第1部 再会と出会いの章
1
コウと共に新しい家で暮らし始めて一週間、ユウナは庭に植えた植物の世話をしていた。
庭にはユウナが気に入った花は勿論、この世界の本で見て知った幾つかの薬草も植えてある。
(怪我に効く薬草とか、お兄ちゃんの役に立つよね)
今日もまたギルドで受けた依頼の為出掛けているコウを思い出し、内心で呟き、世話を続けていると庭の外から少女の声が聞こえてきた。
「すみません」
その声を何処かで聞いたことのあるものだと思いつつ、それが誰かまでは思いつかないまま声の主の元へ行く。
「あら?あなた……」
「あ……」
そこにいたのは図書館で一度だけあったことのあるローブ姿の少女だった。
「えっと、確か図書館で会った……」
「ティオラよ。ティオラ・フィレンツェ。あの時はありがとうね」
「わ、私はユウナ・クヴェイルです」
名乗られた為、名乗り返すと彼女はくすりと笑い、ユウナの後ろを見た。
「此処に住んでるの? 」
「はい。といっても、つい一週間前からですけど」
「一人? 」
それにユウナは首を横に振った。
「兄と一緒です。ずっと離れてたけど 、やっと一緒に暮らせるようになって ……」
「……そう」
笑みを浮かべたユウナに対し、ティオラは何故か表情を曇らせた。
「ティオラさん?どうかしたんですか ? 」
「えっ?……いえ、何でもないわ。それより……」
そう言って、懐から何かを取り出す。
「ちょっとこれに触ってみて」
「?こうですか? 」
ティオラが取り出したのはこの間、図書館で拾って渡したものより大きな水晶だった。
言われたとおりに水晶に触れると、透明だったそれは様々な光りを放った。
「これって……? 」
「やっぱり……」
何なのかを聞こうとしたユウナと、何かを確信したようなティオラの声が重なる。
「ユウナ、あなたは……」
「ユウナ」
ティオラが何か言おうとしたが、その時、帰ってきたらしいコウの声がした 。
「あ、お兄ちゃん!早かったね。もう終わったの? 」
「ああ。今日のは大した仕事じゃなかったからな。ところで……」
そこまで言って、コウはティオラへと視線を移す。
彼女の姿を見たコウは、顔を歪めるとティオラのことを警戒したのか、ユウナを庇うように立ち位置を変えた。
「お兄ちゃん? 」
それを不思議に思って声を掛けたが、彼は何も返してこない。
口を開いたのは諦めたように笑い、息をついたティオラだった。
「まだ話したいこともあったのだけど 、出直した方がよさそうね」
そう言って、ティオラはユウナが止める間もなく、踵を返していってしまった。
2
「あいつと何処で会った? 」
ティオラが帰っていってから、振り返ったコウにそう問い掛けられる。
「図書館だよ。あの人が落としたものを私が拾ったの」
答えると、彼は舌打ちした。
「ちっ。よりによって、すぐに家がばれるなんて」
「……何か、まずかった? 」
図書館でのことも、此処でのことも偶然なのだが、コウの態度から不安を覚える。
それがわかったのか、取り繕うように彼は口を開いた。
「いや。ただあいつが悪い奴ってことじゃない。ただ」
「ただ?」
「……あいつは王族直属の魔法部隊に所属している。そんな奴がお前に接触する理由がわからないからな」
だから、警戒するのだと言うコウに、ユウナは首を傾げた。
「王族直属の魔法部隊?でも、前にリリアさんが術を使えるのは王族だけって……」
「基本はそうだ。だが、此処、リアフィースの歴史は古い。昔からの婚姻等で貴族達の中には、その王族の血が混じった者達もいる。……魔法部隊はそういう者達で出来ているんだ」
「そうなんだ。でも、どうしてそんな人が私に話なんかあるんだろう」
「さあな。とにかく、ユウナ。明日からは俺とギルドへ行くぞ。終わるまでそこで待ってろ」
「う、うん」
真剣な表情で言ったコウにユウナは頷いた。
