第1部 再会と出会いの章
1
「ん……」
兄であるコウと再会した日から数日、ユウナが目を覚ましたのはまだ朝早い時間だった。
まだぼんやりとしながらもベッドから起き上がり、ユウナは部屋の中を見回す。
今までコウが一人で生活していた家にはベッドが一つしかなく、それをユウナに譲ってくれた為、彼はソファーで眠っている筈だった。
だが、今、彼の姿はない。
「コウお兄ちゃん? 」
こんなに朝早く何処へ行ったのだろうと思いつつ部屋を出る。
家と使っているのは小屋だった為、寝室として使っている部屋を出てしまえば後はもう一部屋しかない。
それなのに、そこにもいないのを見てユウナは立ち竦んだ。
思い出すのは五年前。
自分だけがいなかったーー両親が働いていた研究所に行かなかった【あの日】のこと。
(また……、またあの時みたいに…… )
そう思っていると、外から金属の弾き合う音が聞こえてきた。
「この音って……」
呟いて、恐る恐る外へ出る扉の横にある窓から外を覗く。
見えたのは此方に背を向け、両手の剣を振るうコウと、彼を狙っているのか大剣を振るう長身の男だった。
「お兄ちゃん! 」
思わず外へ飛び出したユウナに、僅かにコウが気を取られる。
それを好機と思ったのか、長身の男は最上段から大剣を振り下ろした。
「っ!! 」
二本の剣を交差させ、大剣を受け止めたコウがユウナへ向けて叫んでくる。
「入ってろ! 」
「で、でも……」
外へ出てみて、コウが斬ったのだろう魔物が地面に倒れているのに気付いた 。
一匹や二匹ではない。
そして、兄が今、相手をしているのは人だ。
仮面で顔を隠してはいるが、人なのは確かだ。
「っ……、ユウナ!! 」
先程より強い口調で名を呼ばれ、肩を跳ね上げた。
「中にいろ!俺が良いと言うまで外へ出るなっ! 」
「っ……! 」
それに今度こそ、ユウナは踵を返した 。
家の中に入り、寝室になっている奥の部屋へと駆け込むと床へと座り込んだ 。
「あ……」
震え出す身体を両腕で抱くようにするが、なかなか震えが止まらない。
(今の何……?この世界って……)
コウと再会した日、彼はユウナは捕まえていた生物を斬ったと言った。
そして、この世界で生きるのに戦う力が必要で武器を手にしたとも。
(怖い、怖いよ……)
心の中で呟いて、ぎゅっと目を閉じる 。
それからどの位の時間が経ったのか、隣の部屋から扉が開閉する音が聞こえてきた。
我に返ったユウナが寝室から出て行くと、コウは戻ってきていた。
「お兄ちゃん! 」
その姿を見てユウナは駆け寄ると、彼の身体を一通り見て、怪我がないのを確認する。
「大丈夫?怪我してない? 」
「……ああ」
頷きつつ、ベルトから剣を外したコウは小さく欠伸をする。
「悪い。少し休んでいいか?腹も減ってはいるけど、変な時間に起こされたからまだ眠いし、疲れた」
「うん。私はもう起きるから朝食は私が準備するよ。出来たら起こしにいくね」
「ああ、頼む」
そう言ってコウは寝室へ入っていく。
それを見送ってから、ユウナは時計を見ていつもよりはまだ早い時間なのを確認する。
そんなに急いで準備しなくてもいいだろうと判断してゆっくり作ることにした。
2
「それで俺に聞きたいことがあるんじゃないか? 」
あれから一時間位して、コウを起こし共に朝食を摂った後、彼はそう口を開いた。
「うん。……あの仮面をつけた人のこと」
「あいつか。……正直、正体を知りたいっていうなら俺にも答えられない。素顔は見たことないからな。……彼奴が現れるようになったのは二年前、ヴァイツがいなくなってからだ。一ヶ月に一回はああして襲ってくる」
「じゃあ、今までも戦ってたの? 」
「死ぬつもりはないからな。襲ってくるなら、戦って身を守るしかない」
そう言って、コウは溜息をついた。
「まぁ、これからは余計に負ける訳にはいかなくなったけどな」
それは自分が現れたからだと思ってユウナは俯いた。
(怖いけど……、でも、私も……)
そう思ってユウナは口を開こうとして 、何を言おうとしているのかわかったのだろうか、コウがユウナの額を弾いてきた。
「痛っ! 」
その場所をおさえて視線を向けると、コウは真剣な表情をしていた。
「お前には……多分無理だ。俺が教えるにしても、教えられるのは剣だけだしな」
「私はそれでも……」
「無理だ。すぐに実戦で使えるものでもない」
「…………」
「焦らなくていい。それで自分に合った方法を見つけてもいいし、見つからなくてもいい。お前一人くらい俺が守ってやる」
そこまで言って、コウは表情を和らげた。
「ヴァイツも守るものがある方が強くなれるみたいなことを言ってたしな」
その言葉にユウナは五年振りに会ったコウが自分を大切に思ってくれていると知り、嬉しくなるのと同時に少しの寂しさも感じた。
