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第15章

1
研究所に連れていかれた後なのだろう 、封魔の意識は戻っていないのか、それとも薬か何かで眠らされているのか 、ぐったりとしている。
その周りには何人かの研究員がいて、何かを待っているようだった。
そこへ一人の男が駆け込んでくる。
「神帝の許可が下りました。上層部も実験を行うよう通達を」
「よし!では、始める」
「今度こそ、成功しますかね? 」
「するさ。というより、これで成功しなければ、我々もまずい。……だが、心配はない。何せ今回は闘神様だ。今までの連中とは体力も精神力も違う。……一度や二度、調整をしたってそう簡単には壊れまいよ」
「なら、心配ないですね。……ですが 、神帝も総長も闘神が一人になってしまったというのに、よく許可をくれましたね」
「馬鹿だな。一人になったからこそだ 。……ほら、お喋りは此処までだ」
その声と共に真っ暗になり、何も見えなくなった。
次に見えた時には封魔は起き上がっていたが、その表情は無機質ものになっていた。
台の上に座り、身動きしない。
そこへ一人の研究員と男が入ってくる 。
「……!?あの人、お父様の補佐だわ ! 」
男を見た聖姫が言う。
「……実験は成功したんだろうな? 」
「勿論ですとも。……ですが、まだテストはしていないから、迂闊に近付かないでくださいよ」
「わかっている。しかし、本当に大丈夫なんだろうな」
「では、試してみましょうか。……おい、ついてこい」
その言葉に封魔がふらりと立ち上がる 。何処に行こうとしているのかはわからなかったが、舞達も着いていくことにした。
2
「……此処って、広場? 」
「っていうより、実験場じゃない?試すって言ってたし」
花音と綾の声を聞きながら、舞はその中央に立つ封魔を見る。
彼を連れてきた研究員と補佐の男はその場所を見下ろす位置にいる。
「では、始めるぞ」
その言葉と共に、封魔を囲うように数人が現れる。
彼等もまた自我を感じない。
「やれ! 」
「!駄目だ!見るな! 」
「見ちゃ、駄目! 」
研究員の言葉と共に、神蘭と鈴麗が叫ぶ。
それと同時に、囲んでいた者達が飛び掛かる。
だが、彼等は封魔が腕を一振りしただけで消し飛ばされていた。
(!! )
その時、見えた封魔の表情に思わず身体が震える。
彼は先程まで無表情だったが、今は楽し気な笑みを浮かべていた。
「ほら、次だ」
研究員の声と共に、今度は先程より多い人数が現れる。
今度は其々どこかしらを斬りつけられて地に倒れこんでいく。
正直、見ていて気分のいいものではなかった為、場面が切り替わる感覚にホッとした。
3
次に見えた光景では、封魔と総長、副総長が向き合っていた。
何を話しているのかはわからないが、封魔の様子が先程までとは違う気がする。
少しすると話が終わったのか、封魔が去っていき、それを見送った総長が舌打ちするのがわかった。
「ちっ!神子共が余計なことを」
「軍の方でも時期闘神を決めるような流れになってきてる。……神子も本格的に動くのは時間の問題。……少し早いかもしれないけど、動いた方がいいかもしれないわ」
「……なら、麗玲様には伝えておこう 。……それと」
そう言い、総長は封魔の去っていった方を見る。
「……神界側に完全に取り戻される前にもうひと働きしてもらうぞ、封魔」
そう呟いて、総長はある方向へ歩き出す。
舞達がついていくと、総長は一つの部屋へと入っていく。
そこは過去を見始めてから、一度来た封魔の私室だった。
「「!! 」」
入ろうとしたところで、花音と綾が足を止める。
「……先輩? 」
「どうしたんですか? 」
舞と聖奈が不思議そうに見れば、花音と綾は顔を見合わせた後、少し困った表情になった。
「……よくわかんないけど、……これ以上先に進みたくない気がする」
「……この先は見たくないっていうか ……見て欲しくないっていうか」
「「何だか進むのが……すごく怖い」 」
最後に声を合わせて、花音と綾が言う 。
「それって、……あの村に入ろうとした時の私達と同じじゃない? 」
その時、鈴麗の声がして、視線を向けた。
「どういう事ですか? 」
「……私もあの村に行った時、この先には行きたくないと思った。……あの村でのことがあってから、封魔がどうなったのか思い出したくなかったしな 」
舞が聞いたことに鈴麗ではなく、神蘭が答える。
「ということは、この先では花音と綾に関係します何かが起きるってこと? 」
「……花音と綾というより、光鈴と光麗に関係することがね」
聖姫に聖羅が返すのを聞いた舞の脳裏にはある光景がちらついた。
(……光鈴と光麗、それに封魔、総長 ……この四人が関わっていることなんて、一つしか考えられない)
先程、過ぎった光景は〈天華〉にとっても思い出したくないものなのだろう 。頭がズキズキと痛む。
だが、誰もが止まっていては先に進まない。
目的がわからず、此処を抜け出す方法もわからない以上、先に進むしかない と覚悟を決めて、扉を開ける。
その先に見えたのは、ニヤリと笑みを浮かべている総長と目から光を失っている封魔だった。
4
封魔を連れた総長が何処かの部屋にやってくる。
「封魔、お前に仕事だ」
「仕事? 」
返す声からも意思を感じられない。
「……そうだ。……今から此処に二人の人物がやってくる。その二人を……始末しろ」
「……わかった」
それを聞いていると、綾と花音が話し出す。
「……やっぱり、此処……あの時の… …」
「……うん。総長に呼び出されて、光鈴と光麗が来た部屋……。間違いないよ、此処は〈私達〉が……」
その時、扉を叩く音がした。
「総長、話って何ですか?……封魔? 」
扉を開けて、光麗が顔を覗かせる。彼女は封魔がいるとは思っていなかったらしく、驚いていた。
「……そう。……私は総長のことを疑ってもいなかったし、……封魔のことを警戒もしていなかった」
見ながら思い出していたのだろう綾が言う。
舞達が見ている先では、総長が封魔に命令していた。
「……やれ! 」
「!! 」
言ったと同時に斬りかかった封魔の一撃を光麗は何とか避けると、信じられないという視線を総長へと向けた。
「……どうして? 」
「……それはだな」
その時、再び扉が叩かれ、光麗はハッとする。
「失礼しま……」
「光鈴!?……来ちゃ駄目!逃げて! 」
「えっ!? 」
封魔達に背を向けた光麗に封魔が接近する。
同時に振り下ろした剣は、光麗の背を斬りつけていた。
「あぅ……! 」
「光麗!! 」
倒れる光麗に光鈴が駆け寄る。
治療しようとしているのか、膝をついた彼女の背後で、再び封魔が剣を振り上げる。
「なっ……!? 」
背中を斬られた光鈴が既に倒れている光麗に重なるように倒れこむ。
そんな二人に容赦無く止めをさすかのように、封魔は剣を振り上げる。
その先は見たくなくて、舞は目を閉じる。
その直後、何かを貫くような音が聞こえた。
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