の聖姫に段々我慢がきかなくなってくる。
「……でも、最期くらいは少しは役に立って……」
その言葉の途中、ふと舞が持っていたトレイからポットが取られる。
その直後、ビシャッと何かをかけるような音と聖姫の悲鳴が響いた。
驚いて視線を向けると、彼女の髪から水のようなものが滴っている。
(一体、何が……?)
そこまで思って、何が起きたのか見えていたのだろう封魔達が驚いたように視線を向けている方へ視線を向ける。
そこにはポットを手にした花音がいて、舞も正直驚いた。
「せ、先輩……」
「……な、何するのよ?」
何が起きたのかわからなかったのだろう聖姫が我に返って叫ぶ。
「いくら神子の転生者だとしても、私にこんなことして許されるとでも思っているの?!」
「……それでも、……今の言葉、取り消すまでは謝りませんから」
花音にしては珍しくそう言い放つと、部屋を出て行ってしまう。
舞もすぐに花音を追い掛けることにした。
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