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第4章

1
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、起きて」
「ん?」
声と共に身体を揺すられ、神蘭は目を開ける。
目の前には起こしてくれた由良の顔があり、にっこりと笑ってくる。
「おはよう、お姉ちゃん」
「……おはよう、由良」
そう返しつつ、身体を起こす。
「お姉ちゃん、今日はお休みだったよね」
「……うん」
聞いてくる由良に頷くものの、神蘭の頭の中にあるのは、任務の間に見た封魔の様子と総長の言葉だった。
(何だか敵味方の区別もついていないみたいだった。それに、殺戮人形って言ってたけど……)
戦いをまるで楽しんでいたような封魔。
彼のことを兵器といい、『殺戮人形』と呼んでいた総長。
最近色々と様子がおかしかったことを思えば、誰もが知らないところで封魔は変わってしまっていたのだろう。
(やっぱり、ちゃんと話をしておけばよかった)
そう思っても、手遅れのような気がした。
「お姉ちゃん?どうしたの?さっきからなんだか変だよ」
由良の声に神蘭は我に返る。
「えっ……、ああ……」
「気分悪いの?」
「ううん、そうじゃないよ」
心配そうに声を掛けてくる由良にそう返して、時計を見る。
今日は休みだった為、少しゆっくりしようかとも思っていたが、気分転換に出掛けるのもいいだろうと由良に視線を向ける。
「……折角の休みだし、買い物にでも行こうか」
「うん!行く、行く!」
声を掛けた途端嬉しそうに声を上げた由良に、神蘭は笑みを零した。
2
市場へと来て食料など必要な物を買い足してから、何となく見て回る。
市場の中は賑わい、穏やかな空気に包まれていて、最近殺伐とした空気の中にいることの多かった神蘭にとって、その雰囲気は新鮮に感じられた。
「あっ……!」
その時、一緒にいた由良が何かに気付いたように声を上げた。
「由良?」
「あのお兄ちゃん、前に助けてくれたお兄ちゃんだよね」
そう言って止める間もなく、彼女は走り出す。
その先には、神蘭と同じように休みを与えられたのか封魔の姿があった。
「お兄ちゃーん」
「ちょ……、由良!」
声を上げる由良を制止しようとするが、その前に気付いたらしい封魔が振り返る。
その表情はまだ彼の様子がおかしくなる前と同じように見えた。
「何だ、お前達か。何の用だ?」
(あれ?)
「あのね、お兄ちゃんも前に助けてくれたでしょ?ありがとうってお礼まだ言ってなかったから言おうと思ったの」
様子がおかしい時のことなど知らない由良がニコリと笑いながら言う。
「お前を助けたのは、神蘭達だろ」
「そうだけど、お兄ちゃんも助けてくれたよ。ね、お姉ちゃん」
「えっ?……あ、うん」
話を振られて神蘭は頷く。その時、封魔が見慣れない腕輪をしていることに気付いた。
「それは?」
「これか?これは……」
神蘭の視線に気付いた封魔が腕輪を見る。
その腕輪はシンプルなもので、一つだけ水晶のようなものがついている。
それに封魔が答えようとした時、その腕輪の水晶が光り始めたかと思うと、カチッと小さな音が聞こえ彼の腕から勝手に外れる。
その瞬間、彼の雰囲気が重苦しいものへと変わった。
「っ、由良!」
「えっ?何?」
雰囲気が変わったことに戸惑う由良を神蘭は咄嗟に彼から離す。
それはこの間村で出会った時の様子を思い出しての警戒だったが、封魔はそんな二人を興味なさそうに見てから姿を消してしまった。
「…………」
「お姉ちゃん、これ……」
地面に落ちた腕輪を由良が拾い上げる。
付いていた水晶は今は光を失い、黒ずんでいた。
「うーん」
「「!?」」
その時、背後から女性の声が聞こえてきて、神蘭は振り返る。
そこにはノートに何かを書き込んでいる一人の女性がいた。
3
「はい、どうぞ」
「わぁーい、ありがとう」
「……ありがとうございます」
目の前に菓子と茶を出され、由良は嬉しそうに声をあげる。
神蘭は礼は言いつつも、女性を警戒するように見た。
「あの……、あなたは?」
「私は神麗。神界軍直属で武器や色々な装置を作ったりしてるの」
「じゃあ、これは……」
そう言いつつ、封魔がいなくなった後、拾った腕輪を取り出す。
「そう。それも私が作ったの。ある方々に頼まれてね。……まぁ、まだデータを取っている途中の試作品なんだけどね」
「これは一体何なんですか?これをつけてる時には普通だったのに外れたら……」
「そうそう、急にお兄ちゃんは様子がおかしくなっちゃったの。何だか怖かったよ」
神蘭と由良の言葉に、神麗は少し困ったような表情をした。
「…….私は詳しい事情は知らないけど、ある方々に頼まれたのは制御装置よ」
「制御装置……」
「そう。どうやったのかは知らないけど、限界以上の力を持たせた結果、理性まで失ってしまうみたいでね。……敵味方の区別位つくようにしたいのだけど、加減が難しいの。もう少し色々調べてデータを取れればいいんだけど、闘神としての任務も忙しいみたいだしね」
「…………」
「でもね、私が制御装置を作ることを了承したのも、ある方々が私に依頼してきたのも……彼を救う為よ」
「救う為?」
神麗は大きく頷いた。
「ええ。作り始める前に計測させてもらったのだけれど、あれだけの力を制御することもなくずっと放置した場合、制御したとしてその二つの力の差が極度に違う場合、身体への負担はかなり大きい。……放っておけばいずれ彼の身体を滅ぼすことになる」
「どうすれば……?」
「……私は制御装置の完成を急ぐわ。そして、データ以外にもう一つ必要なものがあるの」
「それは?」
「新たな闘神よ。一人でも二人でもいい。とにかく彼の負担を少しでも減らすこと。それによって、私の作業も進むはずよ」
(闘神……)
「とはいえ、それは簡単なことじゃないわ。まして今は有事の真っ最中。闘神になる為に修行するといっても、そう簡単には時間をとれないでしょうね」
「……それでも、誰かがならなければ、現状は変わらないんですよね?」
それに神麗は頷いて、更に続けた。
「もし闘神になる決意をした人がいたなら、過去の闘神達に相談してみたら良いんじゃないかしら」
神蘭が少し迷っているのに気付いたのだろうか、神麗はアドバイスのようなことを言った。
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