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試練の刻

1
闇の国に来た次の日、花音達は夜天の案内で光の一族が住む街へと来ていた。
(何かさっきからものすごく視線を感じるなぁ)
街の中に入った途端、自分達に向けられた視線に花音は戸惑いながら辺りを見回す。
向けられた視線はどれも好意的なものではなく、怒りや敵意、殺気を感じるものばかりだった。
その時、不意に風夜が花音の目の前に手を伸ばす。

パシィ

「えっ?」
それと同時に音が響き、飛んできた何かを風夜が受け止め地に落とす。
それが何か見ようと視線を動かすと、そこには大きめな石があった。
「お前ら!」
それを見て、夜天が声を荒げる。
だが街の人々は石を投げたのを境に、殺気を露にして花音達の周りを囲んでいた。
「どうやら俺と風夜が一緒に来たのか不味かったみたいだな」
その様子を見て、火焔が花音達にだけ聞こえるくらいの声で呟いた。
「いや、多分俺が約束を破ったからだ」
「約束?」
「俺がこの街を知った時に光輝や街の人々と約束したんだよ。この街のことを他の国の奴等には黙ってるってな」
「それで今回俺達にばれてしまったから、約束を違えたってことか」
「ああ」
「何をこそこそ話しているんだ?さあ、危害を加えられたくなければ、さっさと街を出ていけ」
街の人々の中から一人の男が出てきて言う。
「今すぐ出ていかないなら、この国の皇子だろうが他国の皇子だろうが関係ない。強制的に出ていってもらう」
男の言葉に街の人々の周りに力が集まるのがわかった。
「話すら聞いてもらえないのかよ!」
「駄目だ。全員、頭に血が上ってる。先ずは冷静にさせないと」
「向こうが実力行使というなら、こっちもやむを得ないな」
街の人々が力を溜めているのを見て、風夜達の周りにも力が集まっていく。
「ちょっ、待ってよ!皆、落ち着いて!」
慌てて花音は声を上げる。
人数こそ此方が少ないが、風夜達の力は相当なものだ。
このままではお互いに只ではすまないことはわかる。
だが、花音が止められるのは風夜達の方だけで、それではただ街の人々の能力の的になるだけだった。
ペンダントを握り締めて、必死に光輝に呼び掛ける。
花音の能力が覚醒した時、ペンダントを通して別の場所にいた光輝と繋がったのだ。
どうすれば繋がるのか、花音から意識を繋げることが出来るのかもわからなかったが、この場をどうにかできるのは光輝だけだった。
何度目かの呼び掛けでペンダントが淡い光を発し、頭の中で何かが繋がるような感じがする。
そして能力が覚醒した時と同じように光輝の声が聞こえてきた。
『姉上、どうし……』
(光輝!お願い、早く此処に来て!)
頭の中に聞こえてきた声に答えると、光輝が黙りこむ。
花音やペンダントを通して光輝が状況を把握したのだろう。
『!わかった。今行く!』
一瞬息をのむ音がして、そう声が聞こえたと思うと向こうから意識を切られた。
光輝の声が聞こえなくなって数分後、突然街の人々の雰囲気が変わった。
誰もが能力を使う為の集中を解き、戸惑った表情を浮かべながら道を開け、出来た道を一人の少年が歩いてくる。
その少年を見て街の人々が頭を下げ、夜天が構えを解いて息をついた。
「久しぶり、姉上」
目の前まで歩いてきた少年がそう言い笑顔を見せた。
その笑顔が記憶の中の光輝と重なる。
幼い頃引き離されてから、数年振りの姉弟の再会だった。

光輝に案内され、現在光輝が住んでいる屋敷の彼の部屋へ入ると、光輝は人払いをして風夜達を見据えた。
「夜天から風の国が奴等に襲撃されたって聞いてたけど、皇子であるあんた達がこんなところに来ていていいのか?」
「ちょっ、光輝!?」
開口一番にそう言った光輝に花音は慌てる。
だが光輝は風夜達を睨み付けたまま続けた。
「昔からそうだ。他の国の奴等はあいつらが現れて、自分達の手に負えなくなると俺達に押し付けてきた。今回もそのつもりなんだろ?」
冷たい声色の光輝に花音は愕然とする。
街の人々と光輝の態度を見て、他の一族との間にある確執を改めて思い知らされた。
「はぁ~」
光輝に散歩へ行くと伝え、外に出た花音は大きく溜め息をつく。
光輝に風夜と火焔の滞在を許してもらおうと説得しただけでものすごく疲れた気がした。
(風夜も火焔くんもいい人なのに、どうして敵視するのかな?)
