第5章
1
「……っ……!」
聖波から話を聞いて出発してから数時間後、神蘭は少しの休憩をとっていた。
(思っていたより、結構きついなぁ)
そんなことを思いつつ、今まで登ってきた道を思い返す。
この山には人が立ち入ることがあまりないのか、これまでの道は荒れていて、まだ先は長そうなのに大分体力を使ってしまった気がする。
「……これは……戻るには少し時間が掛かるかもね」
小さく呟いて、休憩の為座っていた木の根から立ち上がると、まだまだ続くであろう険しい道をゆっくりと進み始めた。
それから暫くして、神蘭は目の前にあるもはや道とはいえない岩の壁を前に足を止めていた。
(……今日はここまでかな)
流石に病み上がりの今はもう体力が限界に近かった。
休み休みきた為、時間も掛かり、辺りも薄暗くなってきている。
無理をしても良いことはないだろうと今日はこれ以上登ることは諦め、神蘭は野営の準備に取り掛かった。
2
「よし!」
一夜を明かし、神蘭は昨日の疲れがとれているのを確認すると、気合いを入れるように呟いた。
目の前に広がる岩地帯に手を掛け、慎重に登り始める。
岩の僅かな窪みに手や足を引っ掛け、ゆっくりと上を目指す。
幸い、岩を登る場所はそんなに長くは続かず、約一時間位で抜けることが出来た。
登りきったところで少しだけ休憩を取り、頂上を目指す。
段々と空気が薄れ、息苦しさを感じたが、それは頂上が近いということでもあった。
「えっと……」
頂上に着き、少し開けているその場所で神蘭は辺りを見回す。
聖波の話では目的の薬草はこの頂上の何処かにある筈だった。
きょろきょろと周囲を探していると、ふと視界の端に白いものが見えた気がした。
「あ、あった……」
漸く目的のものを見付けたと、其処へ近付こうとする。
その時、ふと頭上に影が掛かった。
「えっ?」
咄嗟に身を引いた所で、それまで立っていた場所を鋭いものが通り過ぎていく。
それに驚きながらも視線を向けると、此方に向かって唸り声を上げる黒い巨大な獣の姿があった。
「な、何、こいつ!?」
いきなりのことに動揺しながらも、その獣の様子を伺う。
神蘭より巨大な身体に唸り声を上げる口から見える鋭い牙、前足に生える鋭い爪。
先程攻撃してきたのは、あの爪なのだろう。
そう思うと、正直背中に冷たいものが走った。
(そもそもこんな所にこんな奴がいるなんて……、聞いてない)
そこまで思って、出発前の聖波の言葉と笑みを思い出す。
ー「気を付けていけよ」ー
(あれって、こいつがいるのを知っていたからだったんだ)
間合いをとり、構えながら気を引き締める。
(つまり、これで私の今の力を計ろうとしてるんだ。……なら、やるしかない!)
一人で倒せるかはわからなかったが、自分しかいない以上やるしかなかった。
3
「……っ……!!」
体勢を低くし、飛びかかって来た巨体を何とか避ける。
だが、獣の動きは思ったよりも早く、すぐに再び飛びかかってくる。
ギイインッ
「……っ!……あっ!」
今度は爪ではなく噛み付こうとしてきた為、咄嗟に剣で受けたものの、剣を咥えたまま振り回され、堪らず剣を手放し、地面に身体を打ち付ける。
その間に手放した剣は放り投げられてしまう。
(しまった……!)
視線で剣が投げられた辺りを見るが、そう簡単に拾いに行ける場所にはない。
「このっ……」
好機とばかりに飛びかかってきた獣に神蘭は光弾を放つ。
それは確かに獣に命中した。
「や、やったの?」
獣が倒れ動く様子がないことに、神蘭は警戒しながら近付いていく。
ギリギリまで近付いてもその身体が動かないことを確認し、神蘭は息を吐き、緊張を解く。
(……じゃあ、後は……)
元々の目的だった薬草をとろうと、その方向へ進もうとする。
その瞬間、背後から殺気を感じたが、それに反応するより先に物凄い衝撃を受け、神蘭は地面に倒されていた。
4
(なっ……!?)
何が起きたのかわからないが、身体は身動きが出来ない。
「グルルル」
そんな中、聞こえた唸り声に目を見開く。
(!!……そんな、倒した筈じゃなかったの?)
そこまで考えて、その唸り声が先程の獣のものよりも低いことに気付く。
(まさか、もう一体いたってこと!?)
