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第5章

1
「…………」
光の街の彼方此方から火の手が上がっている。その中を子供や老人達が逃げる様子を花音は高台から見ていた。
「……花音、大丈夫か?」
壊されていく光の街をただ見ているしかなかった花音に、雷牙が声を掛けてくる。
「…………うん」
頷くものの、目の前で起きていることからなかなか目が離せない。
「……そろそろ行くぞ。封魔達が向こうにいるのは、この街の人々を引き付ける為でもあるわけだからな」
それまで待っていてくれた白鬼が外していた魔神族の仮面を付ける。
「……そうだな。花音、俺達もそろそろ動こう。目的を果たせば、此処から退くように進言できるかもしれない」
雷牙にも言われて、花音は少し考えた後頷く。
「……うん。……行こう」
街から視線を外し、踵を返す。
それでも心の中では街の被害が大きくならないことを、犠牲になる者が出ないことを祈っていた。
2
数分後、花音達は光の街の塔前に来ていた。
(此処に来るのは、宝珠を取りに来た時以来だなぁ)
塔を見上げながらそんなことを思う。
「でも、本当に此処に魔神族の封印具があるのか?光輝が此処に街を作ったのは夜天と仲良くなり、闇の国が匿うことを良しとしたからだろ。塔自体は元の国を真似て建て、宝珠を其処に置いたのはいいとしても、いつ誰が魔神族の封印具を隠したんだ?」
「……さあな。だが、光の街を監視している者が神界にはいる。……移動したことを知り、再び此処に隠したのかもな」
塔へ入り、上部へと続く階段を上っていく。
「前に来た時は、それらしい物はなかったのか?」
「私は上に行ったことはないの。宝珠を取ってきてくれたのも光輝だから」
「……なら、行って調べてみるしかないな。少し急ぐぞ」
白鬼の言葉に、花音と雷牙は頷いた。
塔の一番上まで来ると、其処は広い空間になっていて、中央に宝珠が置いてあったのだろう台座があった。
「……この何処かに封印具があるのか?」
辺りを見回しながら、雷牙が呟く。
花音も見回してみたが、台座以外の物は何も見えない。
「……何処かに隠してあるのか、それとも光輝が見付けて奴が持っているのか……」
仮面が邪魔なのか、外して再び素顔をさらしている白鬼が花音を見る。
「何か聞いたりしてないのか?」
花音は首を横に振る。
「ってことは、光輝が此処に来た時にも宝珠しかなかったってことか」
「……となると、やっぱ隠してあるってことですね?」
「ああ。そして、そういう細工がしてあるとしたら……」
白鬼の視線が台座へと向けられる。
花音からしても隠してあるとしたらそこしか思い付かなかった。
「此処しかないと思ったんだけど、隠してあるような場所もないね」
台座に近付き調べてみたが、物を隠せるような場所もない。
「やっぱ、ないんじゃないか?」
「……ちょっと待ってろ」
白鬼が気配を探るように目を閉じ、集中する。
「……いや。此処で間違いない。この下から魔神族の気配を感じる」
「なら、これが動くのかもな。……花音、少し離れてろ」
台座を動かそうと、雷牙が力を入れるのがわかったが、すぐに諦めたように溜め息をついた。
「っ……、駄目だ。ビクともしない」
「何か鍵のようなものがあるのかもな」
白鬼の言葉に花音はもう一度台座をよく見てみる。
(鍵があるなら、それを入れる場所もある筈だけど……)
何度見ても台座には、光の宝珠が置いてあった穴しかなかった。
「……鍵の役割を果たしていたのは、光の宝珠だったのかもな」
「でも、光の宝珠はもう……」
「雷牙、お前は宝珠をもってるだろ」
「ああ」
「貸せ」
雷牙から受け取った宝珠を台座へと置き、白鬼は花音を見る。
「……これに力を注いでみろ」
「は、はい」
宝珠に手を翳し、力を送り始めたところで、白鬼が台座を押す。
ゆっくりと台座が動いた後、台座があった場所には下へと続く階段があった。
「階段?」
「封印具はこの先だ。……行くぞ」
