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第9章

1
「でも、驚きましたよね。……まさか神界のお姫様が来るなんて……」
朝食の準備をしながら、舞は一緒にいた花音に言う。
「……うん。でも……」
複雑そうな表情の花音に、舞も神界の姫だという聖姫が来た時のことを思い出す。
(そういえば、神界が危険になってきたから、連れ出してきたって言ってたっけ?)
そんなことを思いながら、舞がスープを混ぜていると、食堂の扉が開かれると共に声が聞こえてきた。
「あー、お腹すいたー。ご飯まだ?」
言いながら入ってくる聖姫に、舞と花音は顔を見合わせる。
とりあえず今出来ているベーコンエッグとサラダ、パンを持っていくことにした。
「はい、どうぞ。あと少しでスープも」
そこまで言った時、聖姫はキッと視線を向けてきた。
「……何、これ?」
「何って、朝食ですけど……」
「これが?こんなのが朝食?」
「そう言われても……」
「舞ちゃん、どうしたの?」
出来たスープを持ってきた花音がそう声を掛けてくる。
「それが……」
話をしようと口を開いた舞の横から、聖姫がスープを覗きこむ。
「……いらない」
「えっ?」
ぽつりと呟いた聖姫に、花音も思わず声を上げる。
「だから、いらないって言ってるのよ!こんな一般人と同じようなもの食べないから!」
そう言って、聖姫は出て行ってしまう。
「……何だ?どうかしたのか?」
彼女と入れ替わるように風夜が入ってきたが、舞にも何が気に入らなかったのかわかっていなかった為、返しようがなかった。
2
「……なるほどね」
聖姫が出て行ってから、少しして飛影、莉鳳と共に入ってきた星蓮が溜め息をついた。
「……聖姫様は今の神帝の御息女。普通なら、神帝の住む城を出ることはないお方」
「……まぁ、普段から甘やかされているんだろ」
自分の分として出されたパンを齧りながら、莉鳳が言ったのに対し、星蓮は困ったように笑う。
「とはいえ、神界を出てこの街に身を寄せた以上、一人だけ特別扱いという訳にはいかないでしょう。……この街もかなり被害があるし、食料だって限りがあるでしょうしね」
「……うん。……今は闇の国……、夜天くんのお父さんでもある国王が援助してくれてるから、贅沢は出来ないし」
「……とにかく話してみるわ。……ご馳走様」
そう言うと星蓮は片付けてから、食堂を出て行く。
「……話をして、それを聞いてくれるようなら、まだいいけどな」
飛影が呟いたことに、舞は苦笑するしかなかった。
「……とにかく、早く食べて街に行こう。復興を手伝わなくちゃ」
「……だな」
「私は先に街の皆の様子を見てくるよ。光輝と夜天くんの意識が戻ってないから、私が報告しないといけないし、神蘭さん達にも差し入れしてこないと」
「一人で大丈夫か?」
エプロンを外し、大きなバスケットを持った花音に風夜が声を掛ける。
「……大丈夫だよ」
そう返した花音はそれを持って出かけて行く。
「……街のことが気になって落ち着かないみたいだな」
「……仕方ないだろ。……今回は他にも色々あったからな。……花音も動いていた方が楽なんだろ」
そう言って、風夜も席を立つ。
「俺も先に行ってるぞ」
風夜が出て行ってしまえば、食堂は舞と飛影、莉鳳の三人だけになってしまった。
「ほら、お前も行くんだろ?」
「う、うん。ちょっと待って」
そう返して、舞は慌てて食事を始めた。
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