第2部 二つの家族の章
1
コウとリリアに城まで送ってもらうと城門のところでレイドが待っていた。
「御無事で何よりです」
ユウナとシルファの姿を見るなり、彼はそう声を掛けてくる。
その姿を見て、ユウナは無事に城へと戻って来られたのだと息をついた。
その一方でシルファはレイドへ近付くと、声を荒げた。
「リーシェはどうしてるの!?ちゃんと捕らえて、調べているんでしょうね !!?」
「はい、勿論です」
「なら、いいけど……。ちゃんと相応の罪にはするのよ!」
文句を言い続けるシルファに、ユウナも口を開こうとしたが、コウが首を横に振ったのに気付いた。
「お兄ちゃん?」
「やめておけ。リーシェというのが誰なのかはわからないが、庇うつもりなら今は黙っていた方がいい」
レイドやシルファには聞こえないくらいの小声で言われる。
「でも……」
「そうね。シルファ王女はそのリーシェという人にだいぶ腹を立てているみたいだから、今、口を挟んで庇ったりしてもレイドを困らせるだけよ」
コウと同じく小声で言うリリアに、ユウナはもう一度レイドとシルファの方を見る。
彼女はやはりレイドに対して、リーシェの処遇について厳しい対応を求めているようだった。
2
城内へと戻ったユウナとシルファは、王への報告の為、謁見の間にいた。
「よかった。無事だったのね」
二人の姿を見た王妃が安堵の声を上げる。
声には出さないものの、王やヴェルス 、ジェイス、セルフィもほっとしているように見えた。
そんな彼等を見て、まだ気が済んでいなかったらしいシルファが口を開く。
「レイドにも言いましたけど、リーシェのことちゃんと調べてもらえますよね?」
それに王は勿論だと頷く。
「軍の方には厳しく取り調べるよう通達してある」
それを聞いて、シルファは満足そうに笑ったが、ユウナはその言葉を聞いてリーシェのことが心配になった。
「あ、あの」
「なんだ?」
謁見の間を出てから、ユウナが掛けた声に前を歩いていたジェイスが振り返ってくる。
「お願いがあるんですけど……」
こんなことを頼んでもいいのかと戸惑いながらユウナが口を開くと、ヴェルスは無言のまま先を促してくる。
それを受けて、ユウナは決心するとその内容を言葉にした。
聞いたジェイスは少し顔を顰めていたが、やがて溜息をついた後で頷いた。
3
ユウナが頼んだのは、リーシェが捕らえられた牢へ行きたいというもので、数分後、彼女は牢のある地下へと来ていた。
「リーシェ」
それでも一人で会うことは許してもらえず、ついてきていたヴェルスが牢の中にいた少女に呼びかけた。
その声に反応して、中で座りこんでいたリーシェが顔を上げ、ユウナに気付いて目を見開いた。
「ユウナ様!御無事だったんですね? 」
「うん。……助けに来てくれた人がいたから」
そう答えると、リーシェはほっとしたように笑みを浮かべた。
その笑みが自分の無事を喜んでくれているものだと感じ、また、研究所に連れていかれる前に様子がおかしかったことを思い出した。
「リーシェさん、もしよかったら理由を教えてもらえませんか?」
「それなら、軍の方に……」
「……言っておくが、軍の聞き取りはなくなった。ユウナが直接話を聞きたい、それに、お前に酷いことをしないでほしいと嘆願してきてな」
ヴェルスがそう口を挟む。
「ユウナ様が、ですか?」
戸惑っている様子でリーシェが視線を向けてくる。
ユウナはその彼女から視線を逸らさないまま、サイガから渡されていた紙を取り出した。
「リーシェさん、……ユーシェルっていう人を知っていますよね」
「!?」
ユウナの言葉にリーシェが目を見開き
、息をのんだのがわかった。
「どこで……その名を?」
「知り合いの情報屋さんに調べてもらったんです。……あの研究所の人に弟さんが捕まって、脅されてたんですね 」
「……はい」
頷くとリーシェは一度目を閉じ、深く息をついてから口を開いた。
「……私の弟は、以前別の世界へ飛ばされたことがあるんです。研究所の実験に巻き込まれて、数ヶ月行方がわからなくなったんですが、運良く帰って来られた。ですが」
