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短編・中編集

「魔神族……ですか」
「……ああ」
書類に目をやり頷いた封魔は、視線を自分の前に立つ部下へと向ける。
そこには封魔と比べて親子くらい年の離れていそうな男がいた。
「……神界の上層部から聞いた情報だが、軍の中に奴等と通じている者がいるらしい。お前にはそれを探ってほしい」
「……それが私だとは思わないのですか? 」
「お前に頼むことを決めた時点で、一応可能性は調べた。……お前は白だし、そんな男ではないと信じている。だから、頼まれてくれないか」
「……わかりました。お受けします」
男は少しだけ考えて、すぐにそう答える。
「頼んだぞ。何かあれば、すぐに知らせろ」
その言葉に男は礼をして、部屋を出ていく。
それを見送った封魔はもう一度机の上にある書類を手にとり、一通り目を通してから息を吐いた。
「……あまり大事にならない内にケリをつけられればいいんだがな」
一人そう呟いたが、簡単に済むようなことでもないような気もした。
数日後、封魔は部下からの呼び出しを受け、その部下の家を訪れていた。
「すみませんね。非番の日に呼び出してきていただいて」
「非番はお互い様だろ。……それに、軍内部では話せないから呼び出したんだろ」
「はい」
そう言い、男は何枚かの紙を取り出す。
それを受け取ると、一番上の紙に知っている人物の名が書かれていた。
「……こいつは」
「……はい、私の班の者です。奴は今日、軍に行きましたから此方へ呼びました。……如何致しますか? 」
「……此処まででいい。後は星夜か楓に引き継がせる。……容疑が固まれば、後は俺が対処する」
「しかし! 」
「魔神族という後ろ盾がいる以上、一人の班長でどうにか出来るものじゃない。……気持ちはわかるが、この先は方針が決まるまで待て」
そこまで言って、言葉を止める。
その直後、扉が開いて一人の少女が入ってきた。
「お父さん、今日は剣を教えてくれる約束……」
封魔に気付いて少女の声が途切れる。
「……神蘭、来客中だ。先に今までの型の復習でもしていなさい」
「……はい」
返事をして出ていった少女に、男は溜め息をつく。
「すみませんね、娘が」
「いや、それより剣を持たせてるのか? 」
「最初は護身術のつもりだったんですが、今では軍に入ると言いだしましてね」
「……反対なのか? 」
「ええ、……女が進んでなるようなものでもないでしょう。それにもし大きな何かが起ころうとしているなら、余計に今はなってほしくない。……あの子は月夜のことも慕っている」
「……確かに、奴が裏切っていて、このタイミングで軍に入れば、戦闘は避けられないな 」
「……はい。ですから、私は反対なんですよ」
そう言いながら、男は近くの窓から外を見る。
同じように外へ視線をやれば、先程の少女が木刀を振っていた。
「…………」
数日後、封魔は再び部下である男の家へ来ていた。
身を隠し、気配を消して様子を伺っていると神蘭と呼ばれていた少女と月夜であろう少年が手合わせをして、部下の男はそれを見ている。
三人共、封魔に気付いてはいない。
(……こうして見ていると、特に問題は無さそうだが)
そんなことを思いながら、懐から紙を取り出す。
そこには自身の部下である星夜と楓からの報告が書いてある。
それを見ながら、報告に来た二人が言っていたことを思いだしていた。
『封魔様に言われて調べたのですが、やはり黒ですね』
『……そうか』
『……はい。様子を伺っていた結果、魔神族らしい人物とも接触していました』
封魔の前に立つ楓と星夜が報告してくる。
『どうしますか?このまま放っておくのは危険だと思いますが』
そう言われて、自分の目でも様子を見ておこうと来たのだが、今の様子では問題はなさそうだった。
(……とはいえ、奴以外にも魔神族と関わっている奴はいるかもしれない。他の闘神達にも伝えておいた方がいいな)
そう思い、封魔はその場から姿を消した。
「封魔様! ! 」
数日後。非番だった封魔の所へ慌てた様子で星夜が現れたは、夜遅くのことだった。
「どうした? 」
「魔神族と思われる者達が村を襲撃しているようです」
「何!? 」
それを聞いて、どの村が襲われたのか思い付く。
「軍はどう動いてる? 」
「怜羅様のところが。……我々はどうしますか? 」
「……編成している余裕はない。俺が出る」
会話をしながら、身支度を済ませる。
「では、せめて俺に同行許可を」
「……行く準備はしてきたのか? 」
「予想はしていたので」
そう答えた星夜がニッと笑みを浮かべる。
それに溜息をついた封魔は、彼に声を掛けた。
「……行くぞ。まずは怜羅と合流する」
「はい」
そう言った二人の姿は消えた。
「怜羅! 」
「封魔、あなた非番だったんじゃないの? 」
襲撃されている村へ向かう怜羅の軍に追い付くと、少し驚いたように見てくる。
「それより、襲われているのは? 」
「彼処の村よ」
彼女が指した先に、空が紅く染まっている村が見える。
「っ!……先に行く! 」
言って、スピードを速める。
後から軍を星夜に任せようとする怜羅の声とそれに戸惑う彼の声が聞こえてきたが構わなかった。
怜羅と共に村のすぐ近くまで来て、封魔は足を止める。
村の入り口付近から剣戟の音が聞こえてくる。
「……向こうだ」
「あっ……、もう!待ちなさいって! 」
再び動き出した封魔に怜羅が声を掛けてきたが、止まらずに村へと入る。
そこには剣を構えている月夜の前で、部下が倒れ、その前でその娘である神蘭が庇うように両手を広げた立ち塞がっていた。
