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第1章

1
「封魔、さん」
片手に剣を持ったまま、歩いて近付いてきた封魔が神蘭の肩に手を掛ける。
そのまま、彼の背後へと引っ張られた。
「……下がってろ」
そう言いながら、封魔が身構える。
それを見ながら仮面の男が同じ様に月夜を背後に下げると同時に、周りの空気が張り詰めたように感じた。
そのまま、静寂が訪れる。
仮面の下の表情は見えないが、それでも封魔の動きを伺っているのがわかる。
同じ様に鋭い目を向け、身構えている封魔もそれ以上は動こうとしない。
神蘭にはその時間がやけに長く感じられた。
お互いが動かないまま、どの位の時間が経ったのか、ふと近くで燃えていた炎が弾ける。
その瞬間、それまで動かなかった二人の姿がその場から消え、丁度中央辺りで剣と剣が激しく斬り結んだ。
ギイイイィン
その後、直ぐに弾き合う音がして、少し離れた場所で再びぶつかりあっては弾き合う音が響く。
だが、神蘭にはその音は聞こえても姿を確認することはできなかった。
(は、速すぎて、動きが全然捉えられない!これが闘神の)
そう思った時、これまでより激しく斬り結ぶような音が近くで聞こえてくる。
それに神蘭がハッとすると、二人の姿は彼女から僅か二メートルくらいしか離れていない場所で剣を交えていた。
「……お前の相手は、俺だ。それとも、何だ?俺より先に此奴を始末しなければならない訳でもあるのか?」
「ふん。お前こそ、只の訓練生一人を気に掛けすぎではないのか?それとも、此奴にそれだけ特別な何かがあると?」
そんな会話をしながらも、お互いが押しきろうとしている様に剣と剣が擦れ合う音がする。
その会話から隙をついて男が神蘭を狙い、その攻撃を封魔が防いでくれたのだろうと思う。
二人の力は互角なのか、拮抗状態になり、お互いが拉致があかないと思ったのか、弾き合う様にして大きく距離をとる。
次の瞬間、今度は二人が放ったエネルギーが激しくぶつかり合った。
2
「……っ」
封魔の背後にいるものの、ぶつかり合っているエネルギーが凄まじいからか、風圧に飛ばされそうになるのを堪える。
「「はあああああ!」」
その間にもどちらも一歩も引かないエネルギーは更に激しくなっていく。
(互角……)
手出し出来ず、ただその様子を見ているしか出来なかったが、拮抗している様子にそう思う。
封魔が闘神という名に相応しい実力を持っているのは知っている。
相手はその彼と少なくとも同等の力を持っているようだった。
そんな奴が相手では、養成所の訓練生や教官位では歯が立たないだろう。
それはわかったし、此処で封魔が負けるとも思いはしなかったが、ただ見ているしかできないのが悔しい。
そんなことを思っていると、ふと仮面の男が何かに反応した。
同時に更にエネルギーの衝突が激しくなり、爆発が起きる。
その爆発が収まった時には、仮面の男と月夜の姿はなく、封魔の舌打ちが聞こえてきた。
「ちっ!逃したか」
「封魔!」
その時声がして、自分よりも年上の青年が現れる。
青年はどこか封魔に似ていた。
「兄上」
その青年に向かって、封魔が言う。
「遅いからな。様子を見に来た。その子で最後か」
「ああ。厄介な奴がいて、少し手こずった」
「お前が?珍しいな。まぁ、いい。とにかく、戻るぞ」
「ちょっと、待ってください!」
「ん?」
神蘭が上げた声に青年が振り返る。
「さっき言ってた私が最後っていうのは?」
「ああ。それなら、君以外の訓練生達は既に軍が保護したからってことだよ」
そう言って、青年は優しく笑った。

「神蘭!」
封魔と青年についていくとそう声がして、鈴麗が駆け寄ってくる。
「よかった。神蘭も無事だったんだね」
「鈴麗こそ、よかった」
逃げている内にばらばらになってしまい気にしていたが、怪我もない様子にほっと息をつく。
辺りを見回せば、彼女以外にも大勢の訓練生達の姿があり、それ以外に軍人達の姿も見えた。
(皆、軍に助けられたんだ)
そう思っていると、不意にそれまで笑っていた鈴麗の表情が暗くなった。
「でも、私達これからどうなっちゃうんだろ?」
そう言った鈴麗の不安そうな声に神蘭もハッとする。
訓練生達は無事でも、建物の被害は大きく、教官では犠牲者も出ているのだ。
それを思うと、これからどうなるのか、どうすればいいのかわからない。
そんな時、ふと周りのざわめきが大きくなる。
それに視線を動かすと、神界軍の総長と副総長が封魔と彼が兄と呼んだ青年以外の闘神達を連れ、此方へ歩いてくるのが見えた。
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