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第15章

1
「……何とか逃げてきたけど……」
「……綾ちゃん達と離れちゃったね」
そう話しながら、舞と花音は物陰から辺りの様子を伺う。
「全員が同じ方向へ逃げるよりは時間を稼げるんだろうけど、どうすればいいんだろう? 」
舞は振り返って、自分達より奥を見る 。
そこでは神蘭と楓が座り込んでいる。
その様子を見ながら、舞は少し前のことを思い出していた。
『うっ……! 』
吹っ飛ばされた痛みに呻きながら、舞は顔を上げて自分達を攻撃した相手を見る。
そこには今まで過去の映像として見ていた封魔が立っている。
『ふふ、彼が此処を出る為の鍵よ。倒さなければ、この空間から出ることは出来ない。但し、……実力はあなた達が見ていた時のままだから、気をつけないとあなた達の方が危ないかもね 』
そう言って、麗玲は笑う。
『さぁ、やりなさい』
その声に動いた封魔は、見ていた映像の時と同じ自我のない人形のようで、それを見て動けなくなっていた神蘭と楓を連れて、舞と花音は何とか逃げてきたのだった。
「神蘭さん、楓さん、大丈夫ですか? 」
舞が思い出している間に、花音が座り込んでいる二人に声を掛ける。
「……ああ。……大丈夫。……でも、もう少し待ってくれないか」
神蘭はそう返してきたが、その声は弱々しい。
「……また、あの頃の姿を見るとは思わなかった。此処から出る為とはいえ ……もう一度封魔を……」
そこからの言葉は続かなかったが、予想はついた。
(本当にどうすればいいんだろう? )
もう一度そう思った時、何かが聞こえた気がして舞は再び物陰から顔を出す 。
そこへ、白い何かがぶつかってきて舞は尻餅をついた。
「な、何……? 」
「ピイイイイ! 」
戸惑いの声を上げる舞から、白いものが鳴きながら離れていく。
「白亜!? 」
そのすぐ後、花音の驚く声がして見れば、彼女に小さな白い竜が飛び付いていた。
「どうして白亜が此処に? 」
花音が呟くと白亜は今思い出したかのように、何かを呼ぶように鳴き出す。
「ピイ!ピイイイイ! 」
「ちょっ、ちょっと静かにして!見つかっちゃう! 」
「誰に見つかりたくないんだ? 」
その声と共に現れた人物に舞達は身構えた。
「…………」
顔を見せたのは封魔で緊張が走る。
舞達が身構えていることに、封魔も眉を顰める。
そのまま睨み合いのような状況になっていたが、その時、封魔の背後から吹き出すような音が聞こえた。
「…………くくっ、何で身構えられているんだよ? 」
「…………というか、何故こんなところに隠れてるんだ? 」
言いながら後ろから現れた風夜と飛影の姿を見て、漸く今目の前にいるのは〈今〉の封魔だと理解できた。
2
「それで、こんな所に隠れていたのか 」
舞達の話を聞いて、風夜が溜息をつく 。
「だが、逃げているだけじゃ、いつになっても此処から出られないんだろ? 」
「それはそうなんだけど……」
そう言いながら、舞は神蘭と楓を見る 。
その視線で言いたいことがわかったのか、封魔は溜息をついて踵を返す。
「おい、何処行くんだ? 」
「……決まってるだろ?……過去の俺の所だ」
「ちょっと待って! 」
舞が呼び止めると、封魔は視線だけを寄越してきた。
「何だ? 」
「……少し聞いておきたいんだけど、私達が見せられていた光景って……、全部本当なの? 」
話の中で何を見せられていたのかは話してある。
それが何処まで本当なのか、確かめておきたかった。
そんな思いもあって問い掛けたのだが 、返ってきたのは肯定だった。
「……お前達が見た事を全部話していたとしたら、否定するところはないな 」
「……上層部や神帝が下していた命とかも、全部本当なの? 」
「それに麗玲の言ってた魔神族のことも? 」
「……俺も星蓮に聞いた事くらいしか知らないが、……まぁ本当だろうな。……前神帝も前々神帝も……、表向きはともかく裏ではそういう人だったってことだ」
「……それでそんな目にあいながらもお前は今だに従っていたって訳か」
そこで飛影が口を挟む。それに封魔は肩を竦めた。
「……従っていたつもりはない。……もう〈人形〉は御免だしな。俺が動いていたのは、あくまでも俺自身の目的の為だ。……俺にはもう神界への忠誠はあってないようなものだしな」
その言葉に無理はないだろうと思った 。
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