そう思いながら、街を見て回る。
いつか、この街で暮らすことになるかもしれない。
そう思うと、やはり他の一族とも仲良くしてほしかった。
「光華様!?光華様じゃないですか!?」
「えっ!?」
その時、声が聞こえて花音は足を止める。
見ると、そこには優しそうな老夫婦がこちらを見て、近付いてきた。
「お久しぶりです、光華様」
「え、えっと……」
老夫婦にそう声を掛けられ、花音は戸惑う。
『光華』
その名前は知らないはずなのに、何故だか懐かしかった。
「あ、あの」
街で会った老夫婦の家へ連れてこられ、花音は戸惑いがちに口を開いた。
「貴方達は一体?それに光華っていうのは?」
その言葉に老夫婦は一度視線を交す。
「私どもは貴女様がご両親とこの世界を去ってから、光輝様の御世話をしていた者です」
「光輝の?」
「はい。一人此方に残されてしまった光輝様を育てて参りました。光輝様は、私どもにとって孫のような存在です。そして光華というのは、貴女が此方の世界を去る時に捨てられた此方での名です」
「私の……、もう一つの、ううん、本当の名……」
「とはいえ、貴女様にとっては馴染みのない名でしょう。今の御名前をうかがってもよろしいですか?」
「花音です。桐生花音」
「花音様ですね」
そう言い、優しく笑う老夫婦に花音は疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「あの私、まだこの世界のことよく知らないんです。幾つか教えてもらってもいいですか?」
「勿論、いいですよ」
「じゃあ、まずはこの世界の一族、特に陰の一族について」
「わかりました」
そう答えると老夫婦は目を閉じ、思い出すように話し始めた。
「数百年前、この世界には今ある七つの一族と陰の一族、その他に氷、草、音、時、星読の一族がありました。それらの一族は互いに協力しながら、平和に暮らしていました。ところが、ある日、急に陰の一族が他の国を襲い始めたのです」
「当時、陰の国には恐ろしいほど強大な力を持った女がいて、その女がこの世界を支配しようと企んだそうです。それを知った我々の祖先は、数日の戦いの末、戦いで力を使い果たした女を一族ごと追放したそうです」
「それからは特に何もなかったのですが、十数年前、突然星読の一族が姿を消しました。彼等は未来を知ることが出来ましたから、陰の一族が再び現れることを逸早く知り、姿を消したのでしょう。勿論、我が一族、そして他の一族は陰の一族と戦いました」
そこまで話し、老夫婦は表情を暗くした。
「ところが、陰の一族のしつこい襲撃に氷、草、音、時の一族は姿を消し、残った一族も我々に陰の一族の相手を押し付けるようになったのです。その結果、我が一族の被害は増えて逃げ出す者も出始める始末。貴女のご両親も長でありながら、一族を捨て、力が目覚めていなかった貴女だけを連れ別世界へ行ってしまったのです」
「この世界に残された光輝様は、両親と他の一族を恨み、どの国にも属さないこの街を僅か十になるかならないかの年でつくりあげました。街の皆もそんな光輝様を慕っております」
「……ところで風の国のことはご存知ですか」
「ええ。光輝様から聞いています。花音様の身を案じておられましたから」
「それで聞きたいんですけど、何か方法はありませんか?その国に残してきた人達を助けたいんです」
花音が訴えるように聞くと、老夫婦は困ったように顔を見合わせた。
「方法はあることはあります。ですが、危険ですよ」
「それでもお願いします。教えてください!」
「……わかりました」
花音が言葉に溜め息をついて、口を開く。
「数百年前、陰の一族との戦いが起きた時、宝珠の力で勝利し、陰の一族を封じたそうです。宝珠は各一族に一つずつあり、そのありかは王族が知っていると」
