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第4章

1
「ピィー、ピィー」
「ん?何?」
すぐ近くから聞こえてきた何かの鳴き声に舞は目を覚ます。
すると、白い小さな生き物がいて、更に幼い少年が二人自分の顔を覗き込んでいた。
「えっ?……きゃ、きゃあああ!!」
「ピ?ピイイイイ」
「「わああああ!!」」
驚いて声を上げてしまった舞に、更に白い生物と少年達も叫び、屋敷の中に響き渡る。
その数秒後、舞のいる部屋に近付いてくる足音が幾つも聞こえてきた。
「……で、お前達は朝から何をやってるんだ?」
「ごめんって……」
「僕達、知らない気配があって気になったから……」
紅牙、蒼牙と名乗った幼い少年達が呆れている光輝に苦笑しながら言う。
「だからって、朝から女の部屋に行くなよ。姉上なら慣れてるから何も言わないだろうけど、普通なら驚くだろ」
「悪かったな。俺が目を離したせいで」
二人の兄だという黄牙に言われて、舞は首を横に振った。
「ううん。私も大きな声をあげちゃったし……」
「それより、俺達が出掛けてる間に何かあったんだろ?知らない奴等もいるし、皆此処に集まってるし」
「花音お姉ちゃんはいないみたいだしね」
そう言った蒼牙と黄牙に、光輝が説明し始める。
それをぼんやりと見ていた舞は、紅牙に服を引っ張られた。
「何?」
「これ」
小さな手帳のような物を取り出し、見せてくる。
裏に小さな写真が貼ってあるそれは、舞も身分証明書として持っているものだった。
「これ、どうしたの?何処にあったの?」
「えっ?……ああ。これと一緒に街の入口に落ちてたんだ」
紅牙が次に見せてきた玉に見覚えはなかったが、手帳が落ちていたことは無視なんてできなかった。
2
「……間違いない。この玉から感じるのは、刹那の力だ」
そう言って、神蘭が持っていた玉から手を離す。
「でも、何故刹那の力を入れた玉とそんな手帳が光の街にあるんだ?」
疑問に感じていたのだろう龍牙が言う。
「さぁ、俺はただ拾っただけだし。……そういえば、あんたはこれを渡した時、驚いてたよな。何かしってるんじゃないのか?」
紅牙の言葉に舞へと視線が集まる。
「……知ってるよ。というか、これは私の世界では学生が身分証明書として使ってるものなんだけど」
二つの手帳を裏返してみる。
そこには【星野聖奈】と【佐々木綾】と書かれていた。
このうちの星野聖奈という名には覚えがあった。
「こっちの星野聖奈ちゃんっていう子は、私の友達なんだけど……」
「友達って、何故お前の友人の物が此処にあるんだ?」
「そんなの私が知りたいよ」
そこで不意に手帳に小さな紙が挟まれていることに気付いた。
「……これは!?」
それを見て、目を見開く。
そこには二人の少女が意識のない状態で縛られ、閉じ込めらている様子が写っていた。
(どういうこと?どうして、二人は捕まってるの?)
そう思ったが、見捨てる訳にはいかないと刹那の力が入った玉を掴んだ。
「これに刹那って人の力が入ってるなら、これを使えば二人の所へ行けるかもしれないんだよね」
「……だが、罠だぞ」
舞を見て、飛影が言う。
「でも、きっと捕まってるのは本当なんだよ。だったら、助けないと」
「……まぁ、それは本当なんでしょうけど、目的がわからないわね」
星蓮がそう言った時、不意に部屋の中の空気が張り詰めた気がした。
それに少し遅れて、部屋の中の筈なのに風が吹き渦を巻く。
それが止んだと思った時には、そこに風夜の姿があった。
3
「よっ!」
舞達の警戒を気にすることもなく、片手を上げてみせる風夜に、その場にいた風牙と火焔ががくりと肩を落とし、次に凄い剣幕で声を上げた。
「お前なぁ、何普通に現れてるんだよ?!今のお前は【敵】だろうが!」
「というより、よくのこのこと一人で来られたな。お望みなら今すぐ捕えて尋問してやるよ。聞きたいことなら、山程あるからな!」
「……まあ、そうかりかりするな。……そんなに時間もないんだ。お前達に知らせたいことがある」
そう言うと、風夜は表情を引き締めた。
「……この街の入口に置いた物は既に持ってるな」
「これを置いたのはあなたなの?」
「ああ。……聖鈴と光麗の転生者が見つかった。その二人は既に捕えてある」
「まさか、この二人が!?」
舞は持ったままだった紙を見る。
「そうだ。……上の奴等の命令で、封魔が捕まえてきた。捕まえてきた二人をどうするつもりかはわからないが、神子は邪魔らしいからな」
「……何が言いたい?」
「……どうするかはお前達次第だ。……俺達は動けない。俺がお前達に接触したのは、花音に頼まれたからで、このことは刹那しか知らないからな」
「……封魔も知らないのか?」
神蘭が聞く。
「あいつは今疑われてるからな」
「それって、私を逃がしたせい?」
舞が呟くように言ったことで、飛影達が視線を向けてくる。
「……まあな。……とにかく、今回は手を貸せない。……二人は魔神族のアジト地下牢。 お前達に渡した刹那の力を入れた玉を使えば、そこに繋がるようにしてある。……助けたいならお前達が来るんだな」
そう言うと、風夜もこれ以上は此処にいるのはまずいと姿を消した。
4
「……どうする?」
風夜がいなくなってから、沈黙が続く中、飛影が口を開く。
「……もし本当に捕まっているのが聖鈴と光麗の転生者なら、放っておく訳にはいかないわ。力も記憶もない二人は早く保護しないと」
「……そうね」
星蓮の言葉に頷いたのは聖羅で、彼女は神蘭達を見る。
「……行くなら俺も行く。……お前達だけで行くよりは、少しは内部を知ってる奴がいた方がいいだろ。……帰りのことは何も言ってなかったしな」
「私も!私も行く!」
飛影に続けて、舞は声を上げる。
「って、お前は逃げてきたばかりだろ?」
「でも、聖奈ちゃんと知り合いなのは私だけだし、きっと怖い思いをしてる。私が付いて行ったほうが助けに来たってことを信じてもらえると思う」
莉鳳に言い返し、飛影達を見た。
「……仕方ないな。但し、勝手な行動はとるなよ」
「わ、わかってるよ」
「だが、この街に力を失ってる奴等だけを残していく訳にはいかないだろうな。光輝と夜天、光の一族がいるとはいえ、相手が悪い」
「他にも何人か残った方がいいな」
龍牙と白夜が言う。
「そうね。とりあえず、私は残るわ」
と聖羅。
「聖羅様が残るなら私も残るわ。神蘭は行きたいでしょうから、あとは龍牙か白夜が残ってくれたらいいんだけど?」
「じゃ、俺が残るよ」
鈴麗の言葉に龍牙と白夜が視線を交わし合い、白夜が答える。
「あとは?」
その言葉に星夜と楓がおずおずと手を上げた。
「……あの俺と楓もいいですか?」
「鈴麗様と白夜様の代わりにはなりませんけど、足は引っ張りませんから」
(確か、二人は封魔の部下だったっけ?)
付いてきたいというのは、彼に会えるかもしれないというのもあるだろう。
恐らく、神蘭もそう思っている筈だ。
「……ふん。寝返りそうな奴を三人も連れて行くのか?」
「……大丈夫。……三人は裏切らないよ。それに、私よりはずっと強いもの。私が行っていいなら、三人も行っていいはずだよ」
白羅にそう返せば、彼はフンと鼻を鳴らした。
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