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動き出すもの

1
「んー!今日、いい天気……」
「ピィー!」
次の日、朝早くに目が覚めた花音は大きく伸びをする。
花音の上を気持ちよさそうに飛んでいる白亜を眺めていると、後ろで人の気配がした。
「今日は随分早いな」
「風夜の方こそ。ところで、どうしたの?」
「たまたま起きたら、外に出ていくのが見えたからな」
言って横に来た風夜が、花音と同じように白亜を見る。
「でも、よかったよね」
「ん?」
「神蘭さんの仲間が気が付いて、嬉しそうだったし」
「ピ?ピイィ!」
その時、突然気持ちよさそうに飛んでいたはずの白亜が慌てたように、花音の所へ飛んできた。
「な、何?急にどうしたの?」
「!!」
花音の服を引っ張ってくる白亜に声を上げた時、風夜がはっと一ヶ所を見つめる。
その時、空間が歪み、周りの空気が異質なものに変わった気がした。
「ピィ!ピィッ!ピイィ!」
花音が動かないので、諦めたらしい白亜が何処かへ飛んでいこうとして、何かにぶつかり、落ちてきたのを花音は慌てて受け止める。
「大丈夫?」
「ピイィ……」
弱々しく鳴いた白亜が、今度は小さな石をくわえて飛び上がり、数メートル先へ投げる。
それは、白亜と同じように何かに当たって、跳ね返ってきた。
「どうやら、閉じ込められたみたいだな」
「なら、此処から出ないと!」
このまま中にいるのはまずい気がして、花音は壊そうと力を放つ。
「!花音!!」
「えっ?……きゃあああ!」
だがその力も跳ね返され、花音の方へ戻ってくる。
咄嗟に風夜が花音を抱えて避けてくれたが、これでは能力を使うのは危険だった。
「ふふ、あはははっ……、無理よ。此処からは出られない」
笑い声と聞こえてきた声に視線を動かすと、窮姫と呼ばれていた女がいた。
「またお前か」
「これも、貴女が?」
「そうよ。ふふ、此処からあなた達は出られない。あなた達が閉じ込められていることも、私がこの街にいることにも誰も気付いてないから、助けにも来ない。どうする?」
「……こういうのは、つくった奴を倒せば、壊れるもんだろ?」
言って風夜が剣を引き抜く。
「出来るのかしら?貴方に」
「やってみないと、わからないだろ!」
地を蹴った風夜が、斬りかかる。
「ふふ……」
笑みを浮かべたまま、窮姫がかざした細身の剣と、風夜が勢いよく振り下ろした剣がぶつかり合った。
「くっ!このっ……」
「ふふ、どうしたの?この程度じゃ、私には勝てないわよ?」
窮姫の方はさほど力を入れているようには見えないのに、合わさった剣は拮抗している。
「ぐうぅ!」
それどころか、徐々に風夜側へと押され、押し返そうとする風夜が力を込める。
その一方で、窮姫が剣から片手を離し、その手に力を集めるのを見て、花音は声を上げた。
「!!……風夜、離れて!」
「!?……ぐああぁ!!」
窮姫の手に集まった力が風夜の腹へ叩きこまれ、勢いよくその身体が吹っ飛ぶ。
背から地へ落ちても、勢いがありすぎて、そのまま滑っていった。
「風夜!!」
「ピィ、ピイィ!」
漸く止まった風夜に、花音は駆け寄る。
「大丈夫!?」
「っ!……ああ、何とかな」
「ふふ、残念ね」
「っ!!」
剣を支えに身体を起こしている風夜が窮姫を睨み付ける。
「悔しい?私に、手も足も出なくて……」
窮姫から視線を外した風夜が彼女から視線を逸らす。
彼女が創った空間の壁を見て何かを考えている風夜に、花音は彼の肩を掴んだ。
「駄目だよ、無理しないで。……大丈夫。きっと誰か気付いてくれる」
「どうかしらね。仮に気付いたとしても」
そこまで言って、窮姫の言葉が止まる。
それと同時に、空間が何かの衝撃で揺れ、窮姫に向かって何かが飛んできた。