「各一族に一つ?ってことは……」
「勿論この街にも、制圧された風の国にも。今はない氷、草、音、時、星読の一族、そして陰の一族にもあります。前の戦いではその全ての宝珠が集まり、強大な力を持った女にようやく勝てたそうです」
それを聞いて、花音は考えこむ。
火、水、地、闇、雷の宝珠は火焔達と面識があるため、何とかなる。
問題はそれ以外だった。
風の国は陰の一族の手におち、光の一族は光輝を上手く説得しなくては難しい。
陰の一族は敵の本拠地だし、氷、草、音、時、星読の一族は一族すらなく何もわからない。
「ん?陰の一族?」
そこまで考えて、花音は首を傾げた。
「陰の一族って、敵じゃ……」
「向こうに裏切り者がいたそうです。まぁ、此方に宝珠を渡したことで、すぐに処断されたらしいですが。……でも、此方としたらその者のおかげで勝てたのでしょうけど」
そこまで言った時、家のドアが叩かれる。
それに老女の方が応対し、すぐに戻ってくる。
「花音様、どうやら迎えが来たようですよ」
「迎え?」
「はい。いつの間にか結構時間が経っていたようで、心配して、探していたそうですよ」
そう言われて窓の外を見ると、既に暗くなっていた。
「大変!帰らなきゃ!」
光輝に散歩に行くとしか言っていなかった為、慌てて立ち上がる。
老夫婦に挨拶して家を出ると、不機嫌そうな夜天が壁に寄り掛かっていた。
「や、夜天くん?」
「……遅いから迎えに来た」
そう言い、眠そうに目を擦る。
「一眠りしていたら、光輝と風夜に叩き起こされてな」
「それって、私がなかなか帰らなかったから?」
「まぁ、散歩にしては長かったからな」
「……ごめんね」
「いや、それより夕食の準備が出来たみたいだから、早く帰ろう」
夜天がそう言い、歩き出す。
花音は見送りに来た老夫婦に頭を下げると、先を行く夜天を追い掛けた。

光輝の屋敷に戻り、夕食を摂った後、花音は彼の執務室を訪れていた。
「姉上、話って?」
椅子に座って真っ直ぐに見てくる光輝から花音は僅かに視線を逸らせていたが、決心がついたように口を開いた。
「あのね、街の人に聞いたんだけど、各一族に一つずつ宝珠があるんだってね。この一族の宝珠が何処にあるか知ってる?」
「……ああ」
頷いた光輝の声は硬い。
それに花音も気付いたが、それでも続けた。
「それでね、その宝珠が何処にあるか教えてほしいんだけど」
花音はそう言って、恐る恐る光輝の表情を見る。
光輝の表情は声と同じく硬く険しかったが、どこか戸惑っているようにも見えた。
「姉上」
「えっ!?」
「姉上はどうして宝珠が必要なんだ?」
「どうしてって、陰の一族をどうにかするには宝珠が必要かもしれないって聞いたから」
そこまで言って、花音は息をのんだ。
光輝の表情が冷たいものに変わる。
「光……輝……?」
「ほっとけばいい!あいつらには関わらないと俺達は決めたんだ」
「でも!このままじゃ、風の国だけじゃなく他の国も危険になるかもしれないんだよ」
「その時はその時だ。自分達の国は自分達で何とかすればいい」
その言葉がショックだった。
花音の中では光輝は優しい少年だったから。
彼がそんなことを言うのが信じられなかった。
「光輝……」
「奴等との戦いで一族はだいぶ人数が減ってしまった。俺はこの一族の長として、これ以上一族に被害を出す訳にはいかない。それに奴等は俺達が今回のことに関わらないなら、この街には手を出さないと約束してくれた。だから、宝珠の場所を教えることも出来ない」
「待って!この一族に手を出さないって、誰が言ってたの?光輝、誰に会ったの?」
「陰の一族の奴だ。確か聖っていう女だった」
(聖ちゃんが!?)
