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動き出すもの

1
「さてと、花音達は暫くこの街にいるつもりなんでしょ?なら、今の内にいってこようか」
光の街に来てから一日が経った朝食の席で、琴音が言う。
「えっ?行くって、何処に?」
「向こうの世界だよ。だって花音ちゃん達、宝珠を集めてるんでしょ?」
「俺達の一族の宝珠は、向こうに持っていってるからな。この街で休んでいるうちに行ってくるかって話さ」
「私達が宝珠を持ってくれば、あとは陰、火、水、地と風の宝珠になるでしょ。まぁ、その五つをどうするかが問題だろうけど」
聞き返した花音に、美咲、凍矢、星夢が返してくる。
「宝珠を集めてたのか?だったら、陰の宝珠の場所知ってるぞ」
「……本当!?」
そこで口を挟んできた紫影を、花音は見た。
「あぁ。もし、全ての宝珠が必要なら、陰の宝珠もだろ。案内してもいいけど」
「うん。じゃあ、琴音ちゃん達が行ってる間に……」
「姉上!」
そこで光輝の声がして、彼の方を見る。
すると彼だけでなく、紫影と花音以外の全員が複雑そうに見ていた。
「……俺は反対だ」
「反対って……」
そう言った光輝に、花音は困ったような表情をする。
「俺も。そいつと二人だけで行動するのを許すほど、そいつを信用してるわけじゃない」
「もし行くなら、他に誰か」
光輝に続くように言った夜天と雷牙に、花音は口を開いた。
「って言っても、琴音ちゃん達は向こうの世界へ行くんでしょ?光輝達はずっと閉じ込められてたんだし、あまりいい状態じゃないでしょ」
「なら、俺が」
「風夜も駄目。最近、無理しがちだったんだから、休める時にちゃんと休まないと」
「じゃあさ、私達が戻ってきてからじゃ駄目なの?」
「もう……、そんなに心配しなくても。ね、紫影くん」
「でも……」
「花音、ちょっとこっち来い」
再び心配そうに美咲が声を上げた時、それまで黙っていた刹那が花音を呼んだ。
「何?刹那くん」
「どうしてもというなら、これを持っていけ」
そう言い、小さな玉のようなものを取り出す。
「これは?」
「その中に、俺の力を入れておいた。時を操る力と、空間を操る力を一度ずつ使えるようにしてある。……もしもの時に使え」
「うん。……ありがとう」
刹那にそう返すと、花音は貰った玉を大切にポケットの中へしまった。

「此処が、陰の一族の宝珠がある場所だ」
風夜達の反対を押しきって、紫影と共にきた場所は、暗い遺跡だった。
「これが、陰の宝珠だ」
紫影がそう言った時、幾つかの足音が聞こえた。
「紫影、その子を一人にさせたのはいいけど、陰の一族の宝珠の場所をばらすのはよくないと思うわよ」
「!!」
その声に振り返ると、聖と何度か襲ってきた女、そして一度だけまだ風の国にいた時に見たことがあった男がいた。
「紫影……くん」
「花音……」
罠だったのかという思いと、信じたい気持ちがごちゃまぜになって紫影を見ると、彼も花音を見ていた。
「……必要なんだろ。持っていけ」
「えっ?」
宝珠を渡され、戸惑っている間に紫影は背を向け、腰にあった剣を抜く。
「……何のつもりだ?紫影」
「……二人は騙されているんだ。その女に」
口を開いた男に紫影はそう返し、女に剣を向けた。
「騙されてる?私達が?」
「そうだ。その女は……」
紫影がそこまで言った時、花音は女が薄笑いを浮かべたのを見た。
「ぅぐっ……」
女が紫影に向かって、黒い霧のようなものを放ったと同時に彼の身体が倒れこんだ。
「!窮姫様!何を?」
「あら?彼はこの状況で、私に剣を向けたのよ」
「ですが!」
「裏切り者は、始末しなくちゃ」
「うぐあぁ!」
「……やめて!」
花音は叫んで、女の力を消し飛ばす。
「ううっ……」
倒れている紫影に駆け寄り、前にいる三人を見る。
紫影との関係はわからないが、彼を助けた時に聖がほっとしたように見えた。
「さてと、どうしましょうか?」
聖に窮姫と呼ばれた女が、花音を見て呟いた。
「……げろ……」
三人が近付いてくるのを見て、どうしようかと考えていると、紫影の声がして、三人の足下から伸びた影が動きを封じた。
「……早く……逃げろ……」
「……っ……」
刹那から渡された玉を気付かれないように握る。
(使わせてもらうよ)
そう心の中で呟いて、聖達三人を見据える。
(止まれ!)
「「!!」」
花音が念じたと同時に、紫影の力を振り切ろうとしていた聖達の動きが止まった。
「これは、時の一族の!?」
「どうして、花音様が……」
聖と男の声が聞こえてきたが、それに構わずもう一度、玉に集中する。
(私と紫影くんを光の街へ!)
そう念じると、玉が光りだし、花音と紫影の身体を包んだ。
「姉上!」
「「「花音!」」」
花音が光の街に戻ると、待っていたらしい風夜達が駆け寄ってきた。
「……何かあったのか?」
紫影に肩を貸している花音を見て、風夜が聞いてくる。
「……うん。宝珠は手にいれたんだけど」
答えながら、紫影を見る。
限界だったのか、彼の意識はなかった。

