1
（ううっ、折角逃げてきたのに……、今度はこっちから向かうなんて）
先をどんどん行ってしまう封魔を追いながら、舞は肩を落とす。
（倒さないと出られない以上、逃げていたら何時になっても脱出出来ないんだけど……）
気が進まなくて溜息も出る。
「……ねぇ、風夜達は三人だけで此処に来たの？ 」
「いや、龍牙達も来てる。ただお前達と違う所から気配を感じたから、別れたんだよ」
「……だったら、先に合流した方がいいんじゃない？ 」
花音と風夜の会話を聞いて、舞は先を行く封魔に声を掛けた。
「……いや、このまま行く。合流しなければ、向こうが出られなくなるっていうこともないんだろ」
「……それもそうだけど……」
封魔にあっさりとそう返されて、舞は再び肩を落とした。
「何だ？さっきからあまり気が進んでないみたいだな」
「だって……」
声を掛けてきた飛影にそう呟く。
（……あれを見た後じゃ、色々な意味で無理だって）
そんなことを思っていると、前を歩いていた封魔が足を止める。
「……彼奴か」
そう呟いたのが聞こえ、視線を向けるとその先に過去の封魔の姿があった。
2
（って、来ちゃったよ！）
心の中で舞が呟いていると、封魔が振り返る。
「……お前達は此処にいろ」
言われた言葉に舞は思わずきょとんとしてしまった。
「此処にいろって、どうするつもりだよ？ 」
問い掛けた飛影に答える前に、封魔は前方にいるもう一人の自分を見る。
「……彼奴は俺がやる。……手は出すな」
「おい！ 」
言うなり地を蹴った封魔に、飛影が声を上げたが、彼は行ってしまった。
「ったく、一人で行ってどうするんだ ？ 」
「……追いかけよう」
気は進まなかったが、過去の封魔の異常さは知っている為一人では拙いのではないかと思って、飛影と追いかけようとする。
だが、それは風夜が手で制止してきて止めらてしまった。
「まぁ、待てよ」
「何で止めるの？ 」
問い掛ける舞に、風夜は一度封魔の方へ視線をやってから口を開いた。
「いいから。一人でやるっていうならやらせておけ。……過去に決着をつけたいんだろ。……自分自身と戦うっていうのも、そう悪いものじゃないと思うぜ」
「……それって、経験談？風夜と風牙の時とはまた少し事情が違う気がするんだけど……」
「……それでも、彼奴には必要なことなんだろ」
花音にそう返した風夜は完全に静観するつもりのようで、舞は飛影と顔を見合わせる。
その時、何かが飛んできて地へと落ちた。
「？ 」
見ると、其処には封魔がつけていた筈の腕輪がある。
「これって……」
舞がそれを拾いあげるのと同時に、封魔の力が跳ね上がったのを感じた。
3
それからどのくらいの時間が経ったのか、舞達がいた空間が大きく揺れ始める。
「な、何？ 」
それに舞が小さく呟いたのと同時に、辺りが光に包まれ何かが壊れる音がする。
気が付いた時には舞達は街の外なのだろう平野にいて、途中で逸れていた綾達や彼女達を探しに行っていた龍牙達の姿も近くにあった。
「……出られたの？ 」
「……出る方法について、嘘はつかれてなかったみたいだな」
花音と神蘭の声を聞いていると、近くに来ていた風夜が手を出してきて、短く
「貸せ」
と言ってくる。
一瞬何のことかわからなかったが、封魔の腕輪を持ったままだったことに気付いてそれを渡す。
受け取った風夜はすぐにそれを封魔へと投げ渡した。
それを受け取った封魔は腕にはめ直して溜息をつく。
「……逃げられたみたいだな」
「……まぁ、出るまでに時間が掛かったからな。仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが」
「またいつか仕掛けてくることを考えたら、仕留めておきたかったな」
そんなことを言っている封魔、風夜、飛影の言葉を聞いている限り、やはり彼等を送ってきたのも自分達を飛ばした女なのだろう。
（何だか最近、厄介な能力を持っている魔神族ばかり現れてるなぁ。……戻ったら、皆と対応策を考えた方がいいかも）
最近の敵を思い出し、舞はそう思った 。