出てきた名に目を見開く。
まさかもう手が回っているとは思わなかった。
「それともう一つ……」
「えっ!?」
「姉上も今回のことに関わらないでくれ」
「!?」
「姉上も今は光の一族の一人なんだ。だから」
「私が関わっていたら、聖ちゃんとの約束を破ることになるってこと?」
「ああ。姉上も俺と同じ立場だ。この一族を守る義務が……」
「そんなの知らない!」
「姉上!」
花音は叫ぶように言って、執務室を飛び出した。
今の光輝に自分の声は届かない。
それが悲しかった。

光輝と言い合いをしてしまった次の日、花音は朝から飛竜の待機しているところまで来た。
(教えてもらえないなら、自力で探すしかないよね)
そう思いながら飛竜を起こそうとして手を止める。
「私、まだ一人じゃ乗れないんだった」
だが、風夜達に頼んで一緒に行ってもらうわけにはいかない。
光輝や街の人々の態度を見ても、勝手に他の一族に宝珠のある場所をばらしてはいけない気がした。
「仕方ない。まだ早いし、そんなに広い街でもないみたいだから歩いて探そう」
そう呟いて、花音は踵を返した。
宝珠を探し始めて二時間。
花音は光の街を一望出来る位の高い塔の前にいた。
「この一番上まで行けば、宝珠がありそうなところを探せるかな」
人気のない塔の入口を花音は開こうとする。
だが、鍵が掛かっているのか扉は開かない。
花音がどうしようかと思った時、ペンダントが光りだし、一筋の光が鍵穴に伸びていく。
その一瞬後、扉はゆっくりと開いていく。
花音が中に入ると、目の前には上へ続く階段が見えた。
その階段を上ろうと足を踏み出した時、足下から陰が伸びてきて花音の身体を捕えた。
「なっ!?」
「来ると思っていたわ。久しぶりですね、花音様」
「聖ちゃん!?」
陰に捕まった状態で花音はクスクスと笑う聖を見る。
「どうして、聖ちゃんが此処に?」
「貴女のことだから、宝珠を探しに来ると思ってたの。それに此処には風夜様達は入ってこられない」
聖が言いながら近付いてくる。
「他の光の一族は私達の邪魔はしないと言ってくれた。貴女もそうするなら、見逃してあげるけど」
「私は……」
花音はそう呟いて俯く。
脳裏には陰の一族に襲撃された風の国、そこに残してきた風華や空夜の顔が浮かんで消えていった。
「私は風華ちゃん達を見捨てることは出来ないよ。私に何が出来るかはわからないけど、私は皆を助けたい!」
「……そう。なら、やっぱり此処で消えてもらうわ!邪魔が入らないうちにね!」
「っ!」
聖の声と共に花音の身体を捕えていた陰が首へと伸び、締め付けてくる。
「うっ!」
「さあ、死にたくなければ邪魔をしないと誓いなさい!」
花音は何とか逃れようと陰に手を伸ばし、掌に力を集中させようとしたが、その前に両手を拘束されてしまった。
(やばい。息が出来ない……!)
