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第6章

1
神子達が魔神族との戦いに加わるようになってから数週間。
魔神族の襲撃が増え、戦いも厳しくなってきていたある日、どこか軍の上層部が騒がしい気がした。
神蘭達、軍の兵士も待機が命じられていて上から指示があるのを待っていると、光波、光鳳、光蘭が総長、副総長と話しながら神蘭達の方へ歩いてくる 。
その五人の表情は険しいものだった。
「何かあったのかな?」
そう呟き、神蘭は鈴麗達と顔を見合わせる。
そうしながらも頭の中には前闘神達が戻ってこなかった時のことが浮かんだ 。
思い出してしまったその時のことを頭から追い出そうとしていると、一度話を終えたらしい総長が口を開いた。
総長が告げたのは魔神族の方も《十人衆》と呼ばれる上層部が動き出したということ。

そして

魔神族の神子・麗玲と神界の神子の一人、天奏が繋がっていたということと天奏が裏切り、同じ神子である聖鈴を手にかけたということだった。
「そんなことって……」
隣にいる鈴麗が信じられないというように小さく呟くのが聞こえてくる。
それは神蘭も同じ思いだった。

2
衝撃の事実を聞いてから半日。
神蘭は一つの村へと来ていた。
そこには魔神族の軍が迫っているという情報があり、今は村人達の避難を行なっているところだった。
村の外へと誘導し、軍の別部隊に引き渡していく。
「これで全員か?」
「私、確認してきます」
何度か繰り返しているうちに神蘭がいる隊の隊長が言う。
それに神蘭は踵を返しながら、声を上げ、村の中へと走り出す。
「あまり時間がないぞ!急げよ!」
後ろから聞こえてきた隊長の声に神蘭は走る速度を上げた。
村の中に戻ってくると、逃げ遅れた人がいないか確認する為、辺りに視線を走らせる。
いないのを確認しては移動し、同じようにするというのを何度か繰り返す。
呼びかけたり、物音がした場所を見に行くことも忘れない。
(もう全員避難できたのかな)
誰の気配もしないのを確認して、心の中で呟く。
それなら自分も部隊に戻ろうかとも思ったところで、神界軍がいる方とは逆の方向から火の手が上がるのが見えた 。
「魔神族!?」
魔神族の軍が迫ってきているのは知っていたが、ここまで早いとは思っていなかった。
「!!」
今度は神界軍の気配が遠のいていく。
神蘭のいた部隊には戦闘は許可されていない。
あくまで村の住民の避難誘導の為の派遣だったのだ。
だから、戦闘になる前に離脱したのだろう。
だが、これで神蘭が一人残されてしまったのは確かだった。
3
「っ……!」
飛んでくる魔力の弾を神蘭はぎりぎりで躱す。
神界の軍人もいなければ、村の住民もにいない。
現れた魔神族の軍の侵攻を邪魔するものはただ破壊すれば問題ないという建物だけだ。
そんな状況では、一人残っていた神蘭は攻撃の的で、逃げるのが精一杯だった。
村に現れた魔神族の軍の中には上位の者はいないようだったが、人数が多い 。
「うぁっ……」
攻撃を受け、倒れこんでしまえば囲まれてしまったのはあっという間だった 。
身体を起こそうとして、逆に地面に叩きつけられ、上から押さえつけられる 。
「うぅっ……」
「おい、こいつ、どうする?」
「一人だけか……。仲間にでも見捨てられたのか」
思わず呻いた神蘭の上からそんな声が聞こえてくる。


「人質にでもするか?それとも」


一人の魔神族が抜いた剣を倒れている神蘭の首の横に突き刺してくる。

「一思いにやって、首だけ神界軍に送りつけてやるか」

それを聞いて、このままではまずいという焦りが出てくる。
それと同時に、脳裏に三人の人物が浮かび上がってきた。

一人は、喪ってしまった父。

一人は、その父を手にかけた月夜。

最後の一人は……。


(私は……、こんなところで死ぬ訳にはいかない!まだ、死ねない!)


そう思うと、神蘭は力を気付かれないように掌に力を集める。
そして、自分達の優位を信じ、油断しているように見える魔神族へとその力を放った。
「ぐああっ!」
神蘭の不意をついた攻撃で、彼女を押さえつけていた魔神族が吹っ飛ぶ。

「貴様っ!」

それを見ていた他の魔神族達が色めき立ったのがわかった。
彼等が仕掛けてくる前に神蘭は立ち上がり、逃げようとしていたのだが、そんな暇は与えないというように猛攻が始まる。

再び地に伏すのにそれ程時間は掛からなかった。

「くぅっ……」

今度は手に力を込められないようにか掌を踏みつけられる。

動かせない。

先程の猛攻で身体中に傷を負った。

痛みで意識が飛びそうだったが、その都度、それを許さないというように更に痛めつけられた。

「この女、さっきはよくもやってくれたな」

そこに先程、神蘭が吹っ飛ばした魔神族の声が聞こえてくる。

「おい、代われ」

その声で、踏みつけられていた掌から足が退けられる。
地へ押さえつけられている力からは解放されたが、今度は首を大きな手で掴まれる。

神蘭の身体は宙へと浮いていた。

自分を持ち上げた魔神族は体格がよく神蘭より二十センチは背が高い。

「よし、そのまま動きを封じておけよ 」

別の魔神族がそう声をかけてくる。

その手には先程の神蘭と同じか、それ以上の力が溜められていた。
あれを至近距離で受けてしまえば、どうなるかは簡単に想像がつく。

だが、今のままでは躱すことなどできないと首にかかる魔神族の手を外そうと試みたが、びくともしない。

力を溜めた魔神族は歪んだ笑みを浮かべて近付いてくると、その手を振りかぶった。

「消し飛べ!」


「……お前達がな」



魔神族が力を放とうとしたその時、別の声が聞こえ、どこからか放たれた力が一部の魔神族達をのみ込んだ。
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