第5章
1
「……また来たのか」
翌日も訪れた神蘭に聖波が呆れたように呟く。
「何度来ても、答えは変わらないぞ」
「……そうだとしても、此処まで来て諦めることは出来ないんです」
聖波の答えに神蘭はそう返す。
彼に言ったように、これ以上何かを言われたとしても、諦めて軍に帰るつもりはなかった。
「……そうかよ。……だが、俺の答えも変わらない。無駄なことだ」
そう言って、家の中へと戻っていってしまう聖波に、神蘭は溜息をついた。
「今日も行くのかい?」
聖波の家と宿を行き来するようになって数日、宿を出ようとした神蘭に宿の主人が声を掛けてくる。
「はい。そのつもりですけど……」
「今日はこれから天気が崩れそうだし、まともに話を聞いてもらえたことはないんだろう」
「それでも、いつかは聞いてもらえるかもしれませんから」
「だが、今日は止めておいた方がいいんじゃないかい?」
その言葉に神蘭は首を横に振った。
「……話をまともに聞いてもらえないからこそ、毎日でも行って、私が本気だってことをわかってもらわないといけないんです」
「……そうかい。……まぁ、無理だけはしないようにな」
「はい。……じゃあ、行ってきます」
心配そうに声を掛けてきた宿の主人にそう返し、神蘭は宿を出る。
その時見上げた空は、今にも雨が降ってきそうなくらいにどんよりとしていた。
2
(やっぱり、降ってきちゃったなぁ)
聖波の家の外、降り出した雨を見ながらそんなことを思う。
今日はこんな天気だからなのか、神蘭の相手をしたくないからなのか、聖波は出てくることすらない。
(今日は諦めようかな)
一度はそう思ったが、すぐに思い直す。
(ううん。今までずっと来てたのに、この位のことで諦めていたら、私の覚悟はそれまでだったことになっちゃう。それだけは絶対に……)
そう思いつつ、神蘭は降り続けている雨を睨み付けるように見た。
「…………」
本格的に降り出した雨の中、神蘭は聖波が出てこないかと家の扉を見つめる。
木の下にはいるものの、完全に雨を避けることは出来ず、服に染みてきて、気温が下がってきたこともあり、神蘭は身体を少し震わせた。
(でも、まだ我慢出来ない程じゃない)
体温が徐々に奪われていくのはわかったが、自分で言い聞かせるように内心で呟く。
その間にも雨の勢いは増していき、気温も下がり続ける。
神蘭は少しでも体温を奪われないようにと座り込み、自身の身体を抱え込むようにしていたが、段々意識が薄れていくのを感じた。
3
(…………?)
意識が浮上するような感覚があり、神蘭は目を開ける。
まず見えたのは、自分が雨避けに使っていた木の枝や葉ではなく、何処かの天井だった。
「……ここは?」
「気が付いたのか?」
まだ少しぼんやりとしながらも呟くと、少し呆れたような声が聞こえてくる。
「……聖波さん?」
「馬鹿か、お前。仮にも闘神を目指そうとする奴が変に無理して、体調を崩してどうするんだ?」
言われて神蘭は漸く自分の身体の異変に気が付いた。
何だか身体中が熱く、怠さもあり、関節などにも痛みがあった。
「あれ?」
「……38.5」
「えっ?」
「お前の熱だよ」
溜め息をついた聖波がベッド横の小さな棚の上に持っていた盆を置く。
「熱?」
「ああ。……お前が自分でも気付かない内に無理していたってことだろ?疲れていた所に、この寒い中雨に打たれていたら、当然の結果だろうがな」
言いながら、聖波は神蘭を見据える。
「どうしてそこまでして、闘神になりたい?只、単に空いている席につきたい訳じゃないことは知っているが、何故そんなに封魔を助けようとする?」
「……彼には今まで何度も助けてもらいましたから。私が酷い態度を取っていた時も変わらずに。……それに光鳳様達にも言ったけど、私はそれだけの為に闘神になりたい訳じゃありません。……今までの闘神達が守ってきたものを壊させたくないんです」
「……」
「その為には私はもっと強くならないとならないんです。……闘神になるのが大変だというのはわかっています。でも……」
言葉を続けようとしていた時、聖波が溜め息をつき、神蘭に背を向けた。
「聖波さん?」
「……軽い食事と薬を持ってきてある。それを摂ったら、ゆっくり休んで体調を整えろ。話はそれからだ」
そう言うと、彼は出て行ってしまった。
4
聖波の家で休息をとって二日。
身体から熱っぽさや怠さがなくなった神蘭は、世話になってしまった聖波を探していた。
彼を見付けたのは家の外で、一人の男性と何か話をしていたところだった。
話が終わるのを待っていると、男性は去っていき、気配で気付いていたのだろう神蘭の方へ聖波は歩いて来た。
「もう具合はよくなったのか?」
「はい。お世話になりました」
「いや……、それより一つ頼みたいことが出来た」
「頼みたいこと、ですか?」
「ああ。もし、それを受け、無事にそれを終えることが出来たなら、お前の頼みも聞いてやるよ。……どうだ?」
聖波の言葉に神蘭は一度、瞬きをする。
だが、これはチャンスだと思った。
「……それで頼みたいことというのは?」
「ああ。お前にはこの山の頂上にある薬草を採ってきてもらいたい。薬草の写真ならある」
そう言って聖波が渡してきた写真には、小さな白い花をつけている植物が写っていた。
「これを採ってくればいいんですか?」
「そうだ。……気を付けていけよ」
そう言って、聖波は何か含んだような笑みを浮かべる。
それが気になりはしたが、この機会を逃しては聖波の気が変わってしまうかもしれないと神蘭は出発することにした。