段々と花音の意識が薄れてくる。
(もう……駄目……)
「姉上!」
意識を飛ばしそうになった時、その声と共に光球が飛んできて花音の身体を捕えていた陰を一瞬で消し飛ばした。
「光……輝……?」
床に倒れそうになった花音は横から支えられる。
支えてくれた光輝は険しい表情で聖を見ていた。
「どうして、お前が此処にいる?此処は光の一族以外立ち入り禁止の場所だぞ」
「それはこの塔にある宝珠をこの子が手に入れるのを邪魔するためよ。宝珠を集められると色々困るの。それと、その子が私達の邪魔するなら、貴方達光の一族との約束も取り消すしかないわ」
「……」
「どうする?やはり貴方達も私達の邪魔をする?それとも、この場でその子を引き渡してくれる?」
「俺は一族の長として一族を守らなければならない。でも、お前達に姉上を渡す訳にもいかない。……ずっと、引き離されたあの日からまた会える日を待ってたんだ。だから、お前達が姉上に危害を加えるなら黙ってみているわけにはいかない!」
その言葉と同時に光輝から凄まじい力が放たれる。
それは聖が作り出した陰を全て消し飛ばし、聖の身体を吹っ飛ばして壁に叩き付けた。
「くっ、此処は退いてあげるわ。でも、覚えてなさい。貴女達が何処で何をしようと、私達には貴女達の行動は筒抜けなの。次はこうはいかないから」
聖はそう言って、姿を消す。
それを確認すると光輝が振り返った。
「姉上、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「そうか。でも、まだちょっと動けないだろ?あいつらも心配していたし、一度帰ろう」
そう言った光輝に抱き上げられて、思わず顔を紅くする。
小さな頃と比べて力強い腕に抱かれ、改めて離れていた時間の長さと男女の差を感じた。

「う……ん?」
「大丈夫か?」
「風夜……?」
花音が目を覚ますと、すぐ傍の椅子に座っていた風夜が声を掛けてきた。
「光輝から聞いた。聖がいたらしいな」
「……うん」
風夜に言われ、花音は顔を俯かせた。
塔で待っていた聖によって危機に陥っていた時のことを思い出し、今になって身体が震え出す。
あの時、光輝が来てくれなかったら自分はどうなっていたのか、想像もしたくなかった。
「花音?」
「な、何でもないよ。それより光輝は?」
「ああ。あいつならお前を連れてきた後、また出掛けたぞ。やることがあるって言ってな」
「やること?」
「まぁ。何か決意したような目をしていたけどな。……とにかく、お前はもう少し休んでろ」
「う、うん」
花音が頷くのを確認して風夜が椅子から立ち上がる。
「俺は火焔や夜天と別室にいるから、何かあったら呼べよ」
風夜はそう言い部屋を後にして、花音は再び睡魔に誘われ目を閉じた。
どのくらい時間が経ったのか花音が目を覚ますと、丁度光輝が部屋へ入ってきたところだった。
「姉上、これを」
「これって、まさか!?」
近づいてきた光輝が差し出してきた白っぽい珠を見て、花音は目を見開く。
「そう、これが光の塔にある宝珠だ」
「取ってきてくれたの?」
「姉上はこれが必要なんだろ?」
そう言って光輝は悔しげに顔を歪めた。
「どうしたの?」
「……悔しいんだ。俺の知らない所であいつらと出会って、姉上は危険を省みずあいつらを助けようとする。俺の知らない姉上をあいつらは知ってる。……俺の姉上なのに、あいつらに取られたみたいだ」
どこか拗ねたような口調の光輝に思わず笑みが溢れる。
「そんなことないよ。確かに風夜達は大切だけど、光輝だって私の大切な弟だよ」
「姉上……」
「光の一族を束ねる者として、光輝の姉として、私は失格かもしれない。でも必ずこの街に戻ってくるから、風夜達と行くことを許してもらえないかな」
光輝にそう言うと、彼は何かを考えこんでいるようだった。
次の日、花音が飛竜を待機させているところまで来ると、既に風夜達が待っていた。
「三人共、お待たせ」
「それより、いいのか?花音」
「何が?」
「朝、光輝と話してないだろ?」
夜天にそう聞かれる。
出発する前、花音はもう一度話をしたいと思っていたのだが、朝食の席に光輝の姿はなく、出発時刻になっても姿が見えなかった。
光の一族の長として忙しいのかもしれないが、顔くらいは見たい。
見送りに来てないかと振り返ったが、誰の姿もない。
諦めて風夜の手を借りて飛竜に乗った時、上空から何かが下降してきた。
「えっ!?」
「よかった。何とか間に合ったみたいだな」
下降してきた飛竜の背で光輝が笑みを浮かべる。
「光輝?」
「光輝、お前……」
花音と夜天が思わず目を丸くすると、光輝が口を開いた。
「お前達に姉上を任せておくのは不安だからな。俺もついていく」
「不安じゃなくて、本当は折角会えた花音と離れたくないんだろ?」
「なっ!?確かにそれもあるけど、俺はまだお前達を信用してないんだ。それなのに、姉上を任せておけるか!」
からかうように言った火焔に光輝がそう返す。
それを見ながら、花音達は笑っていた。
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