「…………」
神界の一つの牢の中、天奏は簡易ベッドに座り、ぼんやりとしていた。
数百年前、神界を裏切り、現在は魔神族を裏切った今、自分がどうなるのか見当もつかない。
自分を裏切り者とした麗玲は、一体どのような処罰を与えてくるのだろうか 。
そんなことを考えていると、ふと牢の前から誰かの気配を感じた。
視線を向けると、そこにはマントを羽織り、フードで顔を隠している人物が立っていた。
「誰？ 」
突如現れた気配に内心で驚きながらもそう言うと、その人物は
「くくっ」
と低く笑った。
「……私のことを忘れてしまったのかい？ 」
そう声を掛けられ、天奏は目を見開いてベッドから立ち上がった。
「どうして……？ 」
まだ信じられなくてそう呟く。
「あなたは、あの時、確かに……」
再びフードの下で笑った気配がする。
「死んだ筈なのに、か。あれしきのこと、私には容易いことだ」
「…………」
それに無言でいると、マントの男は牢の扉を開け、中へ入ってきた。
天奏の前まで来た男は、彼女へと手を差し伸べてくる。
「私に手を貸さないか？お前の力は私に必要だ」
「…………」
その手から目を逸らす。
「……手を貸してくれないのか？数百年前のように」
「っ……」
手を取らないことでそう言われ、言葉に詰まる。
何も返さずにいると、男は手を引き踵を返した。
「まぁ、いい。……いつでもいい。気が向いたら、連絡してくれ。……賢い選択をしてくれることを願っているよ 」
そう言って、牢から出て行く。
鍵は開けたままだった。