コウと共に新しい家で暮らし始めて一週間、ユウナは庭に植えた植物の世話をしていた。
庭にはユウナが気に入った花は勿論、この世界の本で見て知った幾つかの薬草も植えてある。
(怪我に効く薬草とか、お兄ちゃんの役に立つよね)
今日もまたギルドで受けた依頼の為出掛けているコウを思い出し、内心で呟き、世話を続けていると庭の外から少女の声が聞こえてきた。
「すみません」
その声を何処かで聞いたことのあるものだと思いつつ、それが誰かまでは思いつかないまま声の主の元へ行く。
「あら?あなた……」
「あ……」
そこにいたのは図書館で一度だけあったことのあるローブ姿の少女だった。
「えっと、確か図書館で会った……」
「ティオラよ。ティオラ・フィレンツェ。あの時はありがとうね」
「わ、私はユウナ・クヴェイルです」
名乗られた為、名乗り返すと彼女はくすりと笑い、ユウナの後ろを見た。
「此処に住んでるの? 」
「はい。といっても、つい一週間前からですけど」
「一人? 」
それにユウナは首を横に振った。
「兄と一緒です。ずっと離れてたけど 、やっと一緒に暮らせるようになって ……」
「……そう」
笑みを浮かべたユウナに対し、ティオラは何故か表情を曇らせた。
「ティオラさん?どうかしたんですか ? 」
「えっ?……いえ、何でもないわ。それより……」
そう言って、懐から何かを取り出す。
「ちょっとこれに触ってみて」
「?こうですか? 」
ティオラが取り出したのはこの間、図書館で拾って渡したものより大きな水晶だった。
言われたとおりに水晶に触れると、透明だったそれは様々な光りを放った。
「これって……? 」
「やっぱり……」
何なのかを聞こうとしたユウナと、何かを確信したようなティオラの声が重なる。
「ユウナ、あなたは……」
「ユウナ」
ティオラが何か言おうとしたが、その時、帰ってきたらしいコウの声がした 。
「あ、お兄ちゃん!早かったね。もう終わったの? 」
「ああ。今日のは大した仕事じゃなかったからな。ところで……」
そこまで言って、コウはティオラへと視線を移す。
彼女の姿を見たコウは、顔を歪めるとティオラのことを警戒したのか、ユウナを庇うように立ち位置を変えた。
「お兄ちゃん? 」
それを不思議に思って声を掛けたが、彼は何も返してこない。
口を開いたのは諦めたように笑い、息をついたティオラだった。
「まだ話したいこともあったのだけど 、出直した方がよさそうね」
そう言って、ティオラはユウナが止める間もなく、踵を返していってしまった。
2
「あいつと何処で会った? 」
ティオラが帰っていってから、振り返ったコウにそう問い掛けられる。
「図書館だよ。あの人が落としたものを私が拾ったの」
答えると、彼は舌打ちした。
「ちっ。よりによって、すぐに家がばれるなんて」
「……何か、まずかった? 」
図書館でのことも、此処でのことも偶然なのだが、コウの態度から不安を覚える。
それがわかったのか、取り繕うように彼は口を開いた。
「いや。ただあいつが悪い奴ってことじゃない。ただ」
「ただ?」
「……あいつは王族直属の魔法部隊に所属している。そんな奴がお前に接触する理由がわからないからな」
だから、警戒するのだと言うコウに、ユウナは首を傾げた。
「王族直属の魔法部隊?でも、前にリリアさんが術を使えるのは王族だけって……」
「基本はそうだ。だが、此処、リアフィースの歴史は古い。昔からの婚姻等で貴族達の中には、その王族の血が混じった者達もいる。……魔法部隊はそういう者達で出来ているんだ」
「そうなんだ。でも、どうしてそんな人が私に話なんかあるんだろう」
「さあな。とにかく、ユウナ。明日からは俺とギルドへ行くぞ。終わるまでそこで待ってろ」
「う、うん」
真剣な表情で言ったコウにユウナは頷いた。