白鬼が階段に一歩踏み出す。
花音と雷牙もすぐにその後を追い掛け、階段を下り始めた。
3
階段を下り始めてすぐに周囲の空気が変化した気がする。
「白鬼さん」
「……わかったか。……そう、この空間は魔神族から封印具を隠す為に、神族が創り出した空間」
言ったのとほぼ同時に階段が終わり、床のようなものに足が着く。
少し離れた所には台座があり、大きな玉があった。
「……あれだな」
「っ!!」
直接封印具を見たことはなかったが、そこから禍々しい力を感じる。
「……これ、本当に壊して大丈夫なのか?」
花音のように直接感じてはいないのだろうが、雷牙が不安そうな声を上げる。
「これを壊せば、魔神族の上部の奴等の封印が完全に解けるんだろ?……今の状況でそんなことして、大丈夫なのか?」
「……まぁ、悪化はするだろうな。恐らく、一度は魔神族優位になるだろ。だが、いずれは解くことになった筈だ。……そうしなければ、〈彼奴〉の最終目的は達成されないだろうからな」
そう言って、白鬼が剣を抜き台座へと近付いて行った。
「っ……!」
白鬼が一気に剣を振り下ろし、玉が砕ける。
それと同時に白鬼と雷牙がその場に倒れこむ。
「ど、どうしたの?」
「…………いや、大丈夫だ」
戸惑った声を上げた花音に、白鬼がそう返して立ち上がる。
「…………封印が解けたからか、魔神族の力が増すのを感じた。……このままだとまずいな」
「っ!」
その言葉に花音は息をのむ。そして、街の中へ戻ろうと踵を返そうとして横にいる雷牙の様子が可笑しいことに気が付いた。
「雷牙くん?」
「大丈夫だ。……それより、早く戻ろう」
顔を顰めている様子は大丈夫なようには見えなかったが、外の様子も気になっていた為、今は戻ることを優先することにした。
4
封印具があった空間から光の宝珠があった部屋へと戻ると、其処には天奏の姿があった。
「ふふ、これで封印されていた上部の者達も目覚めたでしょうし、魔神族の力も増した。ほら、見て」
楽しそうに塔から見える光の街を指す。
其処からは、先程より炎が燃え広がり、建物も崩壊しているのがわかった。
(街が……!!)
「これはまだ序の口よ。私達が本気を出せば、こんな街……」
「姉上!!」
「!!」
天奏の言葉を遮るように一つの声がする。
視線を向けると、所々に傷を負っている光輝の姿があった。
「……此処にいたんだな。こんな所で一体何を?」
問い掛けてくる声は硬い。
それにどう返せばいいか迷っていると、天奏が嫌な笑みを浮かべたのが見えた。
「ふふふ、これはまた、いいところに……。殺しなさい」
「「「!!」」」
その言葉に花音だけでなく、雷牙と白鬼も固まるのがわかる。
「出来ないの?私達の仲間なら出来るわよね?……それとも、あなた達が此処で消える?そうなれば、封魔達も……あの水晶に閉じ込められている連中も、ただではすまないでしょうけど」
(そんなこと言われても……)
光輝は花音の弟なのだ。命を奪うなんて出来ない。
「うわっ!」
そんなことを思っていると、光輝の声がして、花音はハッと視線を向けた。
見ればいつの間にか接近した白鬼が光輝を壁に向かって蹴り飛ばしている。
身構えていなかった光輝は大きく吹っ飛ばされていて、追い打ちを掛けるように白鬼が放ったエネルギーは、光輝の身体の先にあった壁を破壊した。
(このままじゃ落ちる!)
駆け出そうとした花音だったが、雷牙に腕を掴まれ止められる。
どうして止めるのかと見れば、彼はただ首を横に振るだけで、その間にも光輝の身体は壁の穴から落ちていく。
「……随分間接的なやり方ね。……まぁ、いいわ。この高さから落ちて助からないでしょうし、目的は達成した。そろそろ退きましょうか」
天奏はそう言って姿を消す。
それと同時に掴まれていた腕を外された花音は、崩れた壁へとふらふらと近付いていく。
そこから下を覗いてみたが、この高さからでは光輝がどうなったのかわからなかった。
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