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造られた命

1
最果ての森にあったゲートを通った花音と風夜は、森の中にいた。
周りを見回しても、木ばかりで最果ての森との区別がつかない。
「本当に別世界に来れたのかな?」
「……まぁ、森を出てみればわかるだろ」
言って、風夜が歩き出す。彼の後について森を出ると、すぐ近くに街が見えた。
最果ての森の近くには街などはなかったことから、此処が別世界であるのは確かなようだった。
街の中に入った花音は、辺りを見回しながら歩いていた。
街の住人達は、花音の知る二つの世界とは違い、様々な姿をしている。
背から黒い翼を生やした者、白や透き通る羽を持つ者、人ではない耳や尾を生やしている者、明らかに人ではない者もいる。
「どうやら、この世界には、俺達の世界にはいない様々な種族がいるみたいだな」
「そうだね」
「あっ、いた!」
花音と風夜が話しながら歩いていると、そんな声がして、二人の目の前に何か小さなものが飛んできた。
「沙羅ー、見付けたよー!」
目の前に来たのは、背から羽を生やした二十センチ位の少女で、背後を振り返り叫んでいる。
「あら、思ったより早く見付かったわね」
そう言って現れたのは、二十歳前後に見える女性だった。
「あなた達ね、ゲートを通って、この世界に来たのは」
「そうですけど……」
「だから、何だと言うんだ?」
風夜が女性を警戒するように見て、花音の一歩前に出る。
「ふふ、そんなに警戒しないで?私達は、あなた達の味方のつもりよ」
「……そう言われたところで、直ぐに信じると思うか?」
「まあ、普通は信じないでしょうね。でも、あなた達の目的は察しがついてるし、それに協力するつもりで来たのよ」
言って、女性は風夜を指す。
「彼の中で目覚めてしまった魔族の血をどうにかしたくて、この世界へ来た……違う?」
「「!?」」
その言葉に花音と風夜は目を見開く。
それを見て、沙羅と呼ばれていた女性はフフっと笑った。

「はい、どうぞ。飲み物は紅茶とコーヒー、どちらがいいかしら?」
あの後、沙羅と改めて名乗った女性と瑠璃と名乗った小さな少女の家へと花音達は連れてこられていた。
彼女は二人の前にクッキーを置いて、そう問いかけてくる。
「えっと……?」
「そんなことはいい。それより、本題に……」
「もー、せっかちだなぁ」
苛ついているような風夜の声に、一枚のクッキーを抱え込むようにして食べていた小さな少女が言う。
沙羅は風夜の顔を見て、クスリと笑った。
「ふふ、その顔もあの人にそっくりね」
「あの人?」
「ええ。……私の姉の夫と。やっぱり、あれから何百年と経っていても、血の繋がりというのは凄いわね」
「……ん?」
しみじみと呟いた沙羅の言葉に、幾つか聞き逃せない単語が出てきた気がした。
「えっと、沙羅さん?今の……」
「沙羅、一人で納得していても、この二人にはわからないよ」
「そうねぇ、何から話そうかしら?私の姉が風の国の王と夫婦だったことからなら」
「……いや、今の一言で充分だ」
「そう?」
話し出そうとした沙羅に、風夜が返す。
「でも、何百年も前の話ですよね」
「ふふ、こう見えても私、何千年も生きてるのよ。私だけじゃなく、魔族や神族は皆、外見の何倍も生きてるわね」
「てことは、王の妻だったっていうお前の姉もいるのか?」
風夜の言葉に、それまで浮かんでいた沙羅の笑みが消えた。
「……姉さんは、いないわ」
「えっ?」
「……数百年前にも、一度大きな戦いがあったのは知ってる?その時に姉さんは、戦いを止めようとして、……窮姫という女に殺されたわ」
「「!!」」
「だからね、私は彼女達の計画に協力するつもりはないの。あの人達に協力するくらいなら、私は姉さんに所縁のある風の国の王族のいる方に協力するわ」
「でも」
「大丈夫。今、魔族側も一枚岩ではないの。それに闘神達が動いてるなら、此方を気にしてはいないはずよ。……それで、貴方はどちらを望むのかしら?」
心配して声を上げた花音に、片目を瞑ってみせ、風夜に問い掛ける。
「どちらを望むって」
「選択肢は二つ。一つは、魔族の血を貴方の中から、完全に消す。二つ目は、その血と力を受け入れ、自分の物とする。さぁ、どちら?」
沙羅に聞かれ、風夜は黙りこんだ。
「因みに参考までに言っておくと、一つ目の方がずっと簡単よ」
「そうなんですか?」
考えている風夜の代わりに花音は聞き返す。
「ええ、だって薬を飲めばいいだけだもの。それだけで、魔族の血はなくなり、ただの人に戻れるわ」
「でも、その薬が凄く苦いうえに、暫く身体中に激痛がはしるって話だよねー」
「……二つ目は?」
「此方は大変よ。魔族としての自分と戦って、勝たないといけないんだから」
「負けたら、逆に取り込まれちゃうんだって。まぁ、勝っても負けても魔族に変わりはないんだけど」
「うぅっ」
沙羅に付け足すように言う瑠璃に、花音は思わず頭を抱えた。
「って、花音、何でお前がそんなに悩んでるんだよ」
「だって…….」
「それで、どうするか決まった?」
「俺は……」
風夜が口を開いたその時、家の扉が物凄い勢いで開き、誰かが飛び込んできた。
「姉さん!大変だ!」
聞こえた声に、全員が扉の方を見る。
そこには、ぐったりとしている紅と蒼の髪をした二人の幼い少年を背負った少年が息を切らして立っていた。
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