正直、油断していた。一体しかいないと思い込み、周りの気配を探らなかった神蘭のミスだった。
「……っ……!」
何とか身体の自由を取り戻そうとしてみるが、かなりの力で抑えられていて上手くいかない。
(こんなところで……)
神蘭を押さえ付けている獣が片足を上げ、その爪を振り下ろそうとしている気配にそう思う。
(こんなところで、私は……)
空気を切る音と共に爪が振り下ろされる。
「「「「神蘭!!」」」」
もう駄目だと思った時、此処にはいない筈の声が幾つか聞こえてくる。
その後、何かが飛んでくる気配がして、獣の悲鳴の後、身体が軽くなった。
「……っ……!」
聖波から話を聞いて出発してから数時間後、神蘭は少しの休憩をとっていた。
(思っていたより、結構きついなぁ)
そんなことを思いつつ、今まで登ってきた道を思い返す。
この山には人が立ち入ることがあまりないのか、これまでの道は荒れていて、まだ先は長そうなのに大分体力を使ってしまった気がする。
「……これは……戻るには少し時間が掛かるかもね」
小さく呟いて、休憩の為座っていた木の根から立ち上がると、まだまだ続くであろう険しい道をゆっくりと進み始めた。
それから暫くして、神蘭は目の前にあるもはや道とはいえない岩の壁を前に足を止めていた。
(……今日はここまでかな)
流石に病み上がりの今はもう体力が限界に近かった。
休み休みきた為、時間も掛かり、辺りも薄暗くなってきている。
無理をしても良いことはないだろうと今日はこれ以上登ることは諦め、神蘭は野営の準備に取り掛かった。
2
「よし!」
一夜を明かし、神蘭は昨日の疲れがとれているのを確認すると、気合いを入れるように呟いた。
目の前に広がる岩地帯に手を掛け、慎重に登り始める。
岩の僅かな窪みに手や足を引っ掛け、ゆっくりと上を目指す。
幸い、岩を登る場所はそんなに長くは続かず、約一時間位で抜けることが出来た。
登りきったところで少しだけ休憩を取り、頂上を目指す。
段々と空気が薄れ、息苦しさを感じたが、それは頂上が近いということでもあった。
「えっと……」
頂上に着き、少し開けているその場所で神蘭は辺りを見回す。
聖波の話では目的の薬草はこの頂上の何処かにある筈だった。
きょろきょろと周囲を探していると、ふと視界の端に白いものが見えた気がした。
「あ、あった……」
漸く目的のものを見付けたと、其処へ近付こうとする。
その時、ふと頭上に影が掛かった。
「えっ?」
咄嗟に身を引いた所で、それまで立っていた場所を鋭いものが通り過ぎていく。
それに驚きながらも視線を向けると、此方に向かって唸り声を上げる黒い巨大な獣の姿があった。
「な、何、こいつ!?」
いきなりのことに動揺しながらも、その獣の様子を伺う。
神蘭より巨大な身体に唸り声を上げる口から見える鋭い牙、前足に生える鋭い爪。
先程攻撃してきたのは、あの爪なのだろう。
そう思うと、正直背中に冷たいものが走った。
(そもそもこんな所にこんな奴がいるなんて……、聞いてない)
そこまで思って、出発前の聖波の言葉と笑みを思い出す。
ー「気を付けていけよ」ー
(あれって、こいつがいるのを知っていたからだったんだ)
間合いをとり、構えながら気を引き締める。
(つまり、これで私の今の力を計ろうとしてるんだ。……なら、やるしかない!)
一人で倒せるかはわからなかったが、自分しかいない以上やるしかなかった。
3
「……っ……!!」
体勢を低くし、飛びかかって来た巨体を何とか避ける。
だが、獣の動きは思ったよりも早く、すぐに再び飛びかかってくる。
ギイインッ
「……っ!……あっ!」
今度は爪ではなく噛み付こうとしてきた為、咄嗟に剣で受けたものの、剣を咥えたまま振り回され、堪らず剣を手放し、地面に身体を打ち付ける。
その間に手放した剣は放り投げられてしまう。
(しまった……!)
視線で剣が投げられた辺りを見るが、そう簡単に拾いに行ける場所にはない。
「このっ……」
好機とばかりに飛びかかってきた獣に神蘭は光弾を放つ。
それは確かに獣に命中した。
「や、やったの?」
獣が倒れ動く様子がないことに、神蘭は警戒しながら近付いていく。
ギリギリまで近付いてもその身体が動かないことを確認し、神蘭は息を吐き、緊張を解く。
(……じゃあ、後は……)
元々の目的だった薬草をとろうと、その方向へ進もうとする。
その瞬間、背後から殺気を感じたが、それに反応するより先に物凄い衝撃を受け、神蘭は地面に倒されていた。
4
(なっ……!?)
何が起きたのかわからないが、身体は身動きが出来ない。
「グルルル」
そんな中、聞こえた唸り声に目を見開く。
(!!……そんな、倒した筈じゃなかったの?)
そこまで考えて、その唸り声が先程の獣のものよりも低いことに気付く。
(まさか、もう一体いたってこと!?)
正直、油断していた。一体しかいないと思い込み、周りの気配を探らなかった神蘭のミスだった。
「……っ……!」
何とか身体の自由を取り戻そうとしてみるが、かなりの力で抑えられていて上手くいかない。
(こんなところで……)
神蘭を押さえ付けている獣が片足を上げ、その爪を振り下ろそうとしている気配にそう思う。
(こんなところで、私は……)
空気を切る音と共に爪が振り下ろされる。
「「「「神蘭!!」」」」
もう駄目だと思った時、此処にはいない筈の声が幾つか聞こえてくる。
その後、何かが飛んでくる気配がして、獣の悲鳴の後、身体が軽くなった。