第1章 時空を操る少女
1
「ありがとうございました。お陰で楽しい時間が過ごせました」
「また来るね、聖月お姉ちゃん」
礼を言い去っていく女性と女の子を見送り、聖月は息をついた。
「……今日はここまでかな」
呟いて、近くに置いてあるノートを手にとる。ノートには毎日訪れた客と行き先、期間、料金が記入してある。
「……やっぱり、一日に五、六件が限度。お金にして、二、三万ガルド……か。団体のお客さんがいないと、こんなもんだよね」
今日の分の記録を書き、ノートを閉じると、売上金の入った袋をしっかりと締めた。
ノートと袋を荷物の中にしまい、それまでいた店として使っている小屋を出る。
扉を閉め、《CLOSE》の札をかけると聖月は歩き始めた。
2
「……今、終わりました」
小屋を出てから数分。聖月は少し大きめの家へ入り、そう声をあげた。
「ああ。今日はどのくらい稼げたんだい?」
ソファに座り、雑誌を見ていた女性が平坦な声で問いかけてくる。
女性は茉莉という名で、聖月に仕事を与えてくれた人物で、毎日仕事終了後その日の報告をすることになっていた 。
「えっと、これが今日の分です」
ガルドの入った袋とノートを渡す。茉莉はまず、ノートに目を通し始めた。
「……今日も個人客ばっかりだったのかい。なら、あまり期待できないねぇ 」
そう言って、次にガルドの袋を開けた 。
「三万……か。今日はこれだけもらうよ」
数えた後、幾らかを袋に戻して返してくる。
「最近、個人客ばかりであまり稼ぎがないね。……明日の朝、うちに来な。いいね?」
「……はい」
少し強めの口調で言われ、頷く。
「なら、帰っていいよ」
それを聞いて、聖月は頭を下げると外へ出た。
「……はぁ……」
(これ、幾ら残っているんだろ)
自分の家へと帰る道を歩きながら、だいぶ軽くなってしまった袋の中を覗き込む。
ざっと数えて、中に入っているのは五千ガルドくらいか。
それを見ながら、今度は食料の残りはどのくらいだったか、買わなければならないものが何かあったかを考える。
(今日もあまり貯金分は残らないなぁ )
そう思って、もう一度溜息をつく。
少し憂鬱な気分になりながらも歩いていくと、いつも利用している市場が見えてきた。
3
買い物を終え、聖月は家へと帰ってくる。
家といっても、一人で暮らすのがやっとのような小さな小屋だ。それでも一応、一通りのものは揃っていて、不自由はない。
これらは全て、身寄りのない聖月に茉莉が与えてくれたものだった。
そのことに聖月は感謝している。
だから、それ以降、茉莉に稼ぎの道具に使われ、金を取られても何も言えなかった。
何より自分の生活が多少厳しかったとしても、それが大変だと思うより、自分の力が様々な人の役に立ち、その人達が感謝の言葉と笑顔を向けてくれることを嬉しく思う気持ちの方が強かった。
簡単な食事を摂り、シャワーで汗を流した後、硬いベッドの上に身体を投げ出す。
今日は客の数がそんなに多くはなかったものの、能力を使った分の疲れはある。
(明日の朝、家に来いってことは開店前ってことだよね。早く休まなきゃ)
茉莉の言葉を思い出し、何か開店前にやることがあるのだろうと思い、目を閉じる。
眠りにつき意識が薄くなっていく中で、今は能力を使っていないのに、何処かで時空が歪んだような気がした。
「ありがとうございました。お陰で楽しい時間が過ごせました」
「また来るね、聖月お姉ちゃん」
礼を言い去っていく女性と女の子を見送り、聖月は息をついた。
「……今日はここまでかな」
呟いて、近くに置いてあるノートを手にとる。ノートには毎日訪れた客と行き先、期間、料金が記入してある。
「……やっぱり、一日に五、六件が限度。お金にして、二、三万ガルド……か。団体のお客さんがいないと、こんなもんだよね」
今日の分の記録を書き、ノートを閉じると、売上金の入った袋をしっかりと締めた。
ノートと袋を荷物の中にしまい、それまでいた店として使っている小屋を出る。
扉を閉め、《CLOSE》の札をかけると聖月は歩き始めた。
2
「……今、終わりました」
小屋を出てから数分。聖月は少し大きめの家へ入り、そう声をあげた。
「ああ。今日はどのくらい稼げたんだい?」
ソファに座り、雑誌を見ていた女性が平坦な声で問いかけてくる。
女性は茉莉という名で、聖月に仕事を与えてくれた人物で、毎日仕事終了後その日の報告をすることになっていた 。
「えっと、これが今日の分です」
ガルドの入った袋とノートを渡す。茉莉はまず、ノートに目を通し始めた。
「……今日も個人客ばっかりだったのかい。なら、あまり期待できないねぇ 」
そう言って、次にガルドの袋を開けた 。
「三万……か。今日はこれだけもらうよ」
数えた後、幾らかを袋に戻して返してくる。
「最近、個人客ばかりであまり稼ぎがないね。……明日の朝、うちに来な。いいね?」
「……はい」
少し強めの口調で言われ、頷く。
「なら、帰っていいよ」
それを聞いて、聖月は頭を下げると外へ出た。
「……はぁ……」
(これ、幾ら残っているんだろ)
自分の家へと帰る道を歩きながら、だいぶ軽くなってしまった袋の中を覗き込む。
ざっと数えて、中に入っているのは五千ガルドくらいか。
それを見ながら、今度は食料の残りはどのくらいだったか、買わなければならないものが何かあったかを考える。
(今日もあまり貯金分は残らないなぁ )
そう思って、もう一度溜息をつく。
少し憂鬱な気分になりながらも歩いていくと、いつも利用している市場が見えてきた。
3
買い物を終え、聖月は家へと帰ってくる。
家といっても、一人で暮らすのがやっとのような小さな小屋だ。それでも一応、一通りのものは揃っていて、不自由はない。
これらは全て、身寄りのない聖月に茉莉が与えてくれたものだった。
そのことに聖月は感謝している。
だから、それ以降、茉莉に稼ぎの道具に使われ、金を取られても何も言えなかった。
何より自分の生活が多少厳しかったとしても、それが大変だと思うより、自分の力が様々な人の役に立ち、その人達が感謝の言葉と笑顔を向けてくれることを嬉しく思う気持ちの方が強かった。
簡単な食事を摂り、シャワーで汗を流した後、硬いベッドの上に身体を投げ出す。
今日は客の数がそんなに多くはなかったものの、能力を使った分の疲れはある。
(明日の朝、家に来いってことは開店前ってことだよね。早く休まなきゃ)
茉莉の言葉を思い出し、何か開店前にやることがあるのだろうと思い、目を閉じる。
眠りにつき意識が薄くなっていく中で、今は能力を使っていないのに、何処かで時空が歪んだような気がした。