「……また来たのか」
翌日も訪れた神蘭に聖波が呆れたように呟く。
「何度来ても、答えは変わらないぞ」
「……そうだとしても、此処まで来て諦めることは出来ないんです」
聖波の答えに神蘭はそう返す。
彼に言ったように、これ以上何かを言われたとしても、諦めて軍に帰るつもりはなかった。
「……そうかよ。……だが、俺の答えも変わらない。無駄なことだ」
そう言って、家の中へと戻っていってしまう聖波に、神蘭は溜息をついた。
「今日も行くのかい?」
聖波の家と宿を行き来するようになって数日、宿を出ようとした神蘭に宿の主人が声を掛けてくる。
「はい。そのつもりですけど……」
「今日はこれから天気が崩れそうだし、まともに話を聞いてもらえたことはないんだろう」
「それでも、いつかは聞いてもらえるかもしれませんから」
「だが、今日は止めておいた方がいいんじゃないかい?」
その言葉に神蘭は首を横に振った。
「……話をまともに聞いてもらえないからこそ、毎日でも行って、私が本気だってことをわかってもらわないといけないんです」
「……そうかい。……まぁ、無理だけはしないようにな」
「はい。……じゃあ、行ってきます」
心配そうに声を掛けてきた宿の主人にそう返し、神蘭は宿を出る。
その時見上げた空は、今にも雨が降ってきそうなくらいにどんよりとしていた。
2
(やっぱり、降ってきちゃったなぁ)
聖波の家の外、降り出した雨を見ながらそんなことを思う。
今日はこんな天気だからなのか、神蘭の相手をしたくないからなのか、聖波は出てくることすらない。
(今日は諦めようかな)
一度はそう思ったが、すぐに思い直す。
(ううん。今までずっと来てたのに、この位のことで諦めていたら、私の覚悟はそれまでだったことになっちゃう。それだけは絶対に……)
そう思いつつ、神蘭は降り続けている雨を睨み付けるように見た。
「…………」
本格的に降り出した雨の中、神蘭は聖波が出てこないかと家の扉を見つめる。
木の下にはいるものの、完全に雨を避けることは出来ず、服に染みてきて、気温が下がってきたこともあり、神蘭は身体を少し震わせた。
(でも、まだ我慢出来ない程じゃない)
体温が徐々に奪われていくのはわかったが、自分で言い聞かせるように内心で呟く。
その間にも雨の勢いは増していき、気温も下がり続ける。
神蘭は少しでも体温を奪われないようにと座り込み、自身の身体を抱え込むようにしていたが、段々意識が薄れていくのを感じた。
3
(…………?)
意識が浮上するような感覚があり、神蘭は目を開ける。
まず見えたのは、自分が雨避けに使っていた木の枝や葉ではなく、何処かの天井だった。
「……ここは?」
「気が付いたのか?」
まだ少しぼんやりとしながらも呟くと、少し呆れたような声が聞こえてくる。
「……聖波さん?」
「馬鹿か、お前。仮にも闘神を目指そうとする奴が変に無理して、体調を崩してどうするんだ?」
言われて神蘭は漸く自分の身体の異変に気が付いた。
何だか身体中が熱く、怠さもあり、関節などにも痛みがあった。
「あれ?」
「……38.5」
「えっ?」
「お前の熱だよ」
溜め息をついた聖波がベッド横の小さな棚の上に持っていた盆を置く。
「熱?」
「ああ。……お前が自分でも気付かない内に無理していたってことだろ?疲れていた所に、この寒い中雨に打たれていたら、当然の結果だろうがな」
言いながら、聖波は神蘭を見据える。
「どうしてそこまでして、闘神になりたい?只、単に空いている席につきたい訳じゃないことは知っているが、何故そんなに封魔を助けようとする?」
「……彼には今まで何度も助けてもらいましたから。私が酷い態度を取っていた時も変わらずに。……それに光鳳様達にも言ったけど、私はそれだけの為に闘神になりたい訳じゃありません。……今までの闘神達が守ってきたものを壊させたくないんです」
「……」
「その為には私はもっと強くならないとならないんです。……闘神になるのが大変だというのはわかっています。でも……」
言葉を続けようとしていた時、聖波が溜め息をつき、神蘭に背を向けた。
「聖波さん?」
「……軽い食事と薬を持ってきてある。それを摂ったら、ゆっくり休んで体調を整えろ。話はそれからだ」
そう言うと、彼は出て行ってしまった。
4
聖波の家で休息をとって二日。
身体から熱っぽさや怠さがなくなった神蘭は、世話になってしまった聖波を探していた。
彼を見付けたのは家の外で、一人の男性と何か話をしていたところだった。
話が終わるのを待っていると、男性は去っていき、気配で気付いていたのだろう神蘭の方へ聖波は歩いて来た。
「もう具合はよくなったのか?」
「はい。お世話になりました」
「いや……、それより一つ頼みたいことが出来た」
「頼みたいこと、ですか?」
「ああ。もし、それを受け、無事にそれを終えることが出来たなら、お前の頼みも聞いてやるよ。……どうだ?」
聖波の言葉に神蘭は一度、瞬きをする。
だが、これはチャンスだと思った。
「……それで頼みたいことというのは?」
「ああ。お前にはこの山の頂上にある薬草を採ってきてもらいたい。薬草の写真ならある」
そう言って聖波が渡してきた写真には、小さな白い花をつけている植物が写っていた。
「これを採ってくればいいんですか?」
「そうだ。……気を付けていけよ」
そう言って、聖波は何か含んだような笑みを浮かべる。
それが気になりはしたが、この機会を逃しては聖波の気が変わってしまうかもしれないと神蘭は出発することにした。