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目覚める血

1
「ピィ、ピイィ」
「可愛いね!この飛竜!花音ちゃんにも凄くなついているみたいだし」
街の中を散策していた時、風華が花音の肩に止まり、顔を擦りつけている白亜を見て言う。
「うん、まさかこんなになついてくれるとは思わなかったよ」
そんなことを返し、花音は風華と歩いていく。
(でも、よかった、またこうやって話せて……)
話しながら、風の国で過ごしていた日々を思い出し、ふと自分の手首を見て花音は声を上げた。
「あっ!」
「どうしたの?」
「これ、返さないとね」
言いながら、手首につけたままだったブレスレットを外して、風華に差し出す。
「はい。これ、ありがとう」
「うん」
ブレスレットを受けとった風華が笑った時、ふと街の入口の方が騒がしくなった気がした。
「どうしたんだろ?行ってみようか」
風華に声を掛けて、花音は入口の方へ足を向ける。
街の入口が見える位置まで来ると、そこには光の街の中へ入ってくる火焔達がいた。
「どうして、あの三人が?」
「花音ちゃん、どうするの?」
「……とりあえず、光輝に知らせてきて」
風華にそれだけ言うと、花音は再び走り出した。
街の入口、火焔達の前で花音は足を止める。
「花音……」
「……どうしたの?三人がこの街に来るなんて」
話しかけながらさりげなく彼等の後ろを窺うが、火焔、水蓮、大樹以外の姿はみえない。
「あのな、実は」
「……待って」
話し始めようとした火焔を止め、周囲を窺うと、街の人々が三人を警戒するように見ているのがわかり、花音は踵を返した。
「ついてきて。話は屋敷で聞くよ」
そう伝えて歩き出した花音の後ろから、三人が居心地悪そうについてくる。
屋敷の前まで来ると、光輝が外で待っていた。
「光輝」
「……話は聞いた。全員、応接間に集めてある」
「うん。ありがとう」
光輝に礼を言って、中に入るよう火焔達を促す。
「お前達が何故此処に来たかわからないが、少しでも怪しい行動をとれば拘束する。……いいな」
そう言った光輝に火焔達はただ、無言でいた。
花音達が応接間へと入ると、そこには光輝が言った通り、風夜達が集められていた。
「それで、今更、此処に何をしにきたんだ?」
「……実は……」
光輝が聞くと、火焔が話し始める。
彼の話では、窮姫達の危険性に気付き、自分達の過ちにも気付いたということだった。
「……そんなの、信じられるか。今更、都合よすぎるんだよ」
話を聞き終わって、雷牙が呟く。
陰の一族だけでなく、火、水、地の国からも攻撃を受けた彼の国のことを思えば、仕方のないことかもしれなかった。
「確かにな。……お前らの言ったこと、本当に信用していいのか?」
夜天が言い、大樹が複雑そうに笑う。
「信用出来ないか?……まぁ、仕方ないかもな」
「そうね。裏切った私達を今更信じてほしいなんて、虫がよすぎるわよね」
大樹に続いて、悲しそうに言った水蓮を見て、花音は黙って話を聞いている光輝を見る。
彼は少し考えるような素振りを見せた後、口を開いた。
「……いいだろ。この街に滞在することは許す。だが、監視はつけさせてもらうぞ」
そう言った光輝に、何かを言う者はいなかった。

火焔達が光の街に滞在するようになって数日。
「今のところ、何も問題はないようだな」
火焔達につけている監視の者達の報告書を見ながら、光輝が言う。
「姉上はどう思う?」
「えっ?」
急に話を振られて、花音は彼を見た。
「あの三人のことだ。本当に此方へ戻ってきたと思うか?」
「……私は、そうだと思いたいんだけど……」
そう返した時、光輝の執務室の扉が開かれ、神蘭と封魔が入ってきた。
「どうした?」
「窮姫達が動いたようだ」
「えっ?」
神蘭の言葉に、花音は光輝と顔を見合わせる。
「夜天の所に入ってきた情報だ。奴等、魔族の軍勢を連れて、闇の国へ向かってきているらしい」
「俺達は、窮姫達を抑えに行く。魔族の軍勢を抑えるのに、千歳達と夜天、雷牙も連れていく」
「夜天くんと雷牙くんも?」
「心配するな。二人は前線へ連れていくわけじゃない。城へと送り届けるだけだ。それより……」
言いながら、神蘭が水晶のようなものを渡してきた。
「これを持っていろ」
「何だ?これ」
「私達が連絡用に使っていたものだ。私の物を貸すから、私には通じないが、封魔、龍牙、白鬼、鈴麗、白夜には通じる。もし何かあった時には連絡しろ。すぐに戻る」
「うん。ありがとう」
「よし、行くぞ」
礼を言って水晶を受けとると、神蘭と封魔は部屋を出ていこうとする。
「待って!」
「ん?」
「えっと、気を付けて」
呼び止めて言った花音に神蘭はふっと笑みを溢すと、頷いて出ていった。
神蘭達が出ていってから、そんなに時間が経っていない内に、再び扉が開かれる。
「入るぞ。……やっぱり、いないか」
そこから入ってきたのは風夜で、部屋の中を見回してそう呟く。
「どうしたの?」
「少し前から、火焔達の姿が見えなくてな。それに父上の姿も」
「何だって?」
「おい!いたぞ!」
紫影が叫んで、飛び込んできた。
「いたって、誰が?」
「お前が火焔達につけていた奴等がだ」
「何?それで、そいつらは?」
「全員大きな怪我はないみたいだ。一応、美咲が診てくれてるけどな」
「そんな……」
「で、三人は?」
「まだ見付かってない。さっき出ていった奴等以外の全員で探しているんだけどな」
「っ、私達も探しに行こう」
花音はそう言って、飛び出す。そんな彼女の後を風夜と白亜が追い掛けてくるのがわかったが、花音はそのまま走り続けた。
「……いない。何処に行ったんだろ」
「……街にいるのは、間違いないんだけどな」
街の中を探し回って数十分。何処にもいない三人に、花音と風夜は足を止めた。
「……なぁ、花音。もしも、火焔達が此方へ戻ってきたのではなく、何か別の目的で振りをしていたのだとしたら、どうする?」
「風夜?風夜は、そう思ってるの?」
「ああ。あいつらがそう簡単に自分の意見を変えるとは思えないしな。それに、このタイミングでの襲撃と姿を消した三人……、何かあるとしか思えない」
「…………」
風夜の言葉に、何処からか手を叩く音が聞こえてきた。

「「!!」」
二人がそれに反応すると、その先には大臣の姿があった。
「お前!?」
「どうして、此処に?」
「おっと、下手に動かない方がいい。これを見てください!」
その言葉と同時に、大臣の後に魔族らしき者が何人も現れ、誰かを連れてくる。
「!!……父上!」
それが王だとわかり、風夜が声を上げる。
「はは、交換条件ですよ」
それを見て、大臣はそう言って笑った。
「交換条件だと?」
「そう。交換するのは、あなた方が持っている宝珠全て」
「「!!」」
その言葉に花音と風夜は目を見開く。
「それは……」
「わかっていますよ。あなた達二人が今持っているのは、風の宝珠だけ。後は他の奴等が所持している。だが、私達はそれが必要なのです。ですから、持ってきていただけませんか?」
「そう言われて言う通りにするとでも?」
「しないなら、王を殺すと言っても?まぁ、私はそれでも構いませんがね」
「…………」
「さぁ、どうします?」
「……決まってるだろ?……どちらも……お断りだ!!」
そう叫んで風夜が王を捕らえている魔族に斬りかかった。
「やれやれ、やはりこうなりましたか。……やれ」
大臣の言葉に、背後にいた者が一斉に動く。
「くっ、離せ!」
「風夜!」
「おっと、そっちの女も押さえておきなさい!」
風夜が拘束されたのを見て、動こうとした花音も動きを封じられた。
「さぁ、もう一度聞きましょう。宝珠は……」
「渡さないと言ったはずだ!」
「……そうですか」
風夜の言葉に、大臣の目が細められる。
「……仕方ない。やれ!」
「……駄目!やめて!」
「やめろ!」
魔族の鋭い爪が伸ばされるのを見て、二人は声を上げる。
「やめませんよ。さぁ、やりなさい!」
その瞬間、二人の目の前で王の身体は幾つもの鋭い爪に貫かれた。
王の身体がスローモーションのようにゆっくり倒れていく。
「父上……?……父上ぇーー!!」
動きを封じられている風夜が手を伸ばすも、その手は届かない。
「はははっ、あーはははっ」
それを見て、大臣が笑い始める。
「王……様……」
「さぁて、次は……お二人の番ですよ」
ひとしきり笑った大臣が身動きを封じられている花音達を見る。
「や……」
「待て!」
その時、声がして何処からか火焔達が現れた。
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