「研究者達に捕まった。そして、弟を実験に使わない条件が……、ユウナ達を差し出すことだったのか!」
「本当にごめんなさい!!」
苛立ち混じりのヴェルスに声にリーシェが頭を下げる。
「……研究員から研究が行えるなら誰でもいいと聞いて……」
「それで弟さんは解放されたんですか ?」
ユウナが聴くと、リーシェはバツが悪そうにしながらも頷いた。
「はい。私が捕らえられた後、解放されたらしく一度会いました。なんて馬鹿なことをしたのだと怒られてしまいましたけど」
「確かにそう言われても仕方ないだろ。お前のしたことは許されることではない」
「わかっています。どんな処分を下されても構いません」
そう答えると、リーシェは黙り込んでしまった。
4
リーシェと話をして数日後、ユウナは城門まで来ていた。
少し後ろにはレイドが控えていて、目の前には旅支度をしたリーシェが立っている。
「もう行っちゃうんですか?」
「……ええ」
僅かな時間しか共に過ごさなかったが 、それでも寂しく思って声を掛けると頷いたリーシェはちらりとレイドを見てから口を開いた。
「私がしたことは許されることではありません。本来なら、厳罰に処されても仕方ないこと。それを職を失うだけで済むこと、護衛一人つけただけのユウナ様にこうして見送っていただけること。普通ならどちらもあり得ないことなんですよ」
「見逃すのは今回だけだ。次はない」
「わかってますよ」
レイドの言葉にリーシェは苦笑いする 。
それを聞いて、レイドは溜息をつくと少し声を和らげた。
「ところで、お前の出身地はここから少し遠かったな。帰りの手配は?」
「この街のギルドに頼みました。……そろそろ約束の時間なので行きますね 」
ユウナに頭を下げてから、リーシェは足元に置いてあった荷物を持つ。
「それでは、ユウナ様。どうかお元気で」
「リーシェさんも」
もう少し話をしたかったが、ユウナはそれだけ返す。
今度は深々と頭を下げると、リーシェは行ってしまった。
コウとリリアに城まで送ってもらうと城門のところでレイドが待っていた。
「御無事で何よりです」
ユウナとシルファの姿を見るなり、彼はそう声を掛けてくる。
その姿を見て、ユウナは無事に城へと戻って来られたのだと息をついた。
その一方でシルファはレイドへ近付くと、声を荒げた。
「リーシェはどうしてるの!?ちゃんと捕らえて、調べているんでしょうね !!?」
「はい、勿論です」
「なら、いいけど……。ちゃんと相応の罪にはするのよ!」
文句を言い続けるシルファに、ユウナも口を開こうとしたが、コウが首を横に振ったのに気付いた。
「お兄ちゃん?」
「やめておけ。リーシェというのが誰なのかはわからないが、庇うつもりなら今は黙っていた方がいい」
レイドやシルファには聞こえないくらいの小声で言われる。
「でも……」
「そうね。シルファ王女はそのリーシェという人にだいぶ腹を立てているみたいだから、今、口を挟んで庇ったりしてもレイドを困らせるだけよ」
コウと同じく小声で言うリリアに、ユウナはもう一度レイドとシルファの方を見る。
彼女はやはりレイドに対して、リーシェの処遇について厳しい対応を求めているようだった。
2
城内へと戻ったユウナとシルファは、王への報告の為、謁見の間にいた。
「よかった。無事だったのね」
二人の姿を見た王妃が安堵の声を上げる。
声には出さないものの、王やヴェルス 、ジェイス、セルフィもほっとしているように見えた。
そんな彼等を見て、まだ気が済んでいなかったらしいシルファが口を開く。
「レイドにも言いましたけど、リーシェのことちゃんと調べてもらえますよね?」
それに王は勿論だと頷く。
「軍の方には厳しく取り調べるよう通達してある」
それを聞いて、シルファは満足そうに笑ったが、ユウナはその言葉を聞いてリーシェのことが心配になった。
「あ、あの」
「なんだ?」
謁見の間を出てから、ユウナが掛けた声に前を歩いていたジェイスが振り返ってくる。
「お願いがあるんですけど……」
こんなことを頼んでもいいのかと戸惑いながらユウナが口を開くと、ヴェルスは無言のまま先を促してくる。
それを受けて、ユウナは決心するとその内容を言葉にした。
聞いたジェイスは少し顔を顰めていたが、やがて溜息をついた後で頷いた。
3
ユウナが頼んだのは、リーシェが捕らえられた牢へ行きたいというもので、数分後、彼女は牢のある地下へと来ていた。
「リーシェ」
それでも一人で会うことは許してもらえず、ついてきていたヴェルスが牢の中にいた少女に呼びかけた。
その声に反応して、中で座りこんでいたリーシェが顔を上げ、ユウナに気付いて目を見開いた。
「ユウナ様!御無事だったんですね? 」
「うん。……助けに来てくれた人がいたから」
そう答えると、リーシェはほっとしたように笑みを浮かべた。
その笑みが自分の無事を喜んでくれているものだと感じ、また、研究所に連れていかれる前に様子がおかしかったことを思い出した。
「リーシェさん、もしよかったら理由を教えてもらえませんか?」
「それなら、軍の方に……」
「……言っておくが、軍の聞き取りはなくなった。ユウナが直接話を聞きたい、それに、お前に酷いことをしないでほしいと嘆願してきてな」
ヴェルスがそう口を挟む。
「ユウナ様が、ですか?」
戸惑っている様子でリーシェが視線を向けてくる。
ユウナはその彼女から視線を逸らさないまま、サイガから渡されていた紙を取り出した。
「リーシェさん、……ユーシェルっていう人を知っていますよね」
「!?」
ユウナの言葉にリーシェが目を見開き
、息をのんだのがわかった。
「どこで……その名を?」
「知り合いの情報屋さんに調べてもらったんです。……あの研究所の人に弟さんが捕まって、脅されてたんですね 」
「……はい」
頷くとリーシェは一度目を閉じ、深く息をついてから口を開いた。
「……私の弟は、以前別の世界へ飛ばされたことがあるんです。研究所の実験に巻き込まれて、数ヶ月行方がわからなくなったんですが、運良く帰って来られた。ですが」
「研究者達に捕まった。そして、弟を実験に使わない条件が……、ユウナ達を差し出すことだったのか!」
「本当にごめんなさい!!」
苛立ち混じりのヴェルスに声にリーシェが頭を下げる。
「……研究員から研究が行えるなら誰でもいいと聞いて……」
「それで弟さんは解放されたんですか ?」
ユウナが聴くと、リーシェはバツが悪そうにしながらも頷いた。
「はい。私が捕らえられた後、解放されたらしく一度会いました。なんて馬鹿なことをしたのだと怒られてしまいましたけど」
「確かにそう言われても仕方ないだろ。お前のしたことは許されることではない」
「わかっています。どんな処分を下されても構いません」
そう答えると、リーシェは黙り込んでしまった。
4
リーシェと話をして数日後、ユウナは城門まで来ていた。
少し後ろにはレイドが控えていて、目の前には旅支度をしたリーシェが立っている。
「もう行っちゃうんですか?」
「……ええ」
僅かな時間しか共に過ごさなかったが 、それでも寂しく思って声を掛けると頷いたリーシェはちらりとレイドを見てから口を開いた。
「私がしたことは許されることではありません。本来なら、厳罰に処されても仕方ないこと。それを職を失うだけで済むこと、護衛一人つけただけのユウナ様にこうして見送っていただけること。普通ならどちらもあり得ないことなんですよ」
「見逃すのは今回だけだ。次はない」
「わかってますよ」
レイドの言葉にリーシェは苦笑いする 。
それを聞いて、レイドは溜息をつくと少し声を和らげた。
「ところで、お前の出身地はここから少し遠かったな。帰りの手配は?」
「この街のギルドに頼みました。……そろそろ約束の時間なので行きますね 」
ユウナに頭を下げてから、リーシェは足元に置いてあった荷物を持つ。
「それでは、ユウナ様。どうかお元気で」
「リーシェさんも」
もう少し話をしたかったが、ユウナはそれだけ返す。
今度は深々と頭を下げると、リーシェは行ってしまった。
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