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第1章


『……! 』
『……のか!』
『……華!』
『……ろ!』
三人の人物が何かを叫んでいる。
だが、距離があるせいか、はっきりとは聞こえない。
顔も霞みがかっていてはっきりとは見えないが、何故か懐かしい気もする。
(ねぇ、あなた達は一体誰?)
『……なさい!』
問い掛けようとした時、別の声がする。
『……なさい!舞!』
それでも顔の見えない三人が気になって、その声に反応しないでいると、突然痛みが走り、意識が持ち上がるのがわかった。
「ん……」
「起きた?」
目を開けると同時に呆れたような声が聞こえてくる。
視線を向ければ、声と同じように呆れた表情をした母親が立っていた。
「お母さん?」
「もういつまで寝てるの?入学式の次の日から遅刻するつもり?」
「えっ?」
言われて時計を慌てて見れば、確かにそろそろ家を出なければ間に合わないような時間だった。
「わわっ、何でもっと早く起こしてくれなかったの!?」
「起こしたわよ。何度もね。ほら早く準備しなさい!」
そう言われて、舞と呼ばれた少女は急いで準備を始めた。

何とか学校には間に合った舞は、休み時間、一つ上の学年の階に来ていた。
(花音先輩、いるかな?)
中学の頃、同じ部活の先輩後輩で仲良くなった花音に会うのはほぼ一年振りだ。
(あ、でも、私クラス知らないんだった)
そう思い辺りを見回して、廊下で話をしていた数人の女子生徒に近付く。
「すみません」
「あら?どうしたの?」
「桐生花音先輩って、どのクラスですか?」
「えっ?桐生?そんな子いたっけ?」
「ううん。いなかったと思うけど?」
「えっ?」
顔を見合わせて言う女子生徒達に舞は目を見開く。
『私ね、星条高校に決まったんだ』
『わぁ、おめでとうございます』
脳裏に中学卒業の時の花音との会話が蘇る。
(そうだよ!先輩がいないなんてこと、ある筈ない!)
そう思うと、舞は女子生徒達から離れた。
「……一体、どうなってるの?」
帰り道、舞は学校でのことを思い出す。
あれから、休み時間の度に二年の階へ行ったのだが、誰一人花音のことを知らなかったのだ。
(こうなったら、直接先輩の家に行ってみよう)
中学の時、何度か遊びに行ったことがある家を思い出し、向かおうと決める。
「だ、誰なの?あなた達!ちょっと離してよ!」
「!?」
その時、悲鳴のような声が聞こえてきて、舞は走り出す。
声がした辺りに来て見えたのは、一人の少女が謎の仮面とマントをつけた数人に囲まれているところだった。

(あれは、藤岡さん!?)
囲まれている少女がクラスメイトだと気付いて、舞は走るスピードを上げた。
まだ話をしたことはない相手だったが、見てしまった以上助けない訳はなかった。
「あなた達、何してるの!?」
「神崎さん!?」
声を上げた舞に仮面の者達の意識が向けられるのがわかる。
そんな中で囲まれていた少女も舞に気付いて声を上げた。
「駄目……!逃げて!」
「そうはいかないよ!」
そう返すと、舞は藤岡の手を掴んでいる者を睨み付けた。
「嫌がってるでしょ?やめなさいよ!」
「煩い!邪魔をするな!」
「きゃあああ!」
「神崎さん!」
思い切り跳ね除けられ、舞は地面に背中を打ち付ける。
それでも、痛みを堪えると、再び向かっていった。
「この小娘が!!」
そう言った一人の手が光る。
それを見て、舞は漸く自分と対峙している者達が普通の人間ではないと気付いた。
「あ……!」
気付いてしまえば、恐怖からか身体が動くなってしまう。
光っている手には何らかの力が溜められていて、逃げなければならないとは思うが、それが出来ない。
(もう駄目……!)
放たれ向かってくるエネルギーにそう思った時、不意に誰かに抱き上げられ、地面から身体が浮き上がるような感覚を覚えた。
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