このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第8章

1
「「「…………」」」
激しく燃え上がる炎が屋敷を覆う結界にぶつかるのを呆然と見ている雷牙、夜天、光輝の横で破皇は愉しげに笑っていた。
「ふん。……無駄な抵抗だな。……ほら、もっと力を絞りだせ!……死に損ないの結界なんて、突き破ってやれ! 」
その声と共に、火焔を閉じ込めている珠の光が強まり、火焔の悲鳴が響く。
それに声を上げたのは、雷牙だった。
「っ!!……もう止めろ!……それ以上は……」
「……こいつが死ぬ……か?だったら今からでも封魔を殺してこい。それが出来ないなら、……こいつがまず死ぬだけだ」
そう言う破皇を思わず睨み付けると、不快そうに睨み返してきた。
「……何だ、その顔は。……我々を裏切るつもりか?」
「…………」
それに何も返さないでいると、破皇の懐で何かが光った。
「おっと……、報告の時間か。……少し席を外す。妙なことはするなよ」
そう言って、破皇は姿を消す。
それを確認した確認した後、それまで黙っていた雷牙の両親でもある魔神族が近付いてきた。
「……いいの?このままで……」
そう声を掛けられた雷牙が火焔の方を見る。
「友人なんでしょう?助けるなら今しかないわよ」
「……破皇様達はお前達が協力すればお前達の国には手を出さないと言ったが……、それを信じては駄目だ。……麗玲様も天奏様も自分達に少しでも従わない者がいる場所を攻撃しないということはない。ただ、攻められる順が後に回されるだけのことだ」
「……これを信じるかどうかはあなた次第よ、雷牙」
「……おい、どうするんだ?雷牙」
「もし、こいつらが言っていることが本当なら、俺達がしたことは……」
「……」
戸惑ったような夜天と光輝の声を聞きながら、雷牙は今度は両親の方を見る。
二人は何処か優しい表情をしていた。
2
「……ううっ……」
雷牙が珠へ攻撃を加えたせいか、珠へ僅かなひびが入り、中にいる火焔が呻く。
そして、衝撃で少しだけ意識がはっきりしたのか薄らと開いた目で見てきた。
「雷牙……、お前……」
「……悪い。……でも、俺は……」
そこまで雷牙が言った時、ふとまだ虚ろだった火焔の目が何かに気付いて見開かれる。
「……危ない!! 」
その声に反応する前に、雷牙の身体に衝撃が走った。
「ぅぐっ……」
何があったのかと視線を巡らせると、同じように地に伏した光輝と夜天、それから戻ってきていたらしい破皇の姿が確認出来た。
「貴様ら、裏切ったな」
そう言う破皇の声は怒りからか震えている。
「……封魔の始末を失敗するだけでなく、この作戦すらも邪魔をするつもりか?……そうはさせん。邪魔をするなら此処で排除する。だが、その前に……」
破皇は言いながら三つの透明な球を取り出した。
「お前達の力も貰っておこうか」
言葉と共に雷牙、夜天、光輝に向かって球が放り投げられる。
「っ……! 」
それと同時に身体から力が抜けていくような感覚があった。
(くそっ……力が……)
球を見れば、力を奪われるのに連れて球が色付いていく。
「……そろそろいいか」
その言葉と共に、力を抜き取られる感覚はなくなる。
破皇が回収した球は橙、黄、黒に染まっていた。
「……さてと、これで本当に用済みだ」
その球を手元で歪めた空間の中へと飛ばした破皇が向きなおる。
「……さぁ、誰から始末されたい?」
そう言う破皇の視線が夜天、光輝へと向く。
力を奪われた二人は、魔神族としての力が目覚めた雷牙よりも動くことが出来ない様子だった。
(……まずい)
それを確認して、雷牙はふらつきながら立ち上がる。
「……待て……」
「ん? 」
「その二人に……手を出すな」
そう言った雷牙に破皇が視線を向ける。
「……ふん。そう言われてやめると思うか。……そうだな。なら、三人纏めて始末してやろう。……喜べ。お前達の仲間の力で焼き尽くしてやる」
「……うあああああっ! 」
それと同時に火焔の閉じ込められている球から炎が吹き出し、雷牙達の周りを囲んだ。
3
(くそっ……!)
徐々に炎はその範囲を狭めてくる。
夜天と光輝の意識は朦朧としているようで、とてもではないが動けるようには見えない。
火焔も制御を完全に奪われてしまったのか、破皇の意のままに操られている。
雷牙自身も力を奪われ、残っている魔神族としての力はまだ上手く使いこなせない。
となれば、炎を防ぐ方法は一つしか思いつかなかった。
「っ……! 」
意を決して炎に突っ込む。
(火焔を助ければ、炎を止められるはずだ)
そう思い、火焔の閉じ込めらている球を目指したが、その瞬間激しい衝撃を受け、倒れこんだところで首元を掴まれ、火焔のいる珠へと押し付けられた。
「うっ……、ぐあああっ」
能力が火であることもあり、高温になっている為、押し付けられている背が焼かれる。
意識が飛びそうになったその時、不意に押し付けられていた力が緩む。
何が起きたのかと視線を向けると、物凄い表情で破皇が誰かを睨み付けていた。
「お前達、何のつもりだ? 」
その声は雷牙の親である二人に向けられていた。
「……申し訳ありません。……ですが」
「お願いです。息子の命だけは」
「……邪魔だ。戻ってろ」
その言葉と共に両親の姿が消える。
同時に雷牙の身体は燃えている炎の中、倒れている夜天と光輝の近くへ投げ入れられた。
「あははははは、燃えろ!燃えてしまえ! 」
炎の輪の外から何処か楽しげな声が聞こえてくる。
(このまま、火焔も……)
「まずは裏切り者三人!その次は、あの死に損ないを街ごと燃やし尽くしてやる!……はーはははっは」
「……一人で随分と楽しそうだな」
破皇の笑い声が響く中、不意に聞こえてきたのは、風夜の冷え切った声だった。
3/6ページ
スキ