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第20章

1
「ウガアアアア!! 」
「!! 」
変化した空気に神蘭が戸惑っていると
雄叫びのような声が聞こえてくる。
それが白羅のものだと気付いて視線を向けると、彼の身体を邪悪ともいえる力が包んでいた。
「……まずいな」
横にいた封魔が呟いて、腕輪に手をかける。
「持ってろ! 」
そのまま戸惑いなく外した腕輪を投げ寄越し走り出す。
腕輪は受け止めたものの、その動きは止められなかった神蘭が慌てて視線を向けた時には斬りかかった封魔の剣とそれを受けた白羅の大剣が激しく火花を散らしていた。
少しの間の拮抗の後、弾く音がして封魔が近くに着地する。
「封……」
声を掛けようして、突然吹いた風圧から神蘭は顔を庇う。
翳していた手を下ろすと、近くにいた筈の封魔の姿がなくなっていた。
地面を見れば、何かが後ろへと押されているような跡があり、それを追っていくと封魔と白羅の姿がある。
上から振り下ろされたのだろう大剣を受け止めてはいるものの、押されているのかその身体は沈みかかっていた。
「封魔! 」
「っ、来るなっ! 」
駆け寄ろうとして、封魔の声に足を止める。
「でも! 」
「……いいから……、手を……出すなっ!! 」
言葉と共に渾身の力で大剣を弾いたようだったが、再度振り下ろされた大剣に表情を歪めたのが見えて、神蘭は自身の剣を抜きつつ、今度こそ走り出した 。
2
「はぁっ! 」
無防備に見える背に向かって剣を奮う 。
だが、剣が背を捉える前に封魔を片手で押さえ込んだ白羅が振り返り、神蘭の剣を素手で掴んだ。
「……っ……! 」
そのまま握り込まれてしまい、剣を押すことも引くことも出来なくなる。
(駄目だ。びくともしない! )
内心で呟いた時、白羅の顔にニヤリと笑みが浮かぶ。
「えっ?……うわあああっ! 」
その直後、強い力で掴んだ剣ごと振り回され、最後に封魔へと打ち付けるように投げ飛ばされた。
「うっ……! 」
「ぐっ……! 」
封魔を巻き込んで地を転がる。
止まった所で身を起こした時には、白羅の持つ大剣には異常な力が集まっていた。
「おおおおっ! 」
『いっけぇ! 』
白羅の大剣から放たれた黒い剣圧が向かってくる。
「っ!下がってろ! 」
封魔が言って掌に集めていた力を放つ 。
黒い剣圧と封魔の放った光のエネルギーは中央辺りで、激しくぶつかり合った。
3
「おおおおっ! 」
『ぬおおおお』
「っ……! 」
激しい強風を堪えながら、神蘭は封魔の肩越しに白羅の方を見る。
その目は紅く吊りあがり、口は大きく裂け始めて、心なしかその体格すら大きくなっているように見える。
黒い大剣も先程より一回りくらい巨大化し、水晶に浮かんでいる顔も凶悪なものになっているのがわかった。
(これって……)
その時、近くでジャリと小さな音が聞こえてきてハッとする。
視線を向けると、封魔が先程より後退していた。
「ぐおおおおっ! 」
『オラアアア』
「っ……ぐうううっ! 」
白羅と大剣の吼える声と共に、迫ってくる剣圧の威力が増すのを感じる。
それに合わせて、封魔の力も増したがじりじりと押され始めた。
「っ……、私も……」
手伝おうと力を溜めようとしたが、それより先に白羅側の力が爆発的に跳ね上がり、封魔の力を押し戻しつつ迫ってくる。
(……間に合わない! )
そう思った時、神蘭は強い力で横へと突き飛ばされ、その直後、彼女がいた場所を黒い剣圧が地面ごと大きく抉っていった。
「……封魔!! 」
一瞬何が起きたのかわからなかったが 、我に返って視線を向ける。
剣圧で抉られた地面は三十メートル程で、そこに倒れている封魔を見付けた 。
「封魔……!! 」
駆け寄ると、彼は意識を失っていた。
「……っ……! 」
声を掛けようとして、白羅が近くに来ているのに気付く。
「すごい、すごいぞ!これが魔宝具の力か! 」
『そうだ!だが、まだまだこんなものじゃないぞ。まだ序の口だ』
「なら、その力をもっと見てみたいところだな」
『だが、その前にやることがあるだろう』
それを聞いて、神蘭は封魔の身体を抱え込む。
その時、小さく呻く声が聞こえた。
4
「……神……蘭……」
視線を向けると、封魔が目を開けていた。
「……逃げ……ろ。お前……一人じゃ ……無理だ」
「言われなくても、……わかってる」
つい反発するような声で返してしまったが、気をとり直して封魔の腕を肩に回そうとしたが、その手は弾かれた。
「なっ……! 」
「……俺が……時間を……稼ぐ。お前は城に戻って……この事を……」
「何言って……」
「お前に怪我はないとはいえ、俺を連れてたら逃げ切れない。……だから… …」
「おいていけっていうのか!? 」
頷いた封魔は、剣を支えにふらつきながらも立ち上がる。
それを見ながら神蘭は頭に血がのぼるのを感じた。
「ふざけるな!なんで、どうして……いつもそうなんだ!?……何故、いつも……」
色々な感情がごちゃ混ぜになって、何が言いたいのか自分でもわからなくなってくる。
「……自分を犠牲にしようとするんだ !? 」
それでもそう叫んで睨み付ける。
「風夜にも言われた筈だ!花音が助けたばかりの命を無駄にするなと、それにお前は頷いた。なのに、もう破るのか!? 」
「なら、どうする?二人で戻るのも無理。俺のかわりにお前が残ったって、お前が殺され、俺は追い付かれる。… …これが最善策だ」
「……違う!こんなの……、こんなの ……」
そう叫んで首を横に振る。
「ちょっと、ちょっと!急いで来てみたら何してるの!? 」
その時、それまでいなかった舞の声が聞こえてきた。
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