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第4章

1
「……ううっ……」
身体の痛みと冷たい感覚を感じ、舞は目を開ける。
「……ここは?」
まず目に入ったのは黒い天井で視線を動かすと、格子が見え、舞は慌てて身体を起こした。
(牢!?私、捕まっちゃったの!?)
そう思い気を失う前の事を思い出して、頭を抱える。
(……どうしよう?飛影達は私がこんな事になってるとは知らないだろうし、もし知ってたとしてもこの場所が何処なのかわからない。連絡をとる方法もないし)
「ふふふっ」
その時聞こえてきた声に、はっと顔を上げると、牢の外にいた麗玲ともう一人の少女と目が合った。
「ふふふっ。……いいざまね、天華。でも、あなたがいけないのよ。……あなたが私達魔神族を封印しなければ、もう少し生かしてあげてもよかったのに」
「そうね。……恨むなら数百年前、麗玲達を封じた前世の自分を恨みなさい」
そう言って二人は笑いつつ、去っていく。
(前世の私を恨めっていわれても……)
自分がこれからどうなるのか、不安になってくる。
連れ去られる前とはすっかり変わってしまった麗香の、麗玲としての冷たい視線を思い出し、悲しくもなってくる。
本当に自分が神界の神子であった【天華】の転生者だったとしても、今の自分には何の力もない。
逃げ出すことも助けを呼ぶことも出来ない。
このまま此処にいたら、自分がどうなってしまうのかもわからない。
そう思うと、泣き出したくなった。
2
「……い!……きろ!」
身体を強く揺すられ、舞はハッとする。
いつの間にか眠ってしまったのだろう。
今、自分を起こしたのは誰なのかと視線を向けると、そこには厳しい表情をした封魔の姿があった。
「なっ!?……何であなたが……」
「静かに。……此処から逃がしてやる。ついて来い」
そう言って踵を返し、牢の外に出た封魔に舞は不審げな視線を向けた。
「どうした?」
「……一体、何のつもり?あなたが私を助けるというの?」
「……ここで死なせる訳にはいかないからな。信用できないだろうが、脱出するまでは従ってもらう」
「…………」
「……行くぞ。他の奴等に感付かれたら、少し面倒だ」
そう答える封魔に言いたいことはあったが、今は彼に従うしかなさそうだった。
封魔の後を黙って歩きながら、舞は彼の様子を窺っていた。
「……何か言いたそうだな」
視線を感じたのか足は止めないまま、封魔が肩越しに振り返ってくる。
「……一体、何のつもりですか?麗香のことは無理矢理連れていったくせに私のことは助けるなんて」
「……言っただろ?ここでお前に死なれるのは困る。後々、お前の力は必要になるからな」
その言葉に、舞はムッとする。
「何、それ。私のことは利用するつもり?大体、花音先輩のことも……」
「……静かに。こっちだ」
何かに気付いたのか、文句を言う舞の口を塞ぎ、物陰に引きずり込まれる。
その数秒後、舞達が歩いていた通路を魔神族の兵が歩いて行った。
「……行ったか。少し急いだ方がよさそうだな」
兵がいなくなったのを確認した封魔が通路に出たのを見て、舞も隠れていた場所から出る。
言いたいことは沢山あったが、足早に歩く封魔にそれらを聞くつもりはないようだった。
3
「……着いたぞ。ここだ」
封魔が足を止めたのは、薄暗い倉庫のような場所だった。
「刹那、いるか」
「……ああ」
封魔の呼び掛けに答える声がして、一人の少年が姿を見せる。
(この人が刹那)
そんなことを思っていると、彼も舞の方を見た。
「……それでこいつを何処に戻せばいいんだ?」
「決まってるだろ。光の街だ。……あいつらの所に戻る途中、また捕まったら意味がないからな」
「わかった」
頷いた刹那が自分の前方に手を翳すと、彼の前の空間が歪んだ。
「よし、繋がったぞ」
「これを通れ。そうすれば、戻れる」
「…………」
「……此処にいたって、花音はいないから会えないぞ。俺たちが普段いるのは、この魔神族の本拠地じゃないからな」
言われて、舞は内心溜め息をついた。
本当ならこの間変な別れ方をしてしまった為、花音が無事か確認したかったが、いないと言われてしまえば諦めるしかなさそうだった。
「……助けてもらったけど、お礼は言わないから……」
それでも少しだけ悔しくて、そう呟くように言うと、舞は刹那が開いた空間の中に足を踏み入れた。
刹那が繋げた空間を抜けると、そこは既に光の街の中だった。
(とりあえず、逃がしてくれるっていうのは本当だったみたいね)
そんなことを思いながら、光輝の屋敷の方へ足を向ける。
攫われてからどの位の時間が経っているのかはわからなかったが、もしそれなりに経っているのなら、心配をかけてしまっているのは間違いなかった。
4
屋敷に着き、扉を開けようとするのと同時に中から扉が開かれる。
「わわっ!!」
「っ!!」
それによって前のめりになってしまい、ドアを開けた誰かとぶつかってしまった。
「……っ!」
「舞……?」
少し驚いたような声にぶつかった所を抑えながら視線を向けると、飛影の姿があり、その彼の姿を見た瞬間、安堵からか力が抜け座り込んでしまった。
「お、おい!」
「ごめん。……なんか安心したら、力抜けちゃって……」
そう苦笑いしながら言うと、飛影は一つ溜め息をついた。
「……それでよく戻ってこれたな」
少し休んでから舞が封魔とのこと以外の部分を話すと、飛影はそう呟いた。
「……うん、でも……」
舞はそこまで言って、言葉を止める。
(封魔に助けられたって言って、それを信じてもらえるのかな?……正直、私自身も迷ってるくらいなのに)
「どうした?やっぱり、怪我でもしたのか?」
「え?……ううん、大丈夫。元気だよ」
少し心配そうに言われて、そう返す。
(封魔に助けられたこと、まだ皆には黙っておこう)
自分の中でも整理がついていないこともあり、舞は心の中でそう決めた。
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