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繋がる絆

1
花音達が火焔を連れ、森へ戻って来ると、入口の所で沙羅と神麗が待っていた。
「お帰り、皆、待ちくたびれてるわよ」
「蘭ちゃん達ももう戻ってきてるしね。……あら?」
そこで火焔に気付いたのか、神麗が声を上げ、火焔は気まずそうな表情で軽く頭を下げる。
「彼は?」
「……ああ。火の国の皇子だ。数ヶ月前までは、一緒に行動していたな。こいつには、色々聞きたいことがあるから連れてきた」
問い掛けた沙羅に、風夜が淡々と答える。
「……そう。なら、皆の所へ行きましょう。話なら、皆もいた方がいいでしょう」
それを聞いた沙羅は踵を返し、花音達もそれに続くように森の中へ入った。
「ピイイ」
「姉上!」
仲間達が待っていた辺りまで来ると、直ぐに気付いたらしい白亜が飛んできて、光輝達も花音達の方へ来ようとして、直ぐに止まる。
「……火焔」
「何でいるんだ?」
夜天と雷牙が花音達の後ろにいる火焔を警戒するように見る。
「こいつ、向こうを裏切ったらしいから、知っていることを話してもらおうと思ってな」
「いつかみたいな、振りじゃないのか?」
そう言った凍矢に、同じことを思ったのか、数人が疑いの視線を向けていた。
「……いや、前とは少し違うみたいだ」
そう言いつつ、風夜が視線を向けてくる。
それを受けて、花音は合成獣のデータを取り出した。
「それは?」
「火焔くんが持ってきてくれたの。合成獣実験のデータだよ」
神蘭がすぐに問い掛けてきて、答える。
「本物か?」
「ああ。その確認はしてある。間違いない」
「そうか。なら、その資料、貰ってもいいか?データがあるから、上に渡しておきたい」
「う、うん」
本物か偽物かの確認はしてあると言った黄牙に、少し考えて神蘭が言う。
花音もこのまま持っているよりもその方がいいと思い、神蘭に渡した。
「でもさ、花音ちゃん。資料は本物だとしても、信用しきって大丈夫なの?」
それまで黙っていた美咲が言う。
「確かに。今までのことを考えるとな」
光輝のその言葉を聞いて、火焔が自嘲するような笑みを浮かべる。
その時、火焔の身体を拘束するように何かが巻き付き、更に彼の後方にあった木へと縛り付けた。
「うぐっ!」
急なことに身構えていなかった火焔は、木に背を叩きつけられ、花音達はそれを唖然とした表情で見る。
「さてと、これならいいだろ。動けなければ、何も出来ないからな」
何が起きたのかと思っていると、風夜の声がする。
「力で逃れようとしても、拘束しているのは俺の力だ。火焔の力である火を使えば、自分の身を焼くことになる。だから、力を使って、脱出はできない。話が終わるまで、この状態なら問題ないだろう」
そう言った風夜は、どこか楽しそうだった。

「……で、俺は何から話せばいいんだ?」
木に拘束されたまま、火焔が口を開く。
「そうだな。まずは何故今になって、此方に戻ってきたかだろ?」
そう言った風夜に、火焔は少し考えてから話し始めた。
「まだ向こうにいた時、偶然あいつらの話を聞いて、このままあいつらを信用していていいのか、わからなくなった」
「その話っていうのは?」
「……あいつらは、この世界を手に入れる為に、俺達を利用していたんだ。異界から連れてきた男のやっていた実験も、まだ繰り返すつもりらしい。それで、この世界の後、別世界を攻めるようなことも言っていたけど」
そこまで言って、火焔は一度言葉を止め、神蘭達の方を見た。
「そういえば、あいつら、この世界を手に入れた後、誰かをこの世界に迎えいれるとか言ってたな。そのこと、お前等は?」
「……いや、奴等がこの世界を手に入れたがっていたのと、誰かが後ろにいるのはわかってたが」
「それがどんな奴なのかまでは、まだな」
火焔に聞かれ、神蘭は首を横に振り、封魔が呟く。
「奴等を動かしてる、黒幕か……」
「心当たりもないのか?」
「元々、前の戦いで出てきたのは、窮姫だけだ。その戦いの後、私は眠りについてしまったし」
答えながら、神蘭が封魔、鈴麗、龍牙、白夜を順に見たが、四人も首を振っただけだった。
「お前等が知らないなら、それが誰でどんな奴なのかってことが、全くわからないってことか」
「うーん。全く心当たりがないって訳でもないわよ」
その時、そう口を開いたのは、神麗だった。
「ね、沙羅さん」
「そうね。もしかしたら、私達は知っているかもしれないわ」
そう言った神麗と沙羅に、全員の視線が集まってしまったのは、仕方のないことだった。
「…………」
「花音」
「!!」
一人ぼんやりとしていた花音は、後ろから掛けられた風夜の声で我に返った。
「どうした?ぼんやりとして」
「うん。なんかさっきの話を聞いたら、ちょっとね」
そう返しながら、花音は少し前に神麗と沙羅から聞いた話を思い出す。
『前に花音と風夜には、姉さんが窮姫に殺されたって話をしたと思うけど、その時にもう一人、女がいたの。窮姫もその女に従っていたみたいだから、恐らく黒幕はその女よ』
『私も一度だけ見たことあるわ。少し離れた所から、ちらりと見ただけだけど、とても強い力を持っているのはわかったわ。……それこそ、窮姫よりも強い力をね』
「……不安か?」
再び風夜の声が聞こえ、花音は彼の方を見た。
「……不安っていうか、なんかよくわからなくなってきちゃった。一番最初にこの世界へ来た時は、陰の一族が相手だったのに、その背後には窮姫っていう女がいて、その仲間がいて、キメラ達もいて、更にまた別の黒幕もいるなんて……」
「……まぁ、片付けられるところから、片付けていくしかないだろ。……折角、火焔がデータを持ってきてくれたんだ。またデータを集められないよう、あの研究員の男と今いるキメラをどうにかする。まずはそこからだ」
それに頷こうとして、ふとあることを思い出す。
「そういえば、火焔くんが言ってたよね」
「ん?」
「まだ合成獣実験を繰り返すって。今までもその実験に多くの人が使われてきたけど、水蓮ちゃん達は大丈夫なのかな?」
「…………」
そう問い掛けたが、風夜からは何も返ってこなかった。
「風夜?」
何も返してこない風夜を不思議に思って彼を見ると、何故か空を見上げるように睨みつけていた。
「どうし……」
「ふふ……」
問い掛けようとした声を遮るように、窮姫の笑い声が聞こえ、彼女が姿を現す。
「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。……あなた達に届けものに来ただけだから」
「届け物?」
「ええ、そうよ。届け《者》よ」
その言葉と共に、窮姫が指を鳴らす。
すると、彼女と花音達の間の空間が歪んだかと思うと、中から四人の人が落ちてきた。
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