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第3章

1
訓練が始まってから数十分後。
光鳳がやってきたのが見えて、神蘭は視線を向ける。
本部で何があったのかわからないが彼の表情は不機嫌そうで、そのまま光蘭に話し掛けていたが、何を話しているかまではわからなかった。
(何の話をしているんだろう?)
深刻な顔をしている光鳳と光蘭に内容が気になり、意識が其方に向いてしまう。
「神蘭!!」
「えっ!?……っ……!」
鈴麗の声に視線を戻した時には目の前に剣が迫ってきていて、咄嗟に受けたものの神蘭の手から訓練用の剣は弾かれていた。
「もう……、訓練中にぼんやりしてるなんて……。もし真剣を使ってたら大変なことになってたよ」
「……ご、ごめん」
「……まぁ、そのくらいにしといてやれよ。神蘭も既に四人から説教されてるんだしな」
「ううっ……」
午前中の訓練を終えた昼休憩中、眉を吊り上げている鈴麗を宥めるように龍牙が言う。その言葉に怒られた時のことを思い出し、神蘭はテーブルに顔を伏せた。
「立て続けに四人に怒られていたもんな。封魔がいれば説教も一回で済んだだろうけど」
「……封魔か。……そういえば、全然姿を見せなくなったな」
そんなことを白鬼と白夜が言った時、光鳳と光蘭が難しい表情をして現れた。
「何かあったんですか?」
そんな二人に楓が声を掛ける。
「……ああ。後で話す」
光鳳がそう返し、軽食を受け取ってすぐに出て行ってしまう。
そんな様子からも何かが起きたのは間違いないようだった。
2
休憩が終わり、神蘭達が集められたのは訓練場ではなく、本部前の大広間だった。
訳も分からず集められた神蘭達の前に現れた光鳳と光蘭の表情は硬かった。
それが気になったが、その二人の背後から現れた総長と副総長に気を引き締める。
その二人から聞かされた話は神蘭もだが、誰も予想していないようなものだった。
(えっ?何、どういうこと?)
言われたことが理解出来なくて、鈴麗達と顔を見合わせる。
「だから、今言った通りよ。最近、魔神族に協力する村が増えてきてるの。その村に兵を派遣することが上層部の話し合いで決まったのよ」
「説得で戻ってくるならそれでよし。戻らないというのなら……滅ぼすこともやむを得まい」
「待ってください!それは我々に同胞を殺せということですか?」
「……そうだ」
頷いた総長に兵達は騒めいた。
「総長、お言葉ですが、何も滅ぼすことはないのでは?」
「そうですよ。他に何か……」
「ふん。あまいな」
光鳳と光蘭の言葉に総長は再び口を開く。
「この際だ、お前達に教えておこう。……今までも軍や一般の神族、上層部の者達の中に裏切者がいなかった訳ではない。その者達は全て秘密裏で始末され、表沙汰にならなかっただけなのだ。……そして、それを行ってきたのが蒼魔と封魔だ」
「「!!」」
それを聞いた星夜と楓が目を見開く。
その二人の驚き方を見ると、彼等もそのことを知らなかったようだった。
「そんなこと、私達は何も……」
「知らないのも当然でしょう。二人はあくまでも影で動いていたのだから。裏切って初めて知るのが普通よ。……例外もあるけどね」
その時、神蘭は副総長に一瞬だが見られた気がした。

(暗部……か。そんなこともしてたんだ)
解散後、戻った自室で神蘭は初めて知ったことや、これからのことを考えていた。
(もし行った村で魔神族との繋がりを上手く切ることが出来なかったら……)
そこで総長の言葉を思い出す。
(私は村の人達を手にかけなければならなくなる。本当なら軍人として守らなければならない人達を……この手で……)
そう思うとなかなか寝付けない。
(それに副総長が言ってた例外っていうのは……)
神蘭が封魔と初めて出会った時のことだろうとわかった。
あの時、神蘭や彼女の父親、怜羅がいた為、封魔も深追いしなかっただけで、前に怜羅が言ったように部下を心配したから動いたというより暗部として動いていたのではないかという気もしてくる。
もしそこで彼が月夜やその時いた者達を処理してしたら、今の状況ももう少し何かが違っていたのだろうか。
(……でも、過ぎたことをいっても仕方ないか。それより、問題は今まで二人がやっていたことを今度からは……私達がやらなきゃいけなくなるということ……)
そのことに勿論戸惑いはある。
それでも覚悟を決めなければならなかった。
次の日、神蘭が集合場所へ向かうと、そこには硬い表情をした兵士達が既に集まっていた。
その中に鈴麗、龍牙、白夜、白鬼の姿はない。
(皆、別の班なんだ……)
そう思うと、余計に気が重くなった。
「集まったな。それじゃあ、行くぞ」
神蘭が最後だったのか、既に集まっていた兵の中で一番年上の兵が言う。
「えっ?行くって、俺達だけでですか?」
「ああ。上官が一人ずつついてくれることにはなっていたが、急遽向かう先が増えたらしくてな。だが心配ない。我々が向かうのは一番規模が小さいところだ。それに近くの村にも向かっている班がある。そこには光鳳様がいるから、何かあればすぐに駆け付けてくださるだろう」
年上の兵の言葉に、兵達は少し安心した様子を見せる。
それでも何故か神蘭は安心することが出来なかった。
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