「お前達は親子揃ってここで死ぬんだからな」
「……スパイか。なら、手加減する必要はないな」
「何っ!? 」
神蘭ごと止めをさそうとしたのを見て、封魔は斬りかかる。
驚きながらも受け止めた月夜を二人から離すように押し込んでいく。
そして、その間に共に来ていた怜羅が二人へ駆け寄るのを確認し、月夜を抑え込んだ。
「ぐぅっ……、このっ……! 」
力の差に呻いた月夜が力を込めてくるのに対し、封魔は剣を握る手と逆の手で拳を作り、無防備だった腹へと叩きこんだ。
「がはっ! 」
「月夜様! 」
「くそっ!此処は撤退だ! 」
倒れこんだ月夜に、駆け寄った一人が煙幕を使う。
その煙がなくなった時には、月夜の姿はなくなっていた。
「しっかりしなさい! 」
「父様!! 」
剣をおさめ、倒れている部下へと近付いていくと、怜羅と神蘭が呼び掛けている声が聞こえてきた。
部下の男はぐったりとしていて、かなりの傷を負っている。
(この怪我だと……もう……)
そんなことを思っていると、男は薄っすらと目を開いた。
「神……蘭……、よかった。……無事だったか……」
「父様……」
まず娘を見た後、安心したように笑い 、それから怜羅と封魔の方を見てくる 。
「怜羅様、封魔様も……来てくださりありがとうございました」
「……いや、俺達は間に合わなかった 。彼奴らも逃してしまったし、すまなかったな」
そう返すと僅かに首を横に振る。
「いえ、お二人が来なければ、神蘭も無事では済まなかったでしょう。……神蘭……、母さんを頼むぞ」
顔を覗き込んでいた少女に言い、再び封魔を見てきた。
「……封魔様、もし一部下の願いを聞いていただけるなら、お願いがございます」
「……何だ? 」
「どうか神蘭を守ってください。……月夜から、その後ろにいる者達からも 」
「…………わかった」
最後の願いくらい聞きたいと頷くと、怜羅が声を上げた。
「封魔!勝手に……」
「長い間、半分近く年下の俺によく仕えてくれた部下への礼と、命を救えなかったことへの償いだ。……文句は言わせない」
その言葉に怜羅は溜息をつき、部下は嬉しげに笑った。
「ありがとうございます。……これでもうお前は大丈夫だな……、神蘭」
「父様! 」
「お前は軍に入ることはない。……ただ、母さんを支えて幸せに暮らしてほしい。それが……私の、最後の願いだ 」
そこまで言うと、力が抜けゆっくりと目を閉じていく。
「父様?……父様!……いやあああ! 」
満足そうな笑みを浮かべ消えていく姿に、神蘭が泣き叫ぶ。
それを封魔は見ていたが、近くに現れた気配に視線を向けた。
「星夜か」
「……村の消火の方は終わりました。……一応確認はしましたが、残党はいないようです」
「わかった。……戻るぞ」
命じるまでもなく自身の判断で動いてくれたのだろう星夜の報告を受けてそう返す。
「えっ?ですが……」
「いいのよ。今は下手に声を掛けないであげて」
神蘭を気にした様子の星夜に怜羅が返し、撤退を伝えた。
襲撃があった数日後、封魔は直属の部下である星夜、楓と共に部下の墓参りに来ていた。
「あれ?誰かいるみたいですね」
墓が見えてきたところで楓が言う。
彼女の言う通り、目的の墓の前には一人の少女がしゃがみこんでいた。
「あれって……」
「……彼奴の娘だ」
言いながら足を止め、方向を変える。
「封魔様? 」
「……少し待つ。邪魔はしたくない」
「……そうですね」
姿を見られるのもよくない気がして死角へ移動する。
念の為気配も消せば、墓へと話し掛ける神蘭の声が聞こえてきた。
「……ごめんね、お父さん。……私、やっぱり月夜のこと許せない。……お父さんは最後まで反対していたけど、軍に入るよ。…….強くなって、月夜のことを討つ。仇はとるから」
言って、また暫く墓を見て数分後、踵を返して去っていく。
それを確認し、完全に姿が見えなくなってから封魔達は隠れていた場所から 姿を現した。
「どうしてこんなことになってしまったんですかね? 」
「復讐なんて何もうみださない。結局傷付くのはあの子なのに……」
言いながら、星夜と楓は持ってきていた花などを供えていく。
そんな様子を見ながら、封魔は先程の神蘭のように墓を見つめた。
『実は私の一人娘が軍に入りたいと言い出しましてね。……私としては反対なんですよ。可愛い一人娘ですからね 。戦場に立ってほしくない』
『最近、新しく入った部下の月夜ですが、本当に筋がいい。うかうかしていたら、私の方が負けてしまいそうですよ』
『娘の神蘭と月夜が仲良くなって、お互いに兄妹のように思っているみたいなのはいいのですが、神蘭が余計軍に入りたくなってしまったみたいで困ってるんですよ』
『どうか、神蘭を守ってください。月夜から、その後ろにいる者達からも』
過去の部下の言葉をそこまで思い出すと、封魔は目を閉じた。
(……ああ、約束する。……お前の娘はお前の代わりに俺が守ろう。……月夜のことも俺が討つ。……あいつに討たせて、傷を負わせることもお前は望まないだろうからな)
祈りながらそう語りかけ、目を開ける 。
「……戻るぞ」
「「はい」」
星夜と楓に言い、改めて墓を見る。
「…………今まで御苦労だった。……ゆっくり休め」
最後にそう言って、踵を返す。
歩き出すと、後ろから封魔の語り掛けた言葉に対してか、今言ったことに対してなのかはわからなかったが、
「ありがとうございます」
と言う部下の声が聞こえた気がした。
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