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第1章


「蒼魔、封魔、御苦労だった。報告は後で聞こう」
「「はっ」」
近付いてきた総長が二人に声を掛けた後、神蘭達訓練生の方を見てくる。
その視線の鋭さに彼方此方から息をのむ音が聞こえてきたが、それに気付いたのか視線が少し和らいだ。
「すまなかった。此方が気付くのが遅れたせいでこれだけの被害を出してしまった。全て我々のミスだ」
「……あの、これから俺達はどうなるんですか?」
おずおずと一人の少年が口を開く。
それを聞いて、総長と副総長が視線を交わし合うのがわかった。
「その件のことだけど、もし本当に軍に入隊する意思があるなら、あなた達を仮入隊させようと思うの」
その副総長の言葉に周りが騒めく。
「勿論、お前達はまだまだ半人前だ。だが、これからの戦いに戦力が必要なのも事実。そこでお前達は各闘神の部隊に入り、訓練してほしい」
「これは強制ではないわ。希望者のみ、明日までに本部に来てちょうだい」
その言葉を聞きつつ、神蘭は封魔の表情を見る。
彼も丁度神蘭の方を見ていて、神蘭がどちらを選ぶかわかったのか、苦虫を潰したような顔をしていた。
(私は決めたんだ。何があっても、その気持ちは変わらないよ)
それを見ながら、自分自身と彼に言うように内心で呟く。
寧ろ、月夜の姿と今回の襲撃の様子を見て、軍に入るという気持ちは強くなっていた。
2
次の日、神蘭は神界軍の本部前にいた。
「神蘭!」
背後からの声に振り返ると、鈴麗と三人の少年が走ってくる。
「やっぱり、お前も入るのか?」
「うん。……えっと」
その内の一人が話し掛けてきたのに頷いたが、名前が出てこない。
「龍牙だ」
「俺は白夜」
「白鬼だ。よろしく」
「私は神蘭よ」
名乗ってくれた三人に返したところで、鈴麗が手を叩く。
「じゃ、自己紹介が終わったところで、そろそろ中に入ろうよ」
「ええ」
「「「ああ」」」
それに頷いて、神蘭達は中へと入った。
五人が本部の中に入った時には、そこには既に何人かの訓練生達の姿があった。
受付のようなところでは、訓練生達に何か紙のような物を渡している。
「行ってみよう」
神蘭も他の四人に言って、列の最後に並ぶ。
少しすると神蘭の順番が来て、やはり一枚の紙を渡される。
見れば、其処には【一】と書かれていた。
「一?」
「えっ?神蘭は【一】だったの?私は【三】だったよ」
神蘭が呟いたことに鈴麗が反応する。
「この数字って?」
「ああ。今日、此処に来るということは、軍に入ることを了承したということ。その紙の番号は、お前達が入ることになる隊の控え室になっていて、この後上司になる闘神と顔を合わせることになる」
受付の兵士に言われ、神蘭達は顔を見合わせた。
3
四人と別れ、神蘭が【一】と書かれたプレートのついた扉を開けると、何人かの訓練生が中で待っていた。
空いていた席に座り、神蘭も闘神の誰が来るのかと、少しドキドキしながら待つ。
そして、入ってきたのは神蘭にとっては見たことのある女性だった。
(あの人は、確か……)
「ようこそ、神界軍へ。私は闘神の一人、怜羅。あなた達を歓迎するわ」
微笑みを浮かべて言った女性は、襲撃があった日、封魔と共に救出に来てくれた怜羅だった。
「あら?久しぶりね」
全体の顔合わせが終わった後、近づいた神蘭に覚えてくれていたのか、怜羅が言う。
「はい。あの時はありがとうございました」
「いいのよ。それに、礼なら封魔に言ってあげて」
「えっ?」
「彼、あの日は非番だったのよ。それなのに襲撃を知って、私の軍に同行したの。まぁ、非番だったのは、今回の襲撃もそうだったけど」
「そうなんですか?」
「ええ。今回は場所も場所だったから、全員出ることになってたのよ」
(そういえば、私まだちゃんとお礼言ってない)
そんなことを思っていると。鈴麗がクスリと笑った。
「ふふ、封魔ならこの後、半日非番になる筈よ。行ってみたら?」
「えっ、いや……」
闘神と言ったら、副総長の次に高い立場なのだ。
まだ正式な軍人でもないのに、上層部の部屋へ行くなんてと首を横に振る。
「なら、呼び出しましょうか?」
「いえ、用があるのはこっちですから」
「そう。なら、案内するわ」
怜羅はそう言うと、神蘭を案内するように、歩きだした。
3
怜羅の後について、神界軍本部の建物を上がっていき、あるフロアにあった扉の前で立ち止まる。
「ここよ。……うん。中にいるみたいね」
中の気配をよんだのだろう怜羅がそう呟いて、神蘭の肩を軽く押した。
「ほら、此処まで来たんだから、入っちゃいなさい」
「えっと……」
そう言われても、いざとなるとなかなか踏み出せない。
なかなか思い切りがつけられずにいると、怜羅は仕事があるからと戻ってしまった。
(よし!)
それを見て、自分もいつまでも此処にいる訳にはいかないだろうと気合いを入れて扉を叩く。
「入れ」
そして、中から聞こえてきた声に神蘭はゆっくりと扉を開いた。
「お前……、どうして此処に?」
神蘭が中に入ると、封魔が少し驚いたように目を見開いていた。
怜羅が言っていたように非番だったらしく、今まで会った時のように軍服を着て居らず、私服らしい軽装をしていた。
普段書類を片付けるのに使っているだろう机の上は何もなく、それとは別の小さなテーブルの上に数枚の書類が広がっている。
だが、そこには紅茶の入ったカップとポットが一緒に置かれていて、ただ目を通していただけのようだった。
「それで、何の用だ?」
「えっ?あ、うん。……二回も助けてもらったのに、ちゃんとお礼を言ってなかったと思って」
「そんなことか。別に俺は仕事をしただけなんだけどな」
「それでも、どっちの時も非番だったんでしょ。それって、時間外ってことになるんじゃないの?」
「……怜羅か」
溜め息混じりに言う封魔から、何気なくテーブルの上に視線を移す。
(魔神族について?)
その文字が目に入り、気になってまじまじと見ていれば、その視線に封魔も気付いたようだった。
「これって……」
「最近、襲撃を繰り返している奴等の資料だ。……近々、俺達に討伐指令が下されそうなんでな」
「討伐……」
「とはいえ、お前達のような下の連中には関係ないことだ」
言われて、神蘭は資料から視線を外した。
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