「ん……」
兄であるコウと再会した日から数日、ユウナが目を覚ましたのはまだ朝早い時間だった。
まだぼんやりとしながらもベッドから起き上がり、ユウナは部屋の中を見回す。
今までコウが一人で生活していた家にはベッドが一つしかなく、それをユウナに譲ってくれた為、彼はソファーで眠っている筈だった。
だが、今、彼の姿はない。
「コウお兄ちゃん? 」
こんなに朝早く何処へ行ったのだろうと思いつつ部屋を出る。
家と使っているのは小屋だった為、寝室として使っている部屋を出てしまえば後はもう一部屋しかない。
それなのに、そこにもいないのを見てユウナは立ち竦んだ。
思い出すのは五年前。
自分だけがいなかったーー両親が働いていた研究所に行かなかった【あの日】のこと。
(また……、またあの時みたいに…… )
そう思っていると、外から金属の弾き合う音が聞こえてきた。
「この音って……」
呟いて、恐る恐る外へ出る扉の横にある窓から外を覗く。
見えたのは此方に背を向け、両手の剣を振るうコウと、彼を狙っているのか大剣を振るう長身の男だった。
「お兄ちゃん! 」
思わず外へ飛び出したユウナに、僅かにコウが気を取られる。
それを好機と思ったのか、長身の男は最上段から大剣を振り下ろした。
「っ!! 」
二本の剣を交差させ、大剣を受け止めたコウがユウナへ向けて叫んでくる。
「入ってろ! 」
「で、でも……」
外へ出てみて、コウが斬ったのだろう魔物が地面に倒れているのに気付いた 。
一匹や二匹ではない。
そして、兄が今、相手をしているのは人だ。
仮面で顔を隠してはいるが、人なのは確かだ。
「っ……、ユウナ!! 」
先程より強い口調で名を呼ばれ、肩を跳ね上げた。
「中にいろ!俺が良いと言うまで外へ出るなっ! 」
「っ……! 」
それに今度こそ、ユウナは踵を返した 。
家の中に入り、寝室になっている奥の部屋へと駆け込むと床へと座り込んだ 。
「あ……」
震え出す身体を両腕で抱くようにするが、なかなか震えが止まらない。
(今の何……?この世界って……)
コウと再会した日、彼はユウナは捕まえていた生物を斬ったと言った。
そして、この世界で生きるのに戦う力が必要で武器を手にしたとも。
(怖い、怖いよ……)
心の中で呟いて、ぎゅっと目を閉じる 。
それからどの位の時間が経ったのか、隣の部屋から扉が開閉する音が聞こえてきた。
我に返ったユウナが寝室から出て行くと、コウは戻ってきていた。
「お兄ちゃん! 」
その姿を見てユウナは駆け寄ると、彼の身体を一通り見て、怪我がないのを確認する。
「大丈夫?怪我してない? 」
「……ああ」
頷きつつ、ベルトから剣を外したコウは小さく欠伸をする。
「悪い。少し休んでいいか?腹も減ってはいるけど、変な時間に起こされたからまだ眠いし、疲れた」
「うん。私はもう起きるから朝食は私が準備するよ。出来たら起こしにいくね」
「ああ、頼む」
そう言ってコウは寝室へ入っていく。
それを見送ってから、ユウナは時計を見ていつもよりはまだ早い時間なのを確認する。
そんなに急いで準備しなくてもいいだろうと判断してゆっくり作ることにした。
2
「それで俺に聞きたいことがあるんじゃないか? 」
あれから一時間位して、コウを起こし共に朝食を摂った後、彼はそう口を開いた。
「うん。……あの仮面をつけた人のこと」
「あいつか。……正直、正体を知りたいっていうなら俺にも答えられない。素顔は見たことないからな。……彼奴が現れるようになったのは二年前、ヴァイツがいなくなってからだ。一ヶ月に一回はああして襲ってくる」
「じゃあ、今までも戦ってたの? 」
「死ぬつもりはないからな。襲ってくるなら、戦って身を守るしかない」
そう言って、コウは溜息をついた。
「まぁ、これからは余計に負ける訳にはいかなくなったけどな」
それは自分が現れたからだと思ってユウナは俯いた。
(怖いけど……、でも、私も……)
そう思ってユウナは口を開こうとして 、何を言おうとしているのかわかったのだろうか、コウがユウナの額を弾いてきた。
「痛っ! 」
その場所をおさえて視線を向けると、コウは真剣な表情をしていた。
「お前には……多分無理だ。俺が教えるにしても、教えられるのは剣だけだしな」
「私はそれでも……」
「無理だ。すぐに実戦で使えるものでもない」
「…………」
「焦らなくていい。それで自分に合った方法を見つけてもいいし、見つからなくてもいい。お前一人くらい俺が守ってやる」
そこまで言って、コウは表情を和らげた。
「ヴァイツも守るものがある方が強くなれるみたいなことを言ってたしな」
その言葉にユウナは五年振りに会ったコウが自分を大切に思ってくれていると知り、嬉しくなるのと同時に少しの寂しさも感じた。