「……っ……?」
「あっ、気がついた?」
意識が戻ったのか、うっすらと目を開けた紫影に、花音は声を掛ける。
「ここは……?」
「光の街だよ。何とかあそこから、逃げ出せたから」
「……そうか。……なぁ」
「ん?何?」
「もう少し休んだら、他の奴等も呼んできてくれないか」
「えっ?」
紫影の言葉に、きょとんと目を見開く。
「お前達に話したいことがあるんだ」
「……わかった。風夜達に声を掛けとくね」
「ああ。頼む」
紫影はそう言って、まだ辛かったのか再び目を閉じる。それを見て、花音は彼を起こさないように、そっと部屋を出た。
「あいつ、気が付いたのか?」
花音が風夜達のいる部屋に入ると、雷牙が声を掛けてきた。
「うん。もう少し休むって言ってたけどね。……皆は、もういいの?」
「ああ。あまり、休んでいても、身体が鈍るしな」
「それより姉上。彼奴と陰の宝珠を取りに行った時のこと、聞かせてもらってないけど、何があったんだ?」
「えっと……」
光輝に答えようとした時、それまで眠っていた白亜が何かに反応するように顔を上げた。
それと同時に扉が開いて、元の世界へ宝珠を取りに行っていた凍矢達が入ってきた。
「随分、早かったな」
「まあね。……それより、花音。何があったのか、私達も聞かせてほしいんだけど」
風夜に返した琴音がにっこりと笑って言う。
「言っとくけど、何もなかったっていう誤魔化しはきかないからね」
「俺が力を入れておいた玉が使われたような気配があったから、急いで戻ってきたんだからな」
「……話すのは、いいんだけどさ」
星夢と刹那にも言われ、花音はそう返す。
「私より紫影くんから話を聞いた方が良いと思うよ。皆に聞いてほしいことがあるって言ってたし」
「聞いてほしいことって?」
「私もそれ以外は聞いてないからわからない。まだ別室で休んでるから、もう少ししたら行ってみよう」
花音がそう言うと、風夜達は頷いた。

数時間後、花音達は目を覚ました紫影の所にいた。
「少し長くなるけど」
集まった花音達を見て、紫影はそう前置きをして話し始める。
「俺達、陰の一族が追放されたのは知ってるだろ?……そして、お前達が知ってるのは、こうなってるはずだ。陰の一族の中に強大な力を持った女がいて、その女が世界を支配しようと考え、それに賛同した一族が他国を攻めたと。……それは違う。俺達は利用されたんだ。昔も、今も……」
「利用って……」
「あの女は、陰の一族じゃない。姉上と兄上は、あの女を一族の者だと思っているみたいだけど、あの女の力は陰の一族のものとは違う」
「……確かに」
そこで紫影の言葉を肯定するように、風夜が口を開いた。
「あいつの力を前に受けた時、陰の一族の力とは別物のような気がした。陰の一族より、もっと得体のしれない禍々しい力をな」
「でも、どうしてお前は、その女が一族の者でないってわかったんだ」
「……見たんだよ。あの女が妙な奴と話しているのをな。……とはいっても、その相手とは鏡のようなもので話していたから、姿はわからなかったけど」
凍矢の問いに紫影が答えた。
「それを見たのが、女が姉上達に接触してきた数日前。その時、既に不審感を抱いていた俺は、数百年の戦いで陰の一族を裏切り、宝珠を他国に渡した男の遺した記録を見て、確信したんだ。あの女は、その時の戦いで陰の一族を利用した奴と同一人物だってな」
「ち、ちょっと待って!同一人物って、数百年前の話でしょ?」
「まさかとは思ったさ。でも」
「同一人物としか思えないか。……ところで、さっきから姉上、兄上って言ってるけど、お前にも兄弟が?」
「……ああ」
光輝に頷いた紫影がちらりと花音を見た。
「花音、宝珠を取りに行った時、あの女と一緒に来た男を覚えているか?」
「う、うん」
「あの人が俺の兄、影牙。そして、お前達の前では聖と名乗っていたのが、俺の姉、紫姫だ」
紫影の言葉に、花音だけでなく風夜、夜天、雷牙も驚いているようだった。
「それにしても、驚いたね」
「ん?」
「まさか、聖ちゃんと紫影くんが姉弟だったなんて。でも、納得したかな?」
紫影の話の後、散歩に出た花音が呟くと、ついてきていた風夜が聞き返してくる。
「納得って、何がだ?」
「ふふ、ちょっとね」
風夜にはそう返して、宝珠を取りに行った時の聖の様子を思い出す。
それを不思議そうに見てきた風夜に、その時のことを話そうとした時、一人の男が慌てたように走ってきた。
「あの、何かあったんですか?」
「あ、ああ。街の外で一人の女の子がよくわからない奴に襲われてるんだ。街に近いから、光輝様に報告して……」
男性の言葉が終わらない内に、花音は走り出す。
「花音、待て!一人で行くな!」
後ろから慌てたように、風夜が追ってくる。
そのまま走っていくと、一人の少女と少女を囲む翼を生やしたもの達が見えてきた。
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