「二人を返してもらうぞ」
そう声が聞こえ、何処から現れた神蘭が二人と窮姫の間に立つ。
「神蘭さん?」
「ここからは、私に任せてもらおう。……千歳!星華!昴!二人を頼む」
「「はっ!」」
「はい!」
その声に、神蘭だけでなく、神蘭の仲間三人もいたことに気付く。
四人とはまだ出会ったばかりで、わからないことが多かったが、今は四人が来たことでもう大丈夫だと思えた。
「任せろって、いいのか?あいつ一人で」
一人前に出ている神蘭を見て、風夜が聞く。
「ああ、神蘭様に任せておけばいい」
「そもそも俺達の中で、あの女に対等に渡り合えるとしたら、神蘭様だけだ」
その言葉に花音は、神蘭の方を見る。
神蘭の手には、いつの間にか細身の剣が握られていた。
「……行くぞ」
地を蹴った神蘭が斬りかかったのを、窮姫が風夜の時と同じ様に受け止める。
「っ……はあああっ!」
「ちっ……」
だが風夜の時とは違い、窮姫から余裕の表情が消えた。
「このっ」
「危ない……!」
「大丈夫ですよ」
風夜の時と同じ様に、片手に力を溜めた窮姫を見て、花音は声を上げたが、星華が自信満々に言う。
あまりにも自信ありげな彼女にどうしてなのか問い掛ける前に、事態は動いていた。
「勝負ありだ」
神蘭が地に膝をついた窮姫に言い放つ。
「さぁ、この空間を解いてもらおうか?」
「…………」
そう言った神蘭に、窮姫は何も返すことはなかったが、何かが砕け散る音と共に、周りは光の街の風景に変わっていた。
「神蘭様!」
神蘭に星華が駆け寄っていく。
「お疲れ様です」
「ああ。二人は無事か?」
「えっ?う、うん」
「ああ」
「そうか」
花音と風夜の答えに、神蘭が少し表情を綻ばせた時、窮姫が急に笑い始めた。
「ふふ、あははは」
「「「「「「!?」」」」」」
その笑い声に花音達は窮姫を見た。
「……いいわ。今日の所は、引き上げてあげる。数日後にある大切な用事の準備も、まだ終わってないことだしね」
その言葉を最後に窮姫は姿を消した。
それを見て、ほっと息をついた花音に神蘭が声を掛けてくる。
「さぁ、戻るぞ。他の奴等も、目が覚めた時にいなかったら、心配する」
「そうだね」
そう返し、神蘭達と歩きだそうとして、花音は風夜が動こうとしないのに気が付いた。
「風夜?どうしたの?」
立ち尽くしたままの風夜に声を掛けると、その声で我に返ったように花音を見た。
「……いや、何でもない……」
そう答えた風夜だったが、拳は何かを堪えるように、固く握り締められていた。

「姉上、あいつ、何かあったのか?」
光輝の屋敷へ戻るとすぐに与えられている部屋へ行ってしまい、食事にも姿を見せない風夜に、疑問を持ったらしい光輝が聞いてくる。
だが、花音にも訳はわからなかった。
(朝、起きてきた時はいつも通りだったよね)
思い出してみて、風夜の様子がおかしくなったのは、窮姫が引き上げてからだと気付く。
それでも、何が原因なのかは、いくら考えてもわからなかった。
「ピィ、ピ!」
夕食の時間にも姿を見せなかった風夜が気になったものの、眠気には勝てなかった花音は、白亜の鳴き声で目を覚ました。
「何?どうしたの?白亜」
「ピィ、ピィー!」
「?」
外を見ろと言うように窓際で騒ぐ白亜に、花音はカーテンを開け、外を見る。
すると、暗い中を出ていく人影が見えた。
(風夜?)
一度立ち止まった人影に、何故かその名が浮かぶ。
「白亜、私が行くまで足止めして!」
「ピ!」
誰にも見付からないように出ていくその姿に、嫌な予感がする。
このまま一人で行かせてはいけない気がして、花音は白亜にそう言い、窓を開ける。
そこから白亜が飛び出していくと、花音も急いで部屋を出た。
「こら!こんな時間に何処へ行くの?」
「!!」
外へ出ようとして、聞こえてきた声に背を震わせる。
「せ、星夢ちゃん?せ、刹那くんも?……えっと、ちょっと眠れなくて、外の空気を……」
そう言うと、二人は溜め息をついた。
「いいわよ、嘘つかなくて」
「えっ?」
「行くんだろ。お前も」
その言葉に花音は目を丸くした。
「ほら、行くんでしょ。早くしないと、全員に気付かれるわよ」
「それにあの飛竜に任せている足止めも、いつまでもつかわからないだろ」
「えっ?えっ?」
止めるどころか、一緒に行こうとしているような二人に声をあげる。
「だから、私達も行くって言ってるの!敵の本拠地へ行くなら、私と刹那の能力は役に立つはずよ」
「……わかった。一緒に行こう」
「よし、他の奴等に見付からない内に行くぞ」
言って、刹那が花音と星夢の手を掴む。
次の瞬間には、すぐ近くに風夜と白亜が見えた。
「ピィ、ピイィ、ピ!」
「うわっ?何だよ、さっきから」
「白亜、もういいよ。ありがとう」
「ピ?ピイィ!」
花音が声を掛けると、白亜は風夜から離れて、花音の肩へとまる。
「花音?それに……」
「風の国へ行くんでしょ?私達も行くよ」
「なっ!?」
「言っとくけど、私達の同行を断るなら、全員起こして、此処に連れてきてもいいのよ」
「そしたら、お前の理由が何であれ、反対するだろうな」
「……お前らは、反対しないのか?」
「反対よ。だから、妥協しているの」
「…………」
少し考え、風夜が溜め息をつく。
「……その条件、のむしかないみたいだな」
その言葉に、花音は星夢、刹那と顔を見合せ、一つ大きく頷いた。
「見えてきた。風の国だ」
飛竜を操りながら、風夜が呟く。
その声に花音は、彼の後ろから顔を出して、見えてきた風の国を見つめる。
(風華ちゃん、空夜さん、待ってて!今、行くから!)
段々と近付いてくる国に、花音の頭の中には、別れたきり会ってない二人の顔が浮かんでいた。
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