このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繋がる絆

1
「はーはははっ」
一度体勢を立て直そうと森の中へ身を隠した花音の耳に、男の狂ったような笑い声が聞こえてくる。
何事かと木の影から様子を窺うと、男は笑いながら、辺りに様々な力を放っていた。
「……おかしい」
近くにいた神蘭の呟く声が聞こえ、彼女を見る。
「おかしいって……?」
「さっきは気が付かなかったが、こうして少し離れてみてわかった。あの男、暴走しかけているな」
「ああ。まだ自我は残っているみたいだが、それもいつまでか」
「まぁ、そう長くはないな。もっても、あと数分ってとこか……」
「……って……」
龍牙と白夜に続くように、風夜の声がする。
それを聞いて、違和感を感じた花音が視線を向けると、彼は何処か愉しげに男の方を見ていた。
「……どうして、あなたが《表》に出てきているのかしら?」
そう言った沙羅に、風夜は男から視線を外し、花音達の方を見てニヤリと笑った。
その笑い方と紅い両眼、沙羅の言葉から今、目の前にいるのは、風夜の中に吸収された筈のもう一人の彼だとわかる。
だが、何故今、出てきたのかはわからなかった。
「ふん、何だか手こずっているみたいだったからな。……それにしても、なかなか面白いことになってるな。あいつ、元々は人間だろ?限界が近いとはいえ、よく今まで自我をもっていたな。普通なら、とっくの昔に、暴走して破壊の限りを尽くしていたはずだ」
「暴走って……、風夜の時みたいな……か?」
「あんなどころの話じゃないさ。……この際だから、教えといてやるよ」
光輝が言ったことに、[風夜]はそう返した。
「俺は、こう見えても上級クラスの魔族だ。その俺が本気で殺すつもりで、攻撃したのに、お前等が怪我で済んだのも、不意をつかれたとはいえ、一撃で昏倒させられたのも、全部もう一人の俺のせいだ」
「……どういうことだ?」
[風夜]の言葉に空夜が問い返す一方、花音は彼が暴走して、自分達を攻撃した時を思い出す。
(そういえばあの時、誰かに邪魔するなみたいなこと言ってたっけ)
「どういうことも何も、あの時も今と同じように表裏が入れ換わっていただけで、あいつの意識は俺の中にあったんだよ。あいつが中から邪魔をして、俺の力を半減させ、軌道も逸らせたから、お前等に直撃はしなかった。そのうえ、抵抗して感覚を鈍らせてきたせいで、闘神であるお前等の接近にも気付かなかったって訳だ」
「だが、お前が目覚めるまでは、普通の人間だったんだろう。そこまで抵抗出来るとは思えないが」
「それが、あいつの姉が仕込んだ術のもう一つの効果だ」
「!!姉さんの……!?」
[風夜]はそう返して、言った封魔ではなく、沙羅を見た。
「成る程、沙羅さんのお姉さんは保険をかけていたのね。……もし、魔族としての人格が出てしまった時、あまり好き勝手出来ないように」
そう神麗が感心したように言った時、男の狂ったような声が聞こえてきた。
それと同時に、[風夜]が顔をしかめる。
「…….ちっ、わかってる。文句なら、色々と聞いてきたこいつらに言えよ。……ああ、ちゃんと約束は守ってやる」
〈中〉にいる風夜との会話だったのか、そう言うと、[風夜]は背中に一対の翼を出した。
2
「ちょ、一体何を……」
森から出ていこうとする[風夜]に、花音は慌てて声を上げる。
「……魔族は、実力主義でな。最下級、下級、中級、上級、最上級、下位になればなるほど上位の者には逆らえない。……あいつは、それぞれの種族の繋ぎを強くするために、最下級の魔族を吸収させられたらしいが、俺には及ばない。……奴と交代する前に、少しだけ手伝ってやるよ」
そう言って翼を広げると、止める間もなく出ていってしまう。
それに気付いたらしい男が、[風夜]に向かって、攻撃しようとする。
だがその前に、[風夜]が全身から魔力を放った次の瞬間、男の動きが止まったのがわかった。
動きを止めている男に向かって、[風夜]が接近したと思うと、すれ違いざまに何かを斬る。
それは男が着けていた首飾りで、それを拾い、花音達の所へ戻ってきた。
「さてと、これであいつはもう属性のある技は使えない。どうする?」
「どうするって言われても……」
「それを壊した所で、消えた人達が戻ることはないだろうしな」
「なら、私が貰ってもいいかしら?」
困ったように返した水蓮と大樹に、神麗が言う。
「ちょっと調べてみたいの。でも、その前に……」
そう言って、[風夜]から受け取ったばかりの首飾りに付いていた珠を外し、花音に渡してきた。
「えっ?」
「今はそれを使わせてもらいなさい。……そろそろ、タイムリミットみたいよ」
神麗がそう言った時、男が雄叫びを上げる。
それと同時に、今まで繰り返してきた実験の影響でか、その姿を醜く変えていく。
数秒後には、もう男の面影すらなくなっていた。
「……憐れだな」
そんな姿を見て、[風夜]は呟くと、目を閉じる。
「……時間だ。後は任せる」
そう言ったかと思うと、翼は消え、次に目を開いた時には、いつもの風夜に戻っていた。
9/12ページ
スキ