第2部 二つの家族の章
1
朝まではまだ時間があるからともう一度眠りについてから数時間、目を覚ましたユウナが部屋を出ると、すぐ横の壁に寄りかかっているレイドの姿があった。
「おはようございます」
「おはよう……って、もしかしてあれからずっと此処に?」
挨拶してくる姿が夜中助けてくれた時と全く変わっていないのを見て、そう問い掛ける。
「はい。失敗した直後なので、ないとは思いましたが念の為」
見張っていたというレイドに申し訳なく思う。
思わず俯いていると、彼は溜息をついて人目を気にするように辺りを見回すような仕草をした。
誰の気配もないことを確認できたのか 、次に口を開いたレイドからは敬語がとれていた。
「気にするな。これも仕事だ。それに 」
「それに?」
「コウからも頼まれているからな」
「お兄ちゃんに!?いつ、会ったの! ?」
レイドの口から出てきた名にそう返すと、彼は苦笑した。
「直接は会ってない。俺もフィアやサイガから聞いたんだ。今は無事退院してギルドの仕事に戻ってるってな」
「……よかった」
それを聞いてほっと息をつく。
最後に会った時には意識が戻っていなかった為、安心した。
「……会いたいか?」
「……うん」
問い掛けられて頷く。
まして意識が戻ったと聞いた後だ。
話をする時間が欲しいと思う。
「……まぁ、此処に連れてきたタイミングもあまりいいとはいえなかったしな。仕方ないか」
「駄目とは言わないんだ」
「言えないさ」
言って、レイドは肩を竦める。
そこで誰か別の気配を感じとったのか 、彼の気配が今まで話していた時の気安いものから、一兵士としてのものへと変化する。
「では、俺はこれで失礼します」
立ち去っていくレイドと入れ違いで現れたのはリーシェだった。
2
「おはようございます、ユウナ様。お待たせして申し訳ありません」
来てすぐそう声を掛けてきたリーシェに、ユウナは首を横に振った。
「ううん。私が早く目が覚めただけだから」
「そうですか。では、行きましょうか 」
リーシェに促され歩き出す。
彼女と一緒に朝食の準備が出来ている食堂へと来ると、そこにはまだシルファの姿しかなかった。
彼女と視線が合うと、一瞬目を見開いた後、不快そうに顔を顰めた。
リーシェが離れていくのを見て、近付いてくる。
「元気そうね。昨夜、何もなかったのかしら?」
小声で言ってくるシルファに、暗殺者の協力者が彼女だと言ったレイドの言葉を思い出す。
まだヴェルス達が来ないのを確認してから、ユウナは口を開いた。
「あの……、どうして、私を?」
「……邪魔だからよ」
「えっ?」
目を見開いたユウナをシルファはキッと睨み付けてくる。
「この間のお兄様の話、納得いかなかったから情報屋に調べてもらったの。そしたら、その情報屋は前にもお兄様の依頼であなたのことを調べていたみたいね。お陰で知りたくないことも知ったわ。……あなたが本当のシルファだってね」
「!!」
「お兄様達が何故今も私を城においているのかはわからない。でも、あなたがいたらいずれ私は此処から追い出される。そうなったら、私は何処へ行けばいいの!?」
「それは……」
その答えをユウナは知っている。それでも言いたくない。
そう思っていると、食堂の入り口からヴェルスとジェイスが入ってくるのが見えた。
「おはようございます、ジェイスお兄様、ヴェルスお兄様」
さっとユウナから離れ、にこやかに挨拶するシルファを二人は一瞥してすぐに視線を外す。
そして、ユウナの方へ近付いてきた。
「おはよう、ユウナ」
「よく眠れたか?」
「は、はい」
普通に声を掛けてくる二人に、まだレイドから報告は入っていないのかと思う。
だが、去っていこうとした時、ジェイスが小声で話しかけてくる。
「食事が終わったら、王が呼んでいる 。王の部屋へ行くぞ」
そう言って、彼は離れていった。
3
朝食を摂り終えるとヴェルスとジェイスが再び声を掛けてきて、彼等と共に王の部屋へ来ると、そこには王妃とセルフィの姿もあった。
「座りなさい」
王に声を掛けられ、示されたソファへと座ると、横にヴェルスとジェイスも腰を下ろす。
対面するソファへ王と王妃、セルフィが座ったところで、王が口を開いた。
「今朝、レイドから報告があったが昨夜、暗殺者に襲われたというのは本当か?」
その言葉に両隣に座るヴェルスやジェイスからも視線を感じる。
ユウナを連れてきたのは彼等だが、その理由は聞いていなかったのかと思いつつ、ユウナは頷いた。
「はい」
「レイドの話だと今回で二度目だということだったが」
そう言われ、レイドが前回のことも報告していることを知って頷く。
「……襲ってきたのは暗殺組織の者だったそうだな。同じ人物か?」
「……はい」
王が顎に手を当てるのを見て、王妃とヴェルスが口を挟む。
「あなた、やはり護衛をつけた方がいいのでは……」
「俺もそう思います。力の質はあるとはいえ、ユウナはまだ力を使いこなせません」
「……ふむ、そうだな」
呟いて、王はユウナを見た。
「漸く再開できた娘だ。失いたくはない。確かに護衛はつけるべきだろうな 」
「では、今すぐ兵達から……」
「待て、ジェイス」
動こうとしたジェイスを王が止める。
「護衛なら既にレイドに頼んである。お前もその方がいいだろう、ユウナ」
「ですが、父上。一人だけでは……」
「勿論、他の兵もつける。ただ専属にするのは彼だ」
「それでも、城から出る場合は……」
「その時はギルドの者に頼む。表向きの理由ともその方が辻褄も合うだろう 。それに、ユウナが今までギルドに保護されていたのは事実。……その時の依頼の延長という形にする」
王がそう言うと、ヴェルスとジェイスはまだ何か言いたそうにはしていたが黙ってしまった。
「護衛をギルドに頼むのはいいですけれど……、もう決まっているの?」
「それはまだだが、既に依頼は出した 。明日には担当する者が挨拶にくるだろう」
王と王妃が話しているのを聞きながら 、ユウナはギルドで過ごしていた時のことを思い出す。
明日になるまでは誰が担当になるのかはわからないと言われたが、少しは期待してもいいだろうか。
そう思いながらも明日が来るのが楽しみだった。