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第5章

1
「「!! 」」
光の街での戦闘中、ふと魔神族側にいた風夜と封魔が動きを止める。
その二人が視線を交わし合った直後、風夜の背に翼が現れ飛び上ろうとするのを見て、風牙が声を上げた。
「おい、待て! 」
「悪いな。緊急事態だ」
そう言い風夜は飛び去っていく。
彼とは違い、封魔はその場にはいたが、通信機のようなものを手にしていた。
「……目的は果たしたか」
呟きと同時に剣を納め、此方には用はないというように去って行く。
それと入れ替わるように少し慌てた夜天が駆け寄ってくるのが見えた。
「おい、光輝を見なかったか? 」
「いないのか? 」
探して走り回っていたのか、息を切らせている夜天に風牙が聞く。
「……っ……、ああっ。途中までは一緒にいたんだ。でも、途中で何か気になることがあるって何処かに行ってしまって、それから……」
「見つからないのか?」
夜天が頷く。
「そういえば、光輝は花音の弟だったな。本当はずっと彼奴らと繋がっていたんじゃないのか?……ふん、裏切りそうな奴がもう一人いたって訳だ。しかも、姉弟揃って本来なら守らなければならない筈の街を魔神族に売るとはな」
「……何だと? 」
やれやれと肩を竦める白羅を、彼の言葉が気に障ったらしい夜天が睨みつける。
「よせ! 今は光輝を探すんだろ? 」
「……にしても、何処に行ったんだ?街から出たとは思えないが」
食ってかかりそうな夜天を止める白夜の横で龍牙が呟いた時、それまで目を閉じ何かを探っていた風牙が目を開いた。
「……光輝の場所はわからないが、風夜の向かった先ならわかったぞ」
「「本当(か)? 」」
それに舞と神蘭はほぼ同時に声を上げた。
「ああ。彼奴は俺の半身だったからな。気配ならよくわかる」
「それで何処にいるの? 」
鈴麗の声に風牙はある方向を指す。
その先には僅かにだが、塔のような建物が見える。
「光の塔か!? 」
舞達が動くよりも前に夜天が勢いよく走り出す。
そんな彼の後を舞達も慌てて追い掛けた。
2
夜天の後に着いて行くと、遠くに見えていた塔がすぐ目の前まで近付いてくる。
その塔の前には数人の人影が見え、舞達の間に緊張がはしる。だが、すぐに異変に気付いた。
(誰か倒れてる……)
舞が思ったのと同時に夜天が声を上げた。
「光輝!! 」
その声に塔の前にいた数人が振り返る。それは先に姿を消した風夜達だった。
彼等の足元には確かに光輝が倒れていて、彼の近くに花音が座り込んでいるのが見えた。
「……お前達か」
「何だよ、これ……。何があったんだよ!? 」
傷を負い、意識もない様子の光輝を見た夜天が風夜に掴みかかる。
「……さあな。俺が着いた時にはもうこうなってたからな。大体、俺が此処に来たのはついさっきだってこと、知ってるだろ? 」
「……なぁ、何があったんだよ? 」
「…………落ちたんだよ。最上階からな」
雷牙が塔を見上げる。
「落ちたって、何故そんなことに? 」
「……俺が落としたのさ」
そう声が聞こえ、一人の魔神族が現れた。
「お前が? 」
「……そうだ」
「……止めなかったことについては、俺も同罪だったけどな」
雷牙がボソリと呟いたことに夜天は彼を睨み付ける。
「雷牙!お前!! 」
「待て!夜天!」
夜天を制し、神蘭が一歩前に出る。
彼女の視線は、光輝を落としたと言った魔神族へと向けられていた。
「お前は何者だ? 」
「……見ての通り、ただの魔神族だが」
「ただの、ね……。確かに力の質はそうだな。だが、お前の気配は私達のよく知ってる者に似ている」
「へぇ……」
神蘭の言葉に少し感心したような声を上げる。
「その仮面、外してもらおうか?」
何故なら確認するように封魔の方を見る。
「断ると言ったら……? 」
彼が首を横に振ったのを見て言った言葉に、神蘭達の雰囲気が変わった。
「……なら、力づくで外させることになるが……」
「それでもいいのか?」
「……お前達にそれが出来るならな」
「……まだこいつのことを知られる訳にはいかない」
龍牙と白夜の言葉で、その魔神族と封魔が返してきて、更に空気が張り詰めた気がした。
それを感じ取って、舞は倒れたままの光輝を見る。
もし此処で戦闘になるなら、彼を何処か安全なところに連れて行く必要があるだろう。
彼の近くに駆け寄ったところで、彼の近くに座り込んだままだった花音の異変に気付いた。
3
「先輩……? 」
声を掛けたが、舞に気付いていないのか花音は光輝だけを見ている。
「先輩、少し離れましょう。此処じゃ危ないです」
「…………て」
少し声を大きくして言った時、誰かが攻撃したのか爆発音が聞こえてくる。
そんな中、花音が何かを呟いたのはわかったが、はっきりとは聞こえない。
「……めて……」
「先輩?……ああ、もう!何でこんなことに……」
封魔達の挑発に乗ってしまった神蘭達に舞は少し苛立たしげに呟く。
(今は争っている場合じゃないのに……!早く光輝を……)
そう思った時、ふと花音が立ち上がったのがわかった。
「……もう、やめてって……言ってるでしょ!」
叫んだ花音の身体から莫大な力が放たれ、辺りが光に包まれる。
(この力は……!? )
暖かいその光は、何処か懐かしく感じる。
(この力は、光鈴の……)
光に包まれる中、舞の中に一つの光景が浮かんでくる。
それははるか昔の、まだ『天華』だった頃のもののようだった。
『はい、もう大丈夫』
『ありがとうございます。光鈴様』
軍の兵士だろう男が一人の少女に礼をして去っていく。
それを笑顔で見送っていた少女へと天華は近付いていった。
『光鈴』
『あ、天華! 』
『まだやってたの?』
天華が近くにある窓から外を見る。
外はすっかり日が落ちて、暗くなっている。
『今の人で最後だよ』
『そう……。なら、いいけど。……ちゃんと休める時に休んだ方がいいよ』
『それは天華の方でしょ。……私にはこういう後方支援しかできないから』
そう言い、光鈴は寂しげに笑う。
『戦うことは出来ないから、せめて傷を癒すことで皆の役に立ちたいの』
舞の中で少しずつ浮かんでくる記憶の中では、光鈴と話したのはそれが最後だった。
4
「!! 」
辺りを包んでいた光が消え、舞は我に返って周囲を見回した。
塔のある高台から見える街の様子は、魔神族の襲撃と戦闘で彼方此方から上がっていた筈の火が消えている。
それだけでなく、崩れていた筈の建物も元の状態に戻っているように見えた。
(これは、光鈴の再生の力……)
次に光輝の方を見る。
まだ意識はないが、傷は消え表情も先程より和らいでいる気がした。
「ちょ、花音!? 」
その時、焦ったような星夢の声が聞こえてくる。
視線を向けると、花音が倒れかかっていて、刹那に受け止められていた。
「……戻るぞ」
花音を支えた状態で刹那が言い、力を発動させる。
力を分散させコントロールしたのか、空間の歪みは風夜、封魔、魔神族の男、雷牙の近くにそれぞれ現れ、彼等はその中へと姿を消していく。
それを止める間はなかった。
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