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第1章

1
「此処が、軍の養成所」
数日後、住んでいた町を離れ、軍の養成所へ入ることにした神蘭は、看板のある大きな門の前にいた。
その大きさに少し呆気にとられたが、気を引き締め直す。
(よし、行こう)
そう内心で呟くと、神蘭は大きな扉をゆっくりと開いた。
「あなたが神蘭さんね」
「はい」
事前に用意していた書類を受付に出し、本人確認したところで受付の女性が鍵を出してくれる。
「あなたの部屋は207号室、二人部屋よ。同室者はもう部屋にいると思うわ」
「はい。ありがとうございます」
鍵を受け取りそう返すと、神蘭はこれから自分が生活する寮の部屋へと行くことにした。
(えっと、207号室は……あった)
寮の二階へ来て、『207』と書かれた部屋の前で足を止める。
表札の所には同室者の名前なのだろう『鈴麗』という名が既についていた。
その下に自分の名のプレートを入れ、ドアを叩く。
「はーい」
中から声がして、出てきたのは同じ年くらいの髪が長く、可愛らしい感じの少女だった。
少しきょとんとしていた少女だったが、その表情は笑みへと変わっていく。
「もしかして、あなたが同室者?私は、鈴麗。これからよろしくね」
「私は神蘭。よろしく」
ニコリと笑った少女に、神蘭も笑って返す。
この少女とは仲良くなれるような気がした。
「ねえ、あなたはどうして軍に入りたかったの?」
「えっ?」
荷物を整理していると、鈴麗が話し掛けてきて、その手を止める。
そして、どう答えたらいいのかと少し考えた。
(私は強くなりたいから。強くなって父様の仇をとりたいから、此処に入った。でも……)
その事を正直に話してもいいのかと迷う。
その時、部屋のドアが叩かれた。
「私が出るよ」
そう言ってドアを開けにいく鈴麗に、神蘭は溜め息をついた。
少しして、鈴麗が戻ってくる。
「今の何だったの?」
「明日の入所式のことだよ。明日は、総長や副総長、現闘神の人達も来るんだって」
「闘神……」
その言葉に父を喪った日のことを思い出す。
父が『封魔』『怜羅』と呼んでいた二人とはあれ以来あっていない。
(もし、明日会えたら、あの時言わなかったお礼をちゃんと言って、それから)
「神蘭?」
考えに浸っていた神蘭は、その声に我に返った。
「どうしたの?ぼんやりして」
「ううん。何でもない」
「そう?明日、楽しみだね」
そう言った鈴麗に神蘭は曖昧に頷いた。
2
次の日、入所式が行われる所まで神蘭と鈴麗が来ると、既に入所者達が集まっていた。
「やっぱり、男の人が多いね」
辺りを見回し、鈴麗が言う。
確かに女性の姿もちらほらとあったが、圧倒的に男が多い。
人数が多いからか、色々な話し声がして騒がしい。
だが、それも壇上に総長や副総長、それに続いて闘神達が入ってくると、静まりかえった。
マイクを持った教官らしい男が男女別れて並ぶよう告げ、女性は少ないからかだいぶ壇上に近くなる。
すると、壇上にいた封魔と目が合った。
目が合ったかと思った瞬間、封魔が目を細める。
そして、そのまま機嫌を悪くしたように顔を顰めた。
「?」
式が始まっても、不機嫌そうな封魔が気になったが、式に集中することにする。
式が終わったのは、それから一時間半位してからで、訓練生になった者達が寮へ戻り始める。
「私達も戻ろう」
「うん」
「待て!」
鈴麗に声を掛け、神蘭が歩き出そうとすると、そう声がして腕を掴まれる。
見れば、壇上にいた筈の封魔がそこにいた。
「……話がある。付いて来い。……悪いな。こいつ、少し借りていくぞ」
後半部分を鈴麗に向けていうと、封魔は強い力で神蘭の腕を引っ張った。
3
掴まれた腕を振り払うことも出来ず、神麗は人気のない所まで連れてこられ、そこで漸く手を離された。
それと同時に、それまで神蘭に背を向け、一言も話さなかった封魔が振り返る。
「何故、お前が此処にいる?」
「えっ?」
いきなり問いかけられ、神蘭は目を丸くする。
「何故って」
「父親に反対されてたんじゃないのか?」
その言葉に、彼が父の上司だったということを思い出す。
となれば、父が神蘭のことを話していたとしても、おかしくはなかった。
「……確かに、反対された。でも、私は」
「……あいつは、軍に興味を持っているお前のことをいつも心配していた。男ならともかく女のお前を軍人にはしたくない。命のやり取りなどしない世界で生きてほしいと言って、何度か相談してきたこともある」
「……」
神蘭の言葉を遮るように言われ、言葉に詰まる。
「お前の父は最期まで軍に入ることを望んではいなかった。それでも、入るというのか?」
「ええ。決めたの。父様の仇を取るって」
「そんな事、余計にあいつは望んでいない!だから、あいつは俺に頼んだんじゃないのか?」
「それは私が頼んだことじゃないし、望んだことじゃない!そもそもあなたがもっと早く来てくれれば、父様は助かったかもしれない。……部下一人守れない人に、私は私の命を預けることなんて出来ない」
声を荒げた封魔に対抗するように言い返すと、彼は再び背を向けてしまった。
「……一年だ」
「えっ?」
「一年だけ様子を見る。その間、軍人としての素質、才能がないと判断したら、俺はお前をやめさせる。……どんな手を使ってでもな」
そう言って、封魔は姿を消す。
その言葉は、彼の妥協案のようだった。
(私は、もう決めたんだ。月夜を倒す為に強くなるって。だから、まずは軍に入らないと。一年でやめさせられる訳にはいかない!)
そう思いながら、神蘭は封魔がいなくなった場所を見つめていた。
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