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第8章

1
舞達が炎を操っている者がいるという場所に来て見たのは、紅い巨大な球に閉じ込められている火焔とその前で高笑いしている一人の男、炎に囲まれている雷牙達の姿だった。
「……一人で随分と楽しそうだな」
ぐったりとした様子の四人を見て飛び出していこうとしていた舞と花音は風夜に制される。
その彼は高笑いしていた男に向けて冷たい声を上げた。
そこで男は舞達に気付いたらしく笑うのをやめて、視線を向けてくる。
その目が一瞬何かに驚いたように見開かれた後、ニヤリとしたものに変わった。
「……驚いたな。こんな所で我等を裏切り、行方知れずになった奴と再会するとは」
「何を言って……」
何のことだと聞き返そうとした舞の横にいた飛影が動く。
「……ああ。久しぶりだな。相変わらず、卑怯な手を使うのが好きらしい」
「ふん。ただ使える駒は全て使う。それだけだ」
そこまで言った男が舞の方へ視線を向けてくる。
「……なるほど。……そいつがいるから、まだ此方へ戻ってくる気はないのか」
「……もう戻るつもりはない。……お前等のやり方にはついていけない」
「……それは残念だ」
「ねぇ、一体何の話をしてるの?それに……この男は……」
痺れを切らせた舞がもう一度口を挟むと、男はククッと笑った。
「俺は魔神族十人衆の一人、破皇。天奏様からこいつらの監視と裏切り者の抹殺を任された者だ」
そう言いつつ、破皇と名乗った男は、炎の中で倒れている雷牙達と紅い巨大な珠の中でぐったりとしている火焔を見た。
「……つまり、この炎はお前の仕業ってことか」
「だが、お前にそんな力はなかった筈だ。火焔達から奪った力があったとしても、お前達に使えるとは思えない」
「だからこそ、火の珠を授かったのさ」
「珠?……まさか、その珠って……」
花音が火焔の閉じ込められている方を見る。
「そう。……天奏様から頂いた珠を私は更に改良して、兵器とした。元の力の持ち主を核として、その能力を使える。……私はただ見ているだけで、その力に応じた攻撃を使えるといった優れ物だ」
「そんなことをしたら」
花音が息を呑む。
「珠に取り込まれている奴は、力を全て搾り取られ、命はないだろうな。だが、仕方あるまい。死にたくないなら、その前に結果を出せばいい」
「……あんたねぇ」
「……ともかく、今回の仕事は楽でいい。俺はただこうして見ているだけでいいんだからな。……裏切り者共は仲間の炎に焼かれ、死に損ないはいずれ力尽き、街と共に消える。火の珠の力も失うのは勿体無いが、まぁ、十分な手柄だろうからなぁ。……はははははは」
そう言った時、僅かに風の音がして、破皇の顔を切りつけたように見えた。
「……ん? 」
頬に出来た傷から流れる血を拭い、破皇が不快そうな表情を向けてくる。
「……貴様」
「……調子にのって、喋りすぎなんだよ」
そう言った風夜が片手で何かを引き抜くような動作をする。
それと同時に何かが割れるような音が響き、次いで倒れる音がした。
視線を向けると先程まであった巨大な珠は欠片になり、そこに火焔が倒れている。
(い、いつの間に?……っていうか、そんな簡単に壊せるものだったの?)
「……返してもらうぞ」
舞がそんなことを思っていると、低く呟いた風夜が倒れていた火焔を引き寄せる。
火焔を助けたからか、雷牙達を囲んでいた炎も、光の街を焼き払おうとしていた炎も消えているのを見て、舞は安堵したが、邪魔をされた破皇は怒っているようだった。
2
「光輝!火焔くん!夜天くん!雷牙くん! 」
意識がなく倒れている四人に花音は駆け寄り、膝をつく。
そのまま治療しようとしているのか力を発動させたのを見ていると、風夜の声が聞こえてきた。
「……花音達のことは任せるぞ。こいつは俺がやる」
「えっ?やるって、一人で? 」
「奴は魔神族十人衆の一人だけあって並みの強さじゃないぞ。それを一人でなんて」
驚いた声を上げる舞と飛影に、風夜が視線を向けてくる。
(目の色が……)
いつもは金色の目が紅く変わっていた。
「……こいつだけは許す訳にはいかない。それに、舞が魔神族に有効な力を持っているとしても、いきなり上層部の相手を出来るとは思えないし、花音達五人を一人で守れるとも思えないんでな」
「……わかった」
飛影が返して、舞にも視線を送ってくる。
「何だ?一人で相手がつとまるとでも思っているのか? 」
風夜に言われたことは事実でもあった為、言い返すことも出来ず、舞が渋々と下がったのを見た破皇が言う。
「この十人衆、破皇に勝てると思っているなら、それは……」
「……煩えよ」
遮った声は酷く冷たい。
「……何だと? 」
「いいから、始めようぜ。……俺は今、凄く苛ついているんだ」
その言葉と同時に、風夜から今まで感じたこともない位の殺気が放たれたのを感じた。
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