このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第1章

1
養成所の訓練生になり、数週間。
軍の規律などの基礎を習った後、演習的なものも入り始めていた。
「よし、そこまで!」
その声に木刀を使い、打ち合っていたのを止める。
「少し休憩を挟む。その後、簡単な試合を行うから、十五分後また此処に集まるように!」
教官がそう言い、訓練生達は各々散っていく。
神蘭も鈴麗と話しながら休憩をとっていたが、数人が近付いてくる気配に視線を向ける。
そこには此方を睨み付ける背の高い少年と、その取り巻きらしい数人の少年がいた。
「おい!」
睨み付けたまま、一人の少年が口を開く。
「お前、やけに闘神の一人と仲がよさそうだったじゃないか。どうやって取り入ったんだ?」
その言葉に、入所式の後、封魔に連れ出されたのを見られたのだと察する。
「どうって、会ったのは二回目よ。ただ、私の父様が部下だったから、少し話があっただけ」
「とか言って、此処に入るのに手を回してもらったんじゃないのか。じゃなきゃ、女がそんな簡単に入れる訳ないものな」
そう言って、少年はケラケラと笑う。
その少年の言葉が聞こえたのだろう女子達が不快感を露わにしていたが、それには気付いていない。
その時、教官の休憩終了を告げる声が聞こえてきた。
「集合!先程言った通り、これから簡単な試合を行う!」
集まった訓練生達に、教官が言う。
すると、先程の少年が手を挙げた。
「教官!」
「何だ?」
「相手の指名は出来ますか?」
「あ、ああ。何だ?試合したい相手がいるのか?」
「はい」
頷いた少年はニヤリと笑い、神蘭の方を指した。
2
「……」
木刀を手に前に出た神蘭は、目の前でニヤニヤと笑っている少年を見据えた。
「此処が女の来るような場所ではないってこと、俺の実力でもって教えてやるよ」
「……」
挑発するかのように言われたが、相手をするつもりはなかったため、ただ木刀を構え集中する。
それが不快だったのか、少年は顔を顰めた。
「始め!」
教官の声に少年が地を蹴る。
「らぁっ!」
接近し、上段から振り下ろされた木刀を避け、神蘭は懐へ飛び込んで木刀を振る。
「はあああ!」
「っ!」
初撃を防がれたものの、連続して斬り込んでいくと、勢いに押されてか少年は後退する。
そして、何度目かの打ち合いで神蘭は少年の木刀を弾き飛ばし、呆然とする少年に木刀を突きつけた。
「そこまで!」
教官の声がして、神蘭は構えをとく。
試合を見ていた訓練生達の方へ戻ると、鈴麗が駆け寄ってきた。
「すごいよ、神蘭!強いんだね」
「そ、そうかな」
「うん!すごいよ!圧倒的だったじゃん」
そう声を掛けられ、神蘭は少し照れ臭くなる。
その時、小さく舌打ちが聞こえ、神蘭はその方向を見る。
すると、神蘭に負けた少年が睨み付けてきていた。
3
「ふぅ」
訓練が終わり、寮へ戻ってきた神蘭は、鈴麗と共に食堂へと来ていた。
「でも、本当にすごかったよ。神蘭。今までも何かやってたの?」
「うん。……少し父様に稽古をつけてもらってたかいがあったみたい」
「え?神蘭のお父さんって、軍人なの?」
「正確には『だった』かな。数ヶ月前に亡くなったから」
「あ、ごめん」
神蘭が言った言葉に気まずそうに鈴麗が返してくる。
「大丈夫。気にしてないよ。それよりも早く食べちゃおう」
神蘭が言った時、幾つかの足音が近付いてきてすぐ近くで止まった。
反応して神蘭が視線を向けると、彼女が演習で叩きのめした少年が取り巻き達と共に立っていた。
「今度は何?」
「調子に乗ってるみたいだから、一言言っておく。確かに今日、負けたのは俺だ。だが、今日は偶々調子が悪かったから負けたんだ。
一度勝ったからって、俺より強いとか思うなよ」
そう言って、気が済んだのか、取り巻き達と去っていく。
「何、あれ?」
「……まぁ、気にしないでいよう」
立ち去っていく彼等に、声を上げる鈴麗を見て、神蘭はそう返すと食事を再開した。
3/6ページ
スキ