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第3章

1
不安を抱えたまま神蘭が他の兵達と共にやってきた村は、静まりかえっていた。
「……まるで抜け殻だな」
幾つかの家を覗いてみても、人一人見つからない。
「おいおい、この間もこんな状況じゃなかったか」
「今度は何があるっていうんだ?」
そんな言葉を聞きながら、神蘭は辺りの気配を探る。
(……駄目だ。何も感じない)
「なぁ、この村の連中が魔神族に協力しているのが本当の話なら、我々が来ることを知って、此処を捨てたんじゃないか?」
「……そうだな。もしかしたら、他の班の所にいるのかもしれない」
パチパチッ
「誰だ!?」
その時、場違いな手を叩く音が聞こえてくる。
視線を向けると、其処には月夜が立っていた。
「月夜!」
「なかなかいい感をしてるな。だが……」
月夜が何かの合図のように指を鳴らす。
すると、神蘭達の周りを囲むように今までは感じなかった気配が一気に増えた。
「なっ!?」
慌てて辺りを見回せば、そこには月夜が連れてきたのだろう魔神族と兵達とこの村の住人達だろう人々が武器を構えていた。
「……残念。お前達はまた嵌められたのさ。……なぁ」
そう言って月夜が見たのは、神蘭達を此処に連れてきた兵士だった。
「そんな……」
「また騙されたのかよ!?」
「ふん。……スパイが一人とは限らないってことだ」
月夜がニヤリと笑う。
「さぁ、お前達が此処から戻るには村の奴等もどうにかしないとならないぜ。どうする?」
その言葉から村の人々の意思は固まっていて、既に説得は難しいのだと感じた。
2
「……っ……」
魔神族だけを狙うにも援護するように攻撃してくる村の人々に上手くいかない。
村の人々を攻撃したくないというだけでも不利なのに、人数も向こうが上だった。
(どうすれば……)
応援を呼ぼうにも通信機を持っているのは裏切った兵士なのだ。
「ぐあっ!」
「がっ……」
状況に戸惑い、防戦にまわる間にも兵士達は倒されていく。
「ほら、どうする?すぐに味方は来られない。今のままだと全滅だぞ」
「っ……」
楽しそうな声で言う月夜を睨むが、状況が変わる訳ではない。
その時、周囲の空気が急に張り詰めたように感じた。
その直後、何処からか放たれている殺気が重くのしかかってくる。
(何、今度は何が)
殺気に上手く身体が動かせない。
気を抜けば意識が飛びそうになるのを堪えていると、今度は魔神族の兵士達が次々と倒れ始める。
その兵士達の背後には封魔の姿があった。

(封魔!?)
彼の姿に安心したのも束の間、神蘭は身震いした。
その姿は全身が黒づくめで、表情は酷く冷たい。
「…………」
感情を窺わせない表情で魔神族や村人達を見たあと、神蘭達に視線を向けてくる。
「……退け。足手纏いだ」
その言葉に神蘭が残っていた兵士を見ると、その内の一人が口を開く。
「……仕方ない。退却する」
「でも」
「……何、完全に退く訳じゃない。他の班とも連絡を取り合って体勢を整えるんだ」
封魔一人を残すのに抵抗があり、声を上げた神蘭だったが、そう言われたら納得するしかなかった。
「おい、大丈夫か?」
一旦村の外に出て少し経った頃、近くの村に行っていた筈の光鳳が現れた。
「一体、何があった?」
「それが……」
退くことを決断した兵士が今あったことを説明する。
「……そうか。やはり罠だったか。最近、そんなことばかりだな。だが、そんな状況でよく無事だった」
「それは、封魔様が……」
「封魔が……?」
光鳳が呟いた時、村の中から爆音が聞こえてきた。
「……!様子を見てくる!お前達は此処にいろ!」
言って、光鳳は走り出す。
そう言われたものの、気になった神蘭は後を追うことにした。
4
光鳳の後を追い掛け、村の中に入った神蘭は先程までいた辺りを目指した。
そこに近付くにつれて、血の臭いがしてくる。
少ししてその場に着いた神蘭は、目を見開いた。
そこでは一度退く前に神蘭達を取り囲んでいた魔神族や村人達が倒れている。
その中で立っているのは二人。
一人は先に入っていった光鳳、もう一人は封魔だったが、彼を見た瞬間、背中に冷たいものが走った。
(……封魔……)
その時、神蘭や光鳳を見ていた封魔がニヤリと笑った。
「避けろ!」
声を上げた光鳳に引っ張られるようにその場を飛び退く。
次の瞬間、封魔の剣が今まで神蘭達のいた場所へと振り下ろされていた。
「なっ!?」
突然の攻撃に目を見開く。
「……かわしたか」
ぽつりと呟いた声は冷たく、目は鋭かったがそれもすぐに笑みへと変わった。
「だが、一太刀で簡単に斬られるような奴ばかりじゃつまらない」
言葉と共に殺気が向けられる。
その時、背後から幾つかの足音が聞こえてきた。
「「「「神蘭!!」」」」
「光鳳!これは一体……」
現れたのは別行動になっていた鈴麗達で、彼女達を見た封魔が笑う。
「くくっ」
視線を向けると、彼は楽しげに笑いつつ剣を構え直していた。
「これはまた大勢来たな。……今度は少しは楽しめそうか」
そう言う封魔を信じられない思いで見ていると、不意に声が聞こえてくる。
「待て」
現れたのは、総長だった。
「……何だよ」
「その者達は私の部下だ。勝手に殺されては困る」
「ちっ……」
総長の言葉に封魔は舌打ちした。
「……つまらない。もう終わりか」
「そんなお前に朗報だ。次は南の町。此処よりは規模も大きく、軍も派遣していない。好きにしろ」
「!!了解」
そう言い封魔が姿を消す。
それを確認して、総長は何かを考えるようにした。
「ふむ……、少し弄りすぎたか。理性が消えた後、敵味方の識別がつかなくなるとは。さて、どうするか?」
「……総長」
その時、光鳳が口を開く。
その声は低く、彼は総長に怒りをぶつけるように鋭い視線を向けていた。
「封魔のあの状態は何だ?あんた、あいつに何をした!?」
声を荒げる彼に少し驚きながらも総長の答えが気になり、視線を向ける。
「……何も。手を加えたのは研究者達。ただ私は彼等に魔神族に対抗する兵器をつくるように言っただけだ」
「兵器?……まさか、封魔をその兵器だというんじゃないですよね」
光蘭が聞くと、総長はそれに頷いた。
「そう。封魔から余計な感情を抜き取り、軍で保管していた神族の力を注いで、作り上げた兵器。……今はまだ封魔の人格を少し残してはいるが、改良を加え、いずれは完全な兵器、魔神族や魔族に対しての『殺戮人形』になる」
「信じられない。自分の息子によくそんなことを……」
「仕方あるまい。闘神が一人しかいない上、次の代の候補もいないのだからな」
「だからって」
光鳳が納得いかないような声を上げる。
「とはいえ、まだその状態になるには時間が掛かる。納得いかないなら、他に魔神族や魔族との戦力差をどう埋めるか考えることだな」
そう言い総長は姿を消してしまった。
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