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繋がる絆

1
「悪いが、少しの間私達は留守にする」
神蘭がそう言ったのは、森に身を隠すようになって、二日が経った朝も早い時間だった。
「留守にするって、何処に行くの?」
「私達の元いた世界から呼び出されたんだ」
「このタイミングだと、恐らく白鬼とあいつらがしているキメラ実験のことだろうけどな」
神蘭の横で、溜め息混じりに封魔が言う。
「とにかく、呼び出された以上、行かない訳にはいかない。今回も貸しておくから、私達がいない間に何かあったら、連絡してくれ。すぐに戻ってくる」
言いながら、神蘭が花音の手に前にも借りたことがある通信出来る水晶を渡してくる。
それを花音が受け取ると、神蘭と封魔は待っていた龍牙、鈴麗、白夜と共に姿を消した。
「ピイィ」
神蘭達がいなくなって、一人でいた花音の所に、白亜が飛んでくる。
いつものように肩に乗って、花音の方へくわえている何かを差し出すようなしぐさをする。
「何を持ってるの?」
「ピィ」
白亜がくわえていたのは、小さく折られた紙だった。
それを花音が受け取ると、〈風夜へ〉と小さく書かれているのがわかった。
「風夜宛て?でも、誰が……」
小さく折られている紙を広げ、中に書かれているものを読めばわかるのかもしれなかったが、勝手に見ることは出来なかった。
「風夜、これ」
森の中での簡単な食事の後、白亜から受け取った紙を取り出す。
「ん?」
「さっき白亜がくわえてたんだけど、風夜宛てみたい」
「俺?一体、誰が?」
呟いて、その紙を受け取った風夜が目を細める。
「この字は、火焔だな」
「えっ?」
風夜の口から出た名に、花音は声を上げる。
花音だけでなく、夜天や雷牙、他の仲間達も集まってきていた。
「何て書いてあるんだ?」
「……話があるから、この近くにある山の麓まで来いだと」
代表するように聞いてきた夜天に答えて、風夜が紙をしまう。
「……それで行くのか?」
「行かないと、向こうの用件がわからないからな」
そう言って、歩き出そうとした風夜に花音は声を上げる。
「待って!私も行くよ!」
「お姉ちゃんが行くなら、僕も!」
「お、俺も!」
花音に続くように、蒼牙と紅牙もそう声を上げた。
「って、花音はともかく、何でお前等が?」
「いいでしょ?罠かもしれないなら、僕の能力は役に立つよ」
「蒼牙が行くなら、俺も行かないとな」
風夜の言葉に、蒼牙は自信あるように、紅牙は当然というようにそう返した。
行く気満々な二人に、黄牙が溜め息をつく。
「……はぁ、仕方ない。俺も行くよ」
「なら、俺も行こうか。案内してくれれば、俺が全員乗せていくよ」
最後にそう言った朔耶に、風夜も諦めたようだった。

黒い獣へと姿を変えた朔耶の背に乗り、手紙に書いてあった場所へ来ると、そこには既に火焔の姿があった。
「…….来たか。……見慣れない顔ばかりだな」
此方を見て直ぐに蒼牙達に気付いたらしい火焔が言う。
「……ああ。別世界で会った奴等だ。一人で来いという指定もなかったし、構わないだろう」
風夜がそう言いながら、火焔の方へ一歩踏み出す。
そんな二人の様子をただ見守っていた花音は、後ろから袖を引かれて振り返る。
引っ張っていたのは、蒼牙だった。
「ねえねえ、風夜お兄ちゃんとあのお兄ちゃんって、どんな関係なの?」
「…….親友だよ」
聞かれて、そう返す。
『親友ね。誰のことだか、思いあたる奴はいないな』
前に火焔と会った時、風夜はそう言っていたが、本当にそう思っているとは思わなかった。
その頃、風の国では。
「…………」
窮姫が荒らされている部屋の中を見回していた。
異界から持ってきた筈の資料やこれまでとったデータがなくなっている。
「窮姫!やはり、あいついなくなってたぞ」
「今行ったら、本人も荷物もなかったわ。夜のうちに、抜け出したようよ」
入ってきた二人が口々に言い、窮姫は肩を震わせる。
「ふふ、やってくれるじゃない?私達を出し抜くなんて」
呟いて、窮姫は歩き出す。
向かったのは、一つの牢だった。
「実験体068号、出番よ」
その声に、暗闇の中で紅い眼が鋭く光った。
「……それで、態々呼び出して何の用だ?」
そう話し掛けた風夜の前で、突然火焔が膝をつき、頭を下げる。
「「「「「!?」」」」」
「……何の真似だ?」
それを見て、風夜の目が鋭くなる。
「……今まですまなかった。漸く、気付いたんだ。俺が……、俺達が間違っていたって」
「俺たち、ね。……蒼牙」
「な、何?」
「俺達以外に誰かがいる気配は?」
「ない、けど……」
「……だそうだ」
「っ!あいつらは、まだ奴等の本性に気付いてない。俺がこれから説得する!だが、その前に……」
言いながら、火焔は立ち上がると、持っていた荷物をひっくり返す。
中から出てきたのは、幾つもの紙の束とディスクだった。
「これは?」
「あいつらが、異界から持ってきた資料とこの世界でとっていたデータだ」
「……ああ。間違いない。この資料、あの男のものだ」
火焔の言葉を受け、風夜が視線を向けると、歩み寄ってきた黄牙が確認して頷く。
「それで、その資料をどうするつもりなんだ?」
「ああ。それは」
言いながら、火焔が掌に炎を宿す。
その時、何かに反応した朔耶と蒼牙がほぼ同時に声を上げた。
「「危ない!」」
「っ!!」
空から何かが落ちてきたかと思うと、突然、目の前にいた火焔の姿も消える。
そのすぐ後に、激しく何かを叩き付けるような音が聞こえてきて、花音は音のした方を見る。
その先では、火焔が翼の生えた男に岩へ